2つの恒星を公転する「周連星惑星」視線速度法による地上からの観測で初めて検出成功
sorae.jp / 2022年2月25日 11時57分
バーミンガム大学のAmaury Triaud教授を筆頭とする研究グループは、地上の望遠鏡による「視線速度法」(後述)と呼ばれる観測手法を用いることで、連星を公転するタイプの太陽系外惑星である「周連星惑星」を検出することに成功したとする研究成果を発表しました。
周連星惑星(circumbinary planet)は連星を成す2つの恒星をどちらも公転している系外惑星のことで、映画「スター・ウォーズ」シリーズの舞台のひとつである双子の太陽を持つ惑星「タトゥイーン」によく例えられます。研究グループによると、周連星惑星を視線速度法で検出したのは今回が初めてのことだといいます。
■既知の周連星惑星「ケプラー16b」を視線速度法で初検出Triaudさんたちが観測したのは、「はくちょう座」の方向およそ245光年先にある系外惑星「ケプラー16b」です。ケプラー16bはアメリカ航空宇宙局(NASA)が運用していた宇宙望遠鏡「ケプラー」の観測によって、2011年9月に「初めて見つかった周連星惑星」として発見が報告されていました。ケプラー16bは木星と比べて直径は約0.754倍・質量は約0.333倍のガス惑星だと考えられており、連星「ケプラー16」を約229日周期で公転しています。
研究グループは今回、フランスのオート=プロヴァンス天文台にある口径193cmの望遠鏡に取り付けられた分光観測装置「SOPHIE」によって2016年7月~2021年6月にかけて取得された、恒星「ケプラー16A」の観測データを調べました。ケプラー16Aは連星であるケプラー16を成す恒星の1つ(質量は太陽の約0.65倍)で、もう1つの恒星「ケプラー16B」(質量は太陽の約0.2倍)とともに、共通重心の周りを約41日周期で公転しています。
恒星ケプラー16Aの視線速度(地球から見た視線方向の速度)の変化を分析した結果、研究グループは系外惑星ケプラー16bを独立して検出することに成功しました。研究グループはケプラー16bの質量を木星の約0.313倍と算出しています。
ケプラー16bを発見したケプラー宇宙望遠鏡や、現在NASAが運用している系外惑星探査衛星「TESS」は、恒星の手前を横切った系外惑星を「トランジット法」(後述)と呼ばれる観測手法を用いて検出しています。いっぽう、オート=プロヴァンス天文台のSOPHIEによる観測データは、系外惑星の公転にともなう恒星の動きをもとに系外惑星を検出する「視線速度法」に利用することができます。
周連星惑星はケプラー16b以外にも幾つか発見されていますが、これまで視線速度法で検出された例はなかったといいます。冒頭でも触れたように、研究グループは今回「初めて視線速度法で周連星惑星を検出することに成功」したことになります。
今回の研究では既知の周連星惑星が観測対象となりましたが、この成果は視線速度法を用いた新たな周連星惑星の検出につながるものとして期待されています。
恒星と惑星の重力を介した結びつきを利用している視線速度法では、惑星の基本的な情報のひとつである質量(最小質量)を求めることができます。また、検出された系外惑星とは別に存在する未発見の系外惑星を示す兆候にも、視線速度法は敏感な観測手法とされています。研究に参加したマルセイユ大学のIsabelle Boisse博士は「ケプラー16bを検出できることが示されたので、今後は他の多くの連星に関する観測データを分析し、新たな周連星惑星を探します」と語ります。
さらなる周連星惑星の発見が期待されているのは、惑星の形成に関する理解を深めることにつながるからです。惑星は若い星を取り囲むガスと塵でできた「原始惑星系円盤」のなかで塵が集まる(降着する)ことで形成されると考えられていますが、研究を率いたTriaudさんは「標準的な理論で周連星惑星の存在を説明するのは困難です。2つの恒星が原始惑星系円盤に干渉して、塵が惑星に降着するのを阻むからです」と指摘します。
「周連星惑星は連星の影響が弱い離れた場所で形成された後に移動してきた可能性があります。あるいは、惑星の降着プロセスに関する私たちの理解を修正する必要があるかもしれません」(Triaudさん)
■系外惑星の観測に用いられる視線速度法&トランジット法「視線速度法(ドップラーシフト法)」とは、系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる主星の動きをもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。
惑星の公転にともなって主星が揺れ動くと、光の色は主星が地球に近付くように動く時は青っぽく、遠ざかるように動く時は赤っぽくといったように、周期的に変化します。こうした主星の色の変化は、天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測を行うことで検出されています。視線速度法の観測データからは系外惑星の公転周期に加えて、系外惑星の最小質量を求めることができます。
▲系外惑星の公転にともなって主星のスペクトルが変化する様子を示した動画▲
(Credit: ESO/L. Calçada)
もう一つの「トランジット法」とは、系外惑星が主星(恒星)の手前を横切る「トランジット(transit)」を起こした際に生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。アメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS」などは、この手法を用いて系外惑星の探査を行っています。
繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。また、トランジット時の主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能です。
▲系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画▲
(Credit: ESO/L. Calçada)
関連:NASA探査衛星「TESS」の観測データから新たな手法で「周連星惑星」を発見
Source
Image Credit: NASA/JPL-Caltech, R. Hurt, T. Pyle バーミンガム大学 - 'Tatooine-like' exoplanet spotted by ground-based telescope Triaud et al. - BEBOP III. Observations and an independent mass measurement of Kepler-16 (AB) b – the first circumbinary planet detected with radial velocities文/松村武宏
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