電波強度が周期的に変化するクエーサー、超大質量ブラックホールの連星が存在する可能性
sorae.jp / 2022年3月14日 21時10分
【▲ 2つの超大質量ブラックホールからなる連星の想像図。片方のブラックホールからはジェットが噴出している(Credit: Caltech/R. Hurt (IPAC) )】
カリフォルニア工科大学(Caltech)の学部生Sandra O'Neillさんを筆頭とする研究グループは、「みずがめ座」の方向約88億光年先にあるクエーサー「PKS 2131-021」の半世紀近くに渡る観測データを分析した結果、クエーサーの中心に2つの超大質量ブラックホールからなる連星ブラックホールが存在する可能性を示した研究成果を発表しました。
■数億太陽質量のブラックホール2個からなる連星ブラックホールが存在する可能性銀河のなかには中心部分の狭い領域から強い電磁波を放射する「活動銀河核」(AGN:Active Galactic Nucleus)を持つものがあり、そのなかでも特に明るいものは「クエーサー」(quasar)と呼ばれています。クエーサーを含む活動銀河核の原動力は、質量が数十万~数十億太陽質量(※1太陽質量は太陽1個分の質量)にも達する超大質量ブラックホールだと考えられています。
関連:宇宙で最も明るい天体「クエーサー」とは?
2008年以降に取得されたクエーサー「PKS 2131-021」の電波での観測データを分析した研究グループは、PKS 2131-021の電波強度が時間とともに正弦波のパターンに沿った周期的な変動を示していることに偶然気が付いたといいます。そこで、研究グループが1970年代後半~80年代初頭に取得されたPKS 2131-021の過去の電波観測データも分析してみたところ、同様の正弦波パターンに沿った電波強度の変動が確認されました。
「最近検出された光度曲線(※)の山と谷が1975年から1983年に観測された山と谷に一致することに気付いた時、私たちはとても特別な何かが起きていると確信しました」(O'Neillさん)
※…時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線、ライトカーブ
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2022/03/Light-Curve-PKS-2131-021.jpg)
【▲ 観測されたPKS 2131-021の電波強度を示した図。1970~80年代(緑)と2008年以降(青)の変動が同じ正弦波パターンに沿っている(Credit: Tony Readhead/Caltech )】
研究グループは電波強度の変動に正弦波パターンが生じる理由について、2つの超大質量ブラックホールが連星を成しているからではないかと考えています。2つのブラックホールが共通重心の周りを公転しているために、ドップラー効果によって電波強度が周期的に変化しているのではないかというわけです。電波は片方のブラックホールから光速にきわめて近い速度で噴出するジェットに由来するものとみられています。
研究グループが注目したのは、変動のパターンが休止期間をまたいでも安定している点でした。PKS 2131-021で検出された正弦波パターンに沿う電波強度の変動は1970年代からずっと継続していたわけではなく、途中で20年ほどの休止期間を挟んでいます。これは超大質量ブラックホールに落下する物質の量が変化したためではないかと考えられています。
研究に参加したカリフォルニア工科大学名誉教授のAnthony Readheadさんは「20年の隔たりを越えた安定性は、このクエーサーが1つの超大質量ブラックホールではなく、互いに周回する2つの超大質量ブラックホールを宿していることを強く示唆しています」と語ります。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2022/03/SMBH-binary-PKS-2131-021-animation.gif)
【▲ 公転する超大質量ブラックホールの連星を描いたアニメーション。片方のブラックホールからはジェットが噴出している(Credit: Caltech/R. Hurt (IPAC) )】
連星をなす2つの超大質量ブラックホールの質量はどちらも数億太陽質量で、約2000天文単位(太陽から冥王星までの距離の約50倍)離れていると推定されています。連星の公転周期は約2年だと考えられていますが、膨張する宇宙を伝わるうちに電磁波の波長が伸びるため、地球では約5年周期の変動として検出されているといいます。
また、2つの超大質量ブラックホールは少しずつ接近しつつあり、約1万年後に合体して重力波を放出すると考えられています(※人類は約88億年前にPKS 2131-021を発した光を捉えていますが、ここでは合体を進行中の事象として表現しています)。これほど重いブラックホールどうしの合体で放出される重力波は周波数が低く、現在稼働しているアメリカの「LIGO」のような重力波望遠鏡では捉えられないものの、低周波の重力波検出を目指す観測手法「パルサータイミングアレイ」を用いて検出できるようになることを研究グループは期待しています。
※記事中の距離は天体が発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。
関連:2020年に発見が報告された「1000光年先のブラックホール」は存在しなかった
Source
Image Credit: Caltech/R. Hurt (IPAC) Caltech - Colossal Black Holes Locked in Dance at Heart of Galaxy Purdue University - Scientists announce discovery of supermassive binary black holes: Two black holes orbiting one another eventually will merge 国立天文台 - 遠い天体の距離について文/松村武宏
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