宇宙栽培レタスが宇宙飛行士を救う! 月面農場や火星探査も視野に入れた実証実験
sorae.jp / 2022年3月30日 17時6分
昨年(2021年)10月22日付けで発表されたJAXAのプレスリリースによると、JAXA、竹中工務店、キリンホールディングス、千葉大学、東京理科大学は、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟内で、世界初となる宇宙での袋型培養槽技術によるレタス生育の実証実験を実施しました。
今回の実験は、2021年8月27日から10月13日までの48日間行われ、9月10日にはレタスの本葉を確認し、その後も順調な生育を続け、収穫に至ったということです。
実証実験用に開発された栽培装置は、打ち上げ時の積載重量低減のため、大きさ(幅44cm×奥行35cm×高さ20cm)と重量(5kg)を抑えながらも、3袋の栽培が可能です。
袋型培養槽技術は、密閉した小型の袋内で植物を栽培するため、雑菌の混入を防ぎ、臭気も発生しないコンパクトなシステムです。さらに、設備もメンテナンスしやすく、省エネルギー性があり、人数に合わせた数量調整も容易とのこと。
今後は、この栽培方式の優位性を評価し、生育したレタスに食品衛生上の問題がないかの確認や、栽培後の培養液を分析し、環境制御・生命維持システムでの再利用処理の可能性の確認も実施される予定です。
将来的には、このような特長を備えた袋型培養槽技術を用いることで、惑星探査のための長期にわたる宇宙船内滞在時や、月面に農場を設営するなど、滞在施設での食料生産への活用が期待されています。
一方、2022年3月22日、アメリカ化学会の春季大会で、宇宙で栽培されたレタスが、宇宙飛行士の骨量減少を防ぐのに役立つ可能性があるとの研究発表が行われました。
これまでの宇宙飛行士に関する研究によると、宇宙で1ヶ月間過ごすと平均1%以上の骨量が減少することが分かっています。これは「骨減少症」として知られています。そのため、ISSに滞在する宇宙飛行士は、骨量を維持するために、一定の運動療法を行っています。
しかし、宇宙飛行士は、通常、ISSに6ヶ月以上滞在しているわけではありません。ところが、今後火星探査が現実のものとなると、往復の行程と探査を含め3年間にも及ぶミッションになります。そうなると、宇宙飛行士は骨減少症どころか「骨粗鬆症」になる可能性があります。
ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)のペプチド断片を含む薬剤は、骨形成を促進し、微小重力下での骨量の回復に役立つと考えられていますが、毎日注射をする必要があります。しかし、大量の薬剤と注射器を輸送し、ミッション中に投与することは非現実的です。
そこで、カリフォルニア大学デービス校のYates、Nandi、McDonaldの3氏は、宇宙飛行士が自分で(骨量減少の防止に役立つ)野菜を生産する方法を見つけようと考えました。そうなれば、宇宙飛行士の食事は缶詰やフリーズドライが多いので、不足しがちな野菜をサラダにして美味しく食べることができます。
つまり、PTHペプチドを注射ではなく、経口摂取できる形で発現する遺伝子組み換えレタスを開発しようと考えたのです。宇宙飛行士は、親指ほどの大きさの小瓶に数千個の遺伝子組み換えの種子を入れて持ち運び、普通のレタスのように育てることができます。
宇宙飛行士が十分な量のホルモンを摂取するには、生物学的利用能(bioavailability)を約10%と仮定して、毎日約380グラム、つまり約8カップのレタスを食べる必要があることになります。
安全性が確立されていないため、まだ試食はしていないとのことですが、他の多くの遺伝子組み換え植物と同様に、通常のレタスとよく似た味になると予想されています。
研究者たちが今やっていることの一つは、これらの遺伝子組み換えレタスの系統をすべてスクリーニングして、発現量が最も高いものを見つけることだと言います。それが見つかれば、摂取する必要のあるレタスの量も少なくて済むからです。
今後は、動物やヒトの臨床試験で、レタスが安全に骨量減少を防ぐことができるかどうかを検証し、ISSでもこの遺伝子組み換えレタスの生育をテストしたいと研究者たちは考えています。
さらに、このレタスは、地球上の資源が乏しい地域で骨粗鬆症を防ぐのに役立つかもしれない、と研究者は語っています。
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Source
Image Credit: JAXA/NASA/竹中工務店/キリンホールディングス/千葉大学/東京理科大学/Kevin Yates JAXA - 国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟で世界初となる袋型培養槽技術による栽培実験を実施 American Chemical Society - Space-grown lettuce could help astronauts avoid bone loss文/吉田哲郎
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