約131億光年先で見つかった天体、ブラックホール急成長の謎を解く鍵となるか
sorae.jp / 2022年4月16日 19時6分
こちらは「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影した「おおぐま座」の一角です(※)。無数の銀河が散りばめられた視野の中央に、小さな赤い点のような天体が捉えられているのがわかりますでしょうか。この天体は、初期宇宙における巨大なブラックホールの謎を解明する上で重要な存在となるかもしれません。
コペンハーゲン大学の藤本征史さんを筆頭とする研究グループは、約131億光年先の宇宙で塵に覆われたコンパクトな天体を発見したとする研究成果を発表しました。冒頭の画像中央に写る小さな赤い点がその天体で、研究グループからは「GNz7q」と呼ばれています。
関連:光さえも脱出できないほど重力が強い天体「ブラックホール」とは?
※…画像はハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」および「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」による紫外線・可視光線・赤外線の観測データを合成して作成
■初期宇宙における超大質量ブラックホール急成長の謎を解く鍵となるか近年では、約138億年前のビッグバンから10億年と経たない初期の宇宙において、すでに太陽数億個~十数億個分もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在していたと考えられています。こうした巨大なブラックホールは(宇宙の歴史としては)短期間で急成長を遂げたとみられており、天文学者たちは超大質量ブラックホールの誕生と成長の謎を解くための研究に取り組んでいます。
ブラックホールを可視光線やX線といった電磁波で直接観測することはできませんが、ブラックホールの活動にともなって放射される電磁波を観測することで、間接的に存在を捉えることができます。たとえば初期宇宙では、「活動銀河核」(AGN、狭い領域から強い電磁波を放射する銀河中心核)のなかでも特に明るい「クエーサー(quasar)」が存在していたことが知られています。クエーサーをはじめ活動銀河核の原動力は超大質量ブラックホールだと考えられていることから、その時代すでに巨大なブラックホールが誕生していたと推測できるわけです。
発表によると、クエーサーの原動力とされる超大質量ブラックホールは、塵が豊富なスターバースト銀河(爆発的な星形成活動が起きている銀河)の中心で形成され始めたと予想されています。ブラックホールが周囲の物質を取り込んで成長すると、降着円盤(らせんを描きながらブラックホールに落下していく物質でできた円盤構造)から放出されたエネルギーが周囲の塵やガスを吹き飛ばしていきます。最後には成長した超大質量ブラックホールと輝く降着円盤が銀河の中心部に姿を現し、クエーサーとして観測されるようになる、というわけです。
スターバースト銀河とクエーサーは、どちらもビッグバンから数えて7~8億年後の宇宙で見つかっているといいます。しかし、2つの天体を結びつける、超大質量ブラックホール急成長の謎を解く鍵になりそうな天体は、これまで発見されたことはありませんでした。
ハッブル宇宙望遠鏡の観測データから見つかったGNz7qを研究グループが詳しく調べたところ、この天体がビッグバンから約7億5000万年後に存在していたことがわかりました。X線から電波にかけてのスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)の特性からは、GNz7qがスターバースト銀河の中心部で急速に成長しているブラックホールの可能性が示されたといいます。つまりGNz7qは、これまで未発見だったスターバースト銀河とクエーサーの間の“ミッシングリンク”を埋める存在であり、超大質量ブラックホールの起源を理解する上で重要な天体かもしれないのです。
研究を率いた藤本さんは「GNz7q は、宇宙初期で見つかっている超巨大ブラックホールの先駆体だと考えられます」とコメント。GNz7qに潜む巨大なブラックホールやその母銀河の成長過程、物理的な性質をより詳細に調べるために、藤本さんは2022年夏から科学観測を始める予定の新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」に期待を寄せています。
また、天文学者たちは、GNz7qが発見された領域にも驚かされたといいます。
実は冒頭の画像は、初期宇宙における銀河の形成や進化の研究を目的に実施されたサーベイ観測「GOODS(Great Observatories Origins Deep Survey)」のうち、北天に設定された「GOODS-North」領域の一部を拡大したものです。GOODS-Northは天文学者たちによってよく研究されている領域のひとつであり、現時点で観測史上最遠(※)だと確認されている約134億光年先の銀河「GN-z11」もこの領域で見つかりました。
※…確認待ちの銀河候補としては「ろくぶんぎ座」の方向約135億光年先の「HD1」が2022年4月に報告されています(関連記事参照)
「GNz7qの発見は、最もよく研究されていた天域の中心で起きた出来事で、大発見がしばしば我々のほんの目の前に隠れていることを示しています」そう語るコペンハーゲン大学のGabriel Brammer(ガブリエル・ブラマー)さんは、GOODS-Northという限られた領域でGNz7qが見つかったのは単なる偶然ではないと考えています。「むしろ、このような天体の出現率は、これまで考えられていたよりもかなり高いかもしれません」(Brammerさん)藤本さんによれば、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」に設置されている「超広視野主焦点カメラ(HSC)」による観測で100個以上発見されている初期宇宙のクエーサーについても、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」やウェッブ宇宙望遠鏡による観測が予定されているといいます。GNz7qのような天体がさらに見つかれば、初期宇宙で急成長した超大質量ブラックホールを統計的に調べられるようになると藤本さんは期待しています。
〈記事中の距離は、天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています〉
関連:約135億光年先に存在する銀河の候補を発見。観測史上最遠の可能性
Source
Image Credit: NASA, ESA, G. Illingworth (University of California, Santa Cruz), P. Oesch (University of California, Santa Cruz; Yale University), R. Bouwens and I. Labbé (Leiden University), and the Science Team, S. Fujimoto et al. (Cosmic Dawn Center [DAWN] and University of Copenhagen) 国立天文台ハワイ観測所 - 131 億光年かなたに潜む、超巨大ブラックホールの前兆を発見 STScI - Hubble Sheds Light on Origins of Supermassive Black Holes ESA/Hubble - Astronomers Detect Supermassive Black Hole Precursor Lurking in Archival Hubble Data 国立天文台 - 遠い天体の距離について文/松村武宏
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