金星のゆっくり自転が温室効果を暴走させた可能性。二つの現象の意外な関係
sorae.jp / 2022年5月3日 22時16分
一見無関係にも思われる二つの現象(「潮汐ロック」と「暴走温室効果」)を結びつけた研究成果が発表されました。
月はいつも同じ面を地球に向けて、地球の周りを公転しています。これは、月の公転周期と自転周期が同じ約27.3日であることを意味しています。このような公転周期と自転周期が一致している状態を潮汐ロックと呼びます。
潮汐ロックは、地球と月との関係だけで見られる現象ではありません。例えば、火星とその2つの衛星や、木星とその4大衛星である「ガリレオ衛星」との間にも潮汐ロックが生じています。また、系外惑星とその主星との関係でも報告されている現象です。
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つまり、潮汐ロックとは、天体の質量や距離にもよりますが、大きな星(主星)の重力が小さな星の回転に影響を及ぼしている状態と言えるでしょう。
一方、地球温暖化や気候変動の問題では温室効果が話題になります。
よく知られているように、地球の大気には二酸化炭素などの温室効果ガスと呼ばれる気体が含まれています。これらの気体は赤外線を吸収し、再び放出する性質を持っています。そのため、太陽光(放射エネルギー)で暖められた地球の表面から地球の外に向かう赤外線の多くが、熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってきます。
この戻ってきた赤外線が、地表付近の大気を暖めます。これが温室効果です。しかし、温室効果ガスが増えると、地表面の温度が高くなっていきます。その結果、気候が変化し、生態系や人間社会にさまざまな影響を及ぼすことが懸念されています。
さらに、外から入ってくるエネルギーが外へ出て行くエネルギーを上回る状態になり、その状態が継続すると、気温は上昇し続け暴走状態になります。これが暴走温室効果の状態です。
さて、「明けの明星」や「宵の明星」として親しまれている金星は、地球と大きさや重さなどが似ていることもあり、しばしば地球の「姉妹星」と呼ばれます。しかし、実際には異なる点も多いのです。
金星の自転周期は地球と大きく異なり、1回の自転が地球の約243日に相当します。金星の公転周期は約225日なので、自転周期の方が長くなっています。ところが、金星の大気は約4日で一周しています。大気の上層部では秒速100メートルにも達する強風が吹いていることになります。そのため、自転速度を超えるという意味で「スーパーローテーション」と呼ばれています。
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金星を循環する高速の風は、大気を表面に沿って引きずり、自転を遅らせ、同時に太陽による重力の支配を緩めています。ゆっくりとした自転は金星の気候に大きな影響を与え、金星の平均気温は華氏900度(摂氏480度)にも達します。これは、鉛が溶けるほどの高温です。
これほどの高温になる理由の一つは、太陽エネルギーのほぼすべてが、金星の大気に吸収され、地表に到達しないためです。また、金星大気から太陽エネルギーが出ていかず、金星表面の冷却を妨げています。つまり(可能性として)暴走温室効果の状態にあるということです。潮汐ロックが暴走温室効果に寄与しているかどうかは不明ながら、このような状態になると、最終的には生命が住めなくなります。
論文の筆頭著者であるカリフォルニア大学リバーサイド校(University of California, Riverside:UCR)の天体物理学者スティーブン・ケイン(Stephen Kane)氏は「金星の強力な大気は、その自転速度に至るまで、あらゆるものに影響を与える、統合された全体の重要な要素であることを教えてくれます」と語っています。
将来のNASAミッションの対象となる可能性が高い系外惑星を研究するためにも、潮汐ロックの影響を解明することは重要です。人間が系外惑星を直接訪問することはできないかもしれませんが、地球のすぐそばにある金星がそのチャンスを与えてくれているのです。
また、金星で温室効果が暴走しているとすれば、その要因を明らかにすることは、地球の気候が今後どうなるかというモデルを改善することにもつながります。
「金星を研究する私の動機は、最終的に地球をよりよく理解することです」と、ケイン氏は語っています。
月と金星が並ぶ光景は、私たちの心を癒やしてくれます。しかし、月も金星も生身の人間が住める環境ではないことを思うと、いまの地球環境の有り難さが身に染みるのではないでしょうか。
Source
Image Credit: NASA/SDO, ISAS/JAXA, NASA/Bill Dunford UCR / Nature Astronomy文/吉田哲郎
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