大小さまざまなブラックホール連星を描いた動画、NASAが公開
sorae.jp / 2022年5月7日 18時52分
まずは以下の動画をご覧下さい。真っ黒くて小さな何かを取り囲むように渦巻く赤色の雲と、そのかたわらで輝く天体の大小様々なペア。アメリカ航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙飛行センターが公開したこの動画では、天の川銀河と大マゼラン雲(大マゼラン銀河とも)で見つかっている22組のブラックホール連星(ブラックホールを含む連星)が、それぞれ同じ縮尺で描かれています。
動画におけるブラックホール連星の公転周期は、現実の約2万2000分の1に短縮。恒星の赤色から青白色までの色合いは、太陽と比較した表面温度(0.45~5倍)を示しています。また、連星の公転軌道面の傾きは、地球から見た角度に合わせられています。
【▲ 太陽系から比較的近い22組のブラックホール連星を描いた動画「NASA's Black Hole Orrery」】
(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center and Scientific Visualization Studio)
太陽よりも8倍以上重い恒星は、生涯の最後に超新星爆発の一種「II型超新星」(※)を起こして中性子星やブラックホールを残すと考えられています。NASAによれば、誕生時の質量が太陽の約20倍以上あった重い恒星の場合、残されるのはブラックホールだといいます。この恒星が別の恒星と連星を成していた場合、ブラックホールを含むブラックホール連星が誕生することになります。
※…核融合反応によるエネルギーで自重を支えられなくなった恒星のコア(核)が崩壊し、その反動で外層が吹き飛ぶことから「コア崩壊型」や「重力崩壊型」とも呼ばれる。
ブラックホール連星では恒星の外層から直にガスが流れ込んだり、恒星の表層から吹き出た恒星風が強い重力に捉えられたりすることで、ブラックホールにガスが落下していきます。ガスはまっすぐブラックホールに向かうのではなく、らせんを描きながら落下していくため、ブラックホールの周囲には降着円盤と呼ばれる構造が形成されます。動画では、降着円盤はブラックホールを取り囲む赤い渦巻く雲のような姿で描かれています。
降着円盤の温度は非常に高く、ここから可視光線やX線といったさまざまな波長の電磁波が放射されていると考えられています。ブラックホールそのものを電磁波で観測することはできませんが、ブラックホールに物質が流れ込むことで形成される降着円盤からの電磁波を捉えることで、間接的にブラックホールの存在を知ることができるのです。
動画を再生していくと、4組の特徴的なブラックホール連星がクローズアップされます。最初に登場する「MAXI J1659」(MAXI J1659-152、へびつかい座の方向約2万9000光年先)は、降着円盤を持つブラックホールが含まれる既知の連星としては最も短い、約2.4時間周期で公転。次に登場する「A0620-00」(いっかくじゅう座X-1)は、同種のブラックホール連星としては太陽系に最も近い約3300光年先にあります。
3番目に登場する「Cygnus X-1」は、日本語の「はくちょう座X-1」という名前を聞いたことがある人も多いでしょう。はくちょう座の方向約7200光年先にある「はくちょう座X-1」のブラックホールは、観測史上初めて見つかったブラックホールとして知られています。
最後に登場する「GRS 1915」(GRS 1915+105、わし座の方向約8200光年先)は、降着円盤を持つブラックホールが含まれる既知の連星としては最も幅が大きな連星系とされています。NASAによると、GRS 1915の降着円盤は半径が8000万kmよりも大きい可能性があるといいます。これは太陽から水星までの平均距離(約5800万km)を上回ります。
1964年に「はくちょう座X-1」が発見されてから約60年。宇宙に潜む謎めいた天体であるブラックホールを探し続けてきた人類、その科学的成果を視覚化したNASAの動画をしばし楽しんでみませんか?
関連:存在が予測されていた「電子捕獲型超新星」ついに観測 国内アマチュア天文家も貢献
Source
Image Credit: NASA's Goddard Space Flight Center and Scientific Visualization Studio NASA - NASA Visualization Rounds Up the Best-Known Black Hole Systems NASA/GSFC - NASA's Black Hole Orrery文/松村武宏
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