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「後輩に道を譲りたい」野口聡一宇宙飛行士がJAXA退職を前に記者会見

sorae.jp / 2022年5月26日 21時33分

【▲ ISS滞在中の野口聡一宇宙飛行士。2021年12月27日撮影(Credit: NASA)】

【▲ ISS滞在中の野口聡一宇宙飛行士。2021年12月27日撮影(Credit: NASA)】

2022年6月1日をもって宇宙航空研究開発機構(JAXA)を退職する野口聡一宇宙飛行士。退職まで残すところ1週間となった5月25日に、野口さんは記者会見を開きました。

JAXAの第3回宇宙飛行士候補者募集に応募した野口さんは、1996年5月に宇宙飛行士候補生として選抜。同年8月からアメリカ航空宇宙局(NASA)の第16期宇宙飛行士養成コースに参加して訓練を受け、2年後の1998年4月にミッションスペシャリスト(MS:搭乗運用技術者)としてNASAに認定されました。

2005年から2021年にかけて合計3回のミッション(詳しくは後述)に参加した野口さん。宇宙飛行士として選抜されてからの26年を、あっという間だったと振り返っています。

【▲ JAXA退職を前に記者会見に臨む野口聡一さん(記者会見のライブ配信アーカイブより)(Credit: JAXA)】

【▲ JAXA退職を前に記者会見に臨む野口聡一さん(記者会見のライブ配信アーカイブより)(Credit: JAXA)】

野口さんは3回目のミッションを無事終えた頃から、搭乗を待つ後輩の宇宙飛行士や今後選抜される宇宙飛行士たちに道を譲りたいと考えるようになり、退職を決断するに至ったといいます。会見の冒頭、野口さんはご家族とJAXAへの感謝の言葉を述べるとともに、老子の「功遂げ身退くは、天の道なり。」(功遂身退、天之道也。りっぱな仕事を成し遂げたら、その地位にとどまらず退くのが、自然の理にかなった身の処し方である)という言葉を引用しています。

【▲ 野口飛行士の初飛行となったSTS-114ミッションのスペースシャトル「ディスカバリー」の打ち上げ(Credit: NASA)】

【▲ 野口飛行士の初飛行となったSTS-114ミッションのスペースシャトル「ディスカバリー」の打ち上げ。2005年7月26日撮影(Credit: NASA)】

野口さんの宇宙への初飛行は、2005年7月~8月のスペースシャトル「ディスカバリー」によるSTS-114ミッションです。このミッションでは国際宇宙ステーション(ISS)への機器取り付けや姿勢制御装置(コントロールモーメンタムジャイロ)の修理、スペースシャトルの耐熱タイル補修検証実験などが行われました。

会見で最も印象深かったミッションを問われた野口さんは、無重力の世界に包まれ、球体の地球が目の前に浮かんでいる感覚を体験したこの最初のミッションのことを、何年経っても忘れられないと語っています。

【▲ 着陸したディスカバリーとSTS-114の宇宙飛行士たち。右から3人目が野口飛行士(Credit: NASA/Jim Ross)】

【▲ 着陸したディスカバリーとSTS-114の宇宙飛行士たち。右から3人目が野口飛行士(Credit: NASA /Jim Ross)】

このSTS-114ミッションは、2003年2月1日に発生したスペースシャトル「コロンビア」の空中分解事故後に再開された最初のミッションでもありました。

26年間で最もつらい出来事だったというコロンビアの事故で7名の仲間を失った野口さんは、彼らが見た景色と伝えたかったものを伝えていくことが自分の宇宙飛行士としての使命であり、そのためには何が何でも帰還することがテーゼ(定立、命題)になったと語っています。今回の会見に臨んだ野口さんの襟元には、コロンビアのピンバッジが付けられていました。

【▲ ISS第23次長期滞在を終えて「ソユーズTMA-17」で帰還した野口飛行士(Credit: NASA/Bill Ingalls)】

【▲ ISS第23次長期滞在を終えて「ソユーズTMA-17」で帰還した野口宇宙飛行士(Credit: NASA/Bill Ingalls)】

2回目の飛行で野口さんはロシアの有人宇宙船「ソユーズTMA-17」に搭乗し、2009年12月~2010年6月にかけてISSの長期滞在(第22次/第23次)に臨みました。野口さんはソユーズTMA-17で日本人初の船長補佐を務めています。

滞在中の野口さんはISSの日本実験棟「きぼう」のロボットアームへの子アーム取り付けや、きぼうの実験運用を実施。2010年4月にはディスカバリーでISSに到着した元JAXA宇宙飛行士の山崎直子さんとも合流しました。

【▲ クルードラゴン「Crew-1」ミッションの宇宙飛行士たち。一番右が野口飛行士(Credit: SpaceX)】

【▲ クルードラゴン「Crew-1」ミッションの宇宙飛行士たち。一番右が野口宇宙飛行士(Credit: SpaceX)】

そして3回目の飛行は、スペースXの有人宇宙船「クルードラゴン “レジリエンス”」による「Crew-1」ミッションです。2022年5月現在クルードラゴンは7回の有人飛行を行っていますが、この時はまだ有人飛行試験「Demo-2」の1回しか行われていませんでした。野口さんはクルードラゴン初の運用飛行という重要なミッションに参加したことになります。

米国人以外で初めてクルードラゴンに搭乗した宇宙飛行士となった野口さんは、2020年11月~2021年5月にかけて2回目のISS長期滞在(第64次/第65次)を経験。滞在中には「きぼう」での科学実験や、ISSに増設される新型太陽電池の取り付けに備えた船外活動などを実施しました。

ISSで2回の長期滞在を経験した野口さんの通算ISS滞在時間は、335日17時間56分です。これは2022年5月現在、日本人宇宙飛行士の最長記録となります。

【▲ 2021年3月5日、国際宇宙ステーションで船外活動を行う野口飛行士(Credit: NASA)】

【▲ 2021年3月5日、国際宇宙ステーションで船外活動を行う野口宇宙飛行士(Credit: NASA)】

3回のミッションで宇宙飛行を経験した野口さんは、JAXAを退職してからは一人の民間人として宇宙を盛り上げ、次世代を担う子どもたちの育成にも関わっていきたいと語りました。宇宙飛行士として26年間を過ごした野口さんの宇宙開発への貢献は、JAXAを離れた後も続いていくことになります。

また、今後はJAXAの宇宙飛行士として宇宙へ飛び立つ可能性は限りなくゼロに近い1パーセントとしつつ、民間人の立場としては「半々ぐらいかな」とも野口さんは話していました。米国ではNASAを離れた宇宙飛行士が民間宇宙企業で活躍しており、たとえば先日実施された民間主導による初のISS滞在ミッション「Ax-1」では、NASAの宇宙飛行士として4回の飛行を経験したマイケル・ロペス=アレグリアさんがコマンダーを務めました。JAXA退職後の野口さんにも、民間人として再び宇宙に向かう未来が訪れることになるかもしれません。

【▲ 笑顔を見せるISS滞在中の野口飛行士。2021年2月21日撮影(Credit: NASA)】

【▲ 笑顔を見せるISS滞在中の野口宇宙飛行士。2021年2月21日撮影(Credit: NASA)】

 

関連:野口聡一飛行士をのせた「クルードラゴン」宇宙船が地球へ無事帰還 フロリダ沖に着水

Source

Image Credit: NASA; JAXA; SpaceX JAXA - 野口宇宙飛行士 記者会見(JAXAプレスリリース)

文/松村武宏

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