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NASAが火星ヘリ撮影の「空撮動画」を公開。飛行距離&最高速度の記録更新

sorae.jp / 2022年5月30日 17時6分

【▲火星の表面で初飛行の時を待つ火星ヘリコプター「Ingenuity」。火星探査車「Perseverance」が2021年4月5日に撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)】

【▲火星の表面で初飛行の時を待つ火星ヘリコプター「Ingenuity」。火星探査車「Perseverance」が2021年4月5日に撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)】

日本時間2021年2月19日朝に火星のジェゼロ・クレーターへ着陸したアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Perseverance(パーセベランス、パーシビアランス)」には、重量1.8kgの小型電動ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」が搭載されていました。

2021年4月に史上初の「地球以外の天体における航空機の制御された動力飛行」に成功した後も、Ingenuityは飛行を続けています。もともと1か月間で最大5回の試験飛行を前提に設計された機体ですが、Ingenuityのミッションは2022年9月まで延長されており、2022年5月28日時点で飛行回数は28回を数えます。

次の動画は、2022年4月8日に実施された24回目の飛行中にIngenuityから撮影された火星表面です。PerseveranceやIngenuityを運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)から5月28日付で公開されました。

【▲ NASAの小型ヘリコプター「Ingenuity」が空撮した火星表面(動画)】
2022年4月8日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)

この空撮動画の作成には、Ingenuityに搭載されているナビゲーションシステム用のモノクロカメラで撮影された画像が使われています。再生速度は実際の速度の約5倍です。砂紋の間から離陸して岩が散在するエリアを横切り、最後に比較的平坦な場所へ着陸するまでの様子が捉えられています。

Ingenuityは24回目の飛行で水平距離704mを2分41.3秒かけて飛行し、対地速度は最大秒速5.5m(時速19.8km)に達しており、1回の飛行における最大飛行距離と最高速度の記録をどちらも更新しています。ちなみにこれまでの最高記録は飛行距離が625m(9回目、2021年7月5日)、最大速度が秒速4.4m(20回目、2022年2月25日)でした。

【▲ Ingenuityによる24回目の飛行中に撮影された画像の1つ。地表に落ちたIngenuityの影も写っている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

【▲ Ingenuityによる24回目の飛行中に撮影された画像の1つ。地表に落ちたIngenuityの影も写っている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

なお、2022年5月上旬、地球とIngenuityの通信が数日間に渡って一時的に途絶えるトラブルがありました。JPLによると、原因はIngenuityに搭載されているバッテリーの充電不足のようです。

ジェゼロ・クレーターがある火星の北半球は季節が秋から冬へと移り変わりつつあり、大気中を浮遊する塵の季節的な増加とあわせて、太陽電池の発電量が低下しつつあります。そのうえ夜間の気温は摂氏マイナス80度にも達するといい、電子機器を保護するためにヒーターを作動させなければなりません。一晩中電力を供給するにはバッテリーが少なくとも70パーセントまで充電されている必要があるものの、現在は日没までに68パーセントまでしか充電されていないといいます。

バッテリーの充電不足は夜間の電圧低下につながり、夜明けまでにIngenuityの時計がリセットされてしまいました。Ingenuityは毎朝バッテリーを再充電してコンピューターの電源を入れていますが、時計がリセットされると予定とは違う時間に起動してしまいます。地球とIngenuityの通信はPerseveranceが中継していますが、起動時刻がずれてしまったIngenuityはPerseveranceの呼びかけに応答できず、結果として地球との通信が途絶えてしまったようです。

Ingenuityとの通信はその後復旧していて、夜の寒さによる損傷の兆しも見られず、運用チームは29回目の飛行準備を進めています。ただ、現在のバッテリー充電率は2パーセント不足しているだけですが、火星が冬至を迎える2022年7月頃には7パーセントまで拡大すると予想されており、夜間に電子機器の温度を保つのは非常に難しいか、あるいは不可能とみられています。

前述のように、1か月間のミッション中に最大5回飛行する予定で設計されたIngenuityは、設計限界を大きく超えて運用され続けています。Ingenuity運用チームのTeddy Tzanetosさんは、特に太陽電池式の探査機にとって火星は困難な環境であり、Ingenuityのミッションはいつ終わりを迎えてもおかしくないとミッションのブログに綴っています。

 

関連:NASA火星ヘリ、着陸時に投棄されたパラシュートとバックシェルを撮影

Source

Image Credit: NASA/JPL-Caltech NASA/JPL - NASA's Ingenuity Mars Helicopter Captures Video of Record Flight NASA/JPL - Ingenuity Adapts for Mars Winter Operations

文/松村武宏

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