電波&赤外線で観測された大マゼラン雲の「タランチュラ星雲」
sorae.jp / 2022年6月17日 21時38分
こちらは南天「かじき座」の方向約17万光年先にある輝線星雲「かじき座30(30 Doradus)」、別名「タランチュラ星雲(Tarantula Nebula)」を捉えた疑似カラー画像です。電波で観測されたフィラメント状(ひも状)の構造(オレンジ色に着色)と、赤外線で観測された星々や星雲の画像が使われています。
天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)のひとつ「大マゼラン雲」(LMC:Large Magellanic Cloud、大マゼラン銀河とも)にあるタランチュラ星雲は、星を活発に生み出す星形成領域として知られています。ヨーロッパ南天天文台(ESO)によると、星雲の中心には質量が太陽の150倍以上ある大質量星が幾つかあり、ガス雲から星が形成される過程を研究するのに最適な場所だといいます。
星は、ガス雲のなかでも密度の高い部分が自身の重力で崩壊する(つぶれる)ことで誕生すると考えられています。そのいっぽうで、輝き始めた若い星が放射するエネルギーはガス雲を乱すため、ガス雲の重力崩壊による新たな星の形成をさまたげることになります。このように、星形成領域では若い星が放射するエネルギーと重力がせめぎ合うことで、星形成のペースを左右しているとみられています。
80万以上もの星々の誕生を見届けてきたというタランチュラ星雲では、若い星のエネルギーによってガスが乱され希薄になり、星が形成されにくくなっているのではないかと考えられてきたといいます。しかし、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」を使った観測の結果、若い大質量星に近いガス雲は低密度で断片化しているいっぽうで、冷たく高密度なガス雲もフィラメント状に分布している様子が明らかになりました。アルマ望遠鏡はガス雲に含まれる一酸化炭素分子が放つ電波を高感度で捉えることができます。検出された高密度なガス雲では、重力崩壊によって新たな星が誕生する可能性があるといいます。
欧州宇宙機関(ESA)の研究者Guido De Marchiさんによれば、タランチュラ星雲の特性は初期の宇宙に存在していた銀河で見られるものに似ており、多くの星が誕生した100億年前の星形成をタランチュラ星雲の観測を通して研究することができるのだといいます。
また、アルマ望遠鏡による観測を行った研究チームを率いるイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のTony Wong教授は、今日までにすべてのガスが星形成に使い尽くされず、今も星形成活動を観測できる理由は天文学の大きな謎のひとつだと言及。星形成の科学的意味を幅広く理解し、銀河の歴史と未来を明らかにする上で、今回の観測は助けになるとコメントしています。
冒頭の画像はESOが運営するチリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」と「VISTA望遠鏡」を使って赤外線の波長で観測されたタランチュラ星雲の画像と、アルマ望遠鏡を使って取得された画像を合成したもので、ESOやアメリカ国立電波天文台(NRAO)から2022年6月15日付で公開されています。
関連:大マゼラン雲のクモの中にある散開星団。巨星と超巨星の煌めき
■この記事は、【Spotifyで独占配信中(無料)の「佐々木亮の宇宙ばなし」】で音声解説を視聴することができます。
Source
Image Credit: ESO, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Wong et al., ESO/M.-R. Cioni/VISTA Magellanic Cloud survey. Acknowledgment: Cambridge Astronomical Survey Unit ESO - The Tarantula's cosmic web: astronomers map violent star formation in nebula outside our galaxy NRAO - ALMA Gets Front-Row Seat to an Ongoing Star-Formation Standoff in the Large Magellanic Cloud文/松村武宏
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