NASAの火星探査機「インサイト」地震検出継続へ、ミッション終了時期が早まる可能性
sorae.jp / 2022年6月23日 11時11分
ミッションの残り時間は思っていたよりも短くなりそうです。アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は6月21日付で、火星探査機「InSight(インサイト)」の運用に関する最新の状況を伝えています。
JPLによると、インサイトの運用チームは2022年6月末までに予定されていた火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」の運用停止を取り止めて、火星の地震(火震)の検出を電力が得られる限り継続する模様です。インサイトの太陽電池が生み出す電力量は日々低下し続けていて、ミッションは2022年12月頃に終了する見込みでしたが、SEISの運用期間が延長されれば12月よりも早い段階で終了することになりそうです。
■さらなる成果を求めてミッションの最後まで地震の検出を目指すことに2018年11月27日にエリシウム平原へ着陸したインサイトは、火星の内部構造解明を目的に開発された探査機です。着陸翌月の2018年12月に設置された火星地震計SEISは、これまでに1300件以上の地震を検出。SEISが検出した地震波の解析によって、火星のコア(核)が液体であることをはじめ、コアのサイズ、地殻の厚さなどが判明しています。
インサイトのミッションは着陸から2年間(火星での約1年間)の予定でしたが、2022年12月まで2年間延長されており、2022年5月4日には火星での観測史上最大の規模となるマグニチュード5の地震を検出することにも成功していました。
関連
・【前編】火星の内部構造が明らかに NASAインサイトのデータより
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ただ、インサイトの太陽電池には塵が積もり続けていて、着陸当初と比べて発電能力が大幅に低下しています。JPLによると、着陸当初の電力量は1ソル(※)あたり約5000ワットアワーだったものの、2022年6月19日の時点では1ソルあたり平均410ワットアワーしか得られなくなっています。
※…1ソル=火星での1太陽日、約24時間40分
火星では今後も数か月間は季節変化にともなって大気中の塵が増加し、日差しが弱まるために、利用可能な電力がさらに減っていくことになるといいます。そのため、インサイトの運用チームは電力を節約して、塵に覆われた太陽電池でもなるべく長くシステムを稼働し続けられるようにする予定でした。SEISも含む観測装置の電源をオフにすることで、通信が途絶するのは2022年12月頃と見込まれていました。
しかし、運用チームはミッションの最後まで可能な限り多くの科学的成果を得ることにした模様です。冒頭でも触れたように、6月末までに運用を終える予定だったSEISを稼働させ続け、さらなる地震の検出を目指すことにしたのです。
SEISを稼働させ続ければ、それだけ日々の電力消費量も増えることになります。運用チームはSEISを8月末から9月初め頃まで稼働させることを計画していますが、その頃のインサイトはバッテリーに蓄えられた電力を使い果たしてしまうようになると予想されています。ミッションのプロジェクトマネージャーを務めるJPLのChuck Scottさんは「電力を節約して科学的成果なしに運用するのではなく、インサイトが完全に沈黙する瞬間まで科学データを得るのが目標です」と語っています。
JPLによると、インサイトには他の探査機と同様に障害から保護するためのシステムが搭載されています。このシステムによって低電力や低温といった状況が検知されると、探査機は自動的にセーフモードへ入り、観測装置など最重要ではない機器の電源が切られるようになっています。運用チームはSEIS以外の観測装置だけでなく、障害保護のシステムもオフにしているとのこと。これによりSEISをより長く稼働させることができるものの、インサイトは運用チームに対応する時間がないほどの予期せぬ突発的な出来事から保護されない状態が続きます。
NASA本部の惑星科学部門長を務めるLori Glazeさんは「インサイトはまだ火星のことを教え終えていません。探査機の運用が終わるまでに、可能な限り観測データを取得するつもりです」とコメントしています。
関連:NASAの火星探査機「インサイト」が最後のセルフィーを撮影
Source
Image Credit: NASA/JPL-Caltech NASA/JPL - NASA’s InSight Gets a Few Extra Weeks of Mars Science Mars InSight - NASA InSight’s Power Level as of June 19, 2022 (NASA Blogs)文/松村武宏
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