摂氏約17度。月の縦孔内部の日陰は比較的快適な温度が保たれている?
sorae.jp / 2022年7月31日 20時44分
【▲ 月の「静かの海」で見つかった縦孔。画像の幅は400mに相当する(Credit: NASA/GSFC/Arizona State University)】
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の博士課程学生Tyler Horvathさんを筆頭とする研究チームは、月で発見された縦孔に関する新たな研究成果を発表しました。研究チームによると、一部の縦孔では内部の永久影(太陽光が届かない範囲)に覆われている部分が比較的快適な温度に保たれているといい、将来の月面探査や基地建設に役立てられる可能性があるようです。
■縦孔内部の永久影の温度は摂氏約17度でほぼ一定か宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月周回衛星「かぐや」(2007年9月打ち上げ、2009年6月運用終了)の観測によって発見されたマリウス丘の縦孔(直径、深さともに約50mと推定)をはじめ、月面では幾つもの縦孔が見つかっています。Horvathさんによると、これまでに200か所以上で見つかっている月の縦孔のうち16か所は、溶岩洞(溶岩洞窟、溶岩チューブ)の天井が崩落したことで形成されたと考えられています。
![【▲ JAXAの「かぐや」が発見したマリウス丘の縦孔の位置(左)、NASAの「LRO」が撮影したマリウス丘の縦孔(右上)、予想される縦孔周辺の様子を示した断面図(右下)(Credit: JAXA)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2022/07/Marius-pit-jaxa-fig3.png)
【▲ JAXAの「かぐや」が発見したマリウス丘の縦孔の位置(左)、NASAの「LRO」が撮影したマリウス丘の縦孔(右上)、予想される縦孔周辺の様子を示した断面図(右下)(Credit: JAXA)】
溶岩洞は溶岩が流れた時に形成されることがあるトンネル状の地形で、国内では天然記念物に指定されているものもあります。月にも溶岩洞が現存すると考えられていて、たとえば「かぐや」が発見したマリウス丘の縦孔につながる溶岩洞は数十kmの長さがあるとみられています。ちなみに溶岩洞の天井が崩落してできた縦孔と思われる地形は、月だけでなく火星でも見つかっています。
関連:火星の大地にぽっかり空いた大きな穴
アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、大気がほぼ存在しない月の表面では昼夜の温度差が大きく、昼間は摂氏約127度まで上がり、夜間は摂氏マイナス約173度まで下がるといいます。月では約15日間ずつ続く昼と夜の極端な温度にどう対応するのかは、長期間の月面探査ミッションや、将来の恒久基地建設における課題の一つと言えます。
そこで注目されているのが月の溶岩洞です。溶岩洞の内部は直射日光にさらされることがないため、月面と比べて比較的安定した温度が保たれている可能性があるからです。
![【▲ NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」が撮影したマリウス丘の縦孔。3点とも同じ縦孔を撮影したもので、太陽光の当たり方が異なる。各画像の幅は300mに相当(Credit: NASA/GSFC/Arizona State University)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2020/10/3panel_mariuspit.jpg)
【▲ NASAの月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」が撮影したマリウス丘の縦孔。3点とも同じ縦孔を撮影したもので、太陽光の当たり方が異なる。各画像の幅は300mに相当(Credit: NASA/GSFC/Arizona State University)】
今回Horvathさんたちは、溶岩洞につながっている可能性がある「静かの海」の縦孔(冒頭の画像。直径約100m、深さは約100mと推定)に焦点を当てて、月の岩石やレゴリス(月の砂)の温度特性や、時間とともに変化する縦孔内部の温度を知るために、コンピューターモデルを構築して分析を行いました。
研究チームによる分析の結果、縦孔の内部で永久影に覆われている部分の温度は月の1日を通してほとんど変化せず、摂氏約17度という比較的快適な温度に保たれていることがわかったといいます。昼夜で摂氏約300度もの温度差がある月の表面とは大きな違いです。また、縦孔からつながっていると予想される溶岩洞の内部も、同じ温度に保たれている可能性があるようです。
ただし、縦孔の内部でも太陽光に照らされる底の部分だけは昼間の温度が高くなり、月の赤道に近い静かの海の縦孔の底では摂氏147度を上回るとみられています。Horvathさんは、正午の太陽光に照らされた静かの海の縦孔の底は「おそらく月全体で最も暑い場所です」と語っています。
なお、2020年9月には、月の縦孔の底やそこから水平に広がる地下空間では、宇宙放射線の被ばく線量を減らすことができるとする研究成果が発表されています。将来の月面活動では、縦孔からアクセスできる溶岩洞が基地建設の「一等地」として積極的に活用されるようになるかもしれません。
関連:月の縦孔では宇宙放射線の被ばく線量を減らせるとした研究成果が発表される
■この記事は、【Spotifyで独占配信中(無料)の「佐々木亮の宇宙ばなし」】で音声解説を視聴することができます。
Source
Image Credit: NASA/GSFC/Arizona State University NASA - NASA’s LRO Finds Lunar Pits Harbor Comfortable Temperatures文/松村武宏
この記事に関連するニュース
-
月の裏側に着陸した中国の月探査機「嫦娥6号」をアメリカの月周回衛星「LRO」が撮影
sorae.jp / 2024年6月20日 9時17分
-
宇宙の“化学”を明らかにする遠赤外領域望遠鏡「SALTUS」を欧米研究者合同チームが提案
sorae.jp / 2024年6月17日 16時46分
-
「金星」の火山が1990年代に噴火した新たな証拠を発見! 確認されれば太陽系3例目の天体に
sorae.jp / 2024年6月8日 18時15分
-
月面探査ローバー向け運転支援AIの試作に関するJAXAとの共同研究を開始
PR TIMES / 2024年6月5日 16時40分
-
エンケラドゥスに熱水噴出孔が存在する可能性 実験室でのシミュレーション結果が示唆
sorae.jp / 2024年6月3日 20時57分
ランキング
-
1“優先席で席を譲らない40代女性”にブチ切れた女子高生「非常識じゃないですか?」その後女性は…
日刊SPA! / 2024年6月21日 8時53分
-
2「断れなかった…」32歳独身・真面目な医師、銀座のホステスとの出会いで一変→「シャネル」「ファーストクラス」に散財の末路
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月21日 16時45分
-
3国民ブチギレ!? なぜ「13年」で“自動車税&重量税”高くなるのか…「クルマは税金の塊」「いい加減見直して〜」の声も? 理不尽な重課措置の仕組みとは
くるまのニュース / 2024年6月21日 15時10分
-
4ローソン「富士山」騒動現状報告 “バスツアー”4社に取り下げ要請も「掲載が継続」、警備配備も【対応一覧】
ORICON NEWS / 2024年6月20日 22時46分
-
5あなたが考える「信頼できない女性政治家」ランキング。元おニャン子・元SPEED議員も当然のワースト入り
女子SPA! / 2024年6月21日 8時45分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)