変わった形の炭素結晶を「チェリャビンスク隕石」から発見
sorae.jp / 2022年8月21日 21時14分
2013年2月15日、ロシアのチェリャビンスク州上空を隕石が通過しました。隕石は昼間にも関わらず太陽よりも明るくなり、空中分解によって発生した衝撃波により数千棟の建物の窓ガラスが割れ、1500人近くの人々がケガをしました。隕石はその後地面まで落下し、現在では「チェリャビンスク隕石」という名前が付けられています。
チェリャビンスク隕石がもたらした災厄は、初めて確実な記録が残された大規模な隕石災害として名を残しています (厳密には、隕石は地面に落下した天体の破片のみを指す用語であり、落下中の天体は隕石とは呼ばれませんが、ここでは分かりやすさを優先して「隕石」と表記します) 。
さて、地上ではチェリャビンスク隕石の大小さまざまなかけらが見つかっていますが、他にもユニークな物質が採集されています。
超高速で大気圏に突入したチェリャビンスク隕石は、大気の圧縮や摩擦による高温高圧を受けます。これにより隕石の表面は蒸発し、その後急冷されることで、1mmよりずっと小さなサイズの塵となります。塵はしばらく大気中を漂い、しばらくは隕石雲として観察されました。この隕石雲を作った塵は、徐々に地面へと落下します。
チェリャビンスク隕石の落下では、この塵が大量に採集されています。これは非常に珍しいことで、チェリャビンスク隕石から発生した塵の量が膨大であったことと、現地の季節が冬で新鮮な雪が積もったばかりであったことが幸いしました。
隕石の塵は、非常に珍しい環境に晒された、注目度の高い物質です。隕石の表面や大気中の物質は、高温高圧にさらされることで何らかの化学反応や触媒活性を示すかも知れませんが、塵の発生原因となる高温高圧の条件は、実験室でも設定するのが難しい環境です。人の手では再現が難しい条件を作り出す隕石の落下は、いわば高温物理学の実験場であり、チェリャビンスク隕石の塵はそれを確認できる非常に珍しい機会と言えます。
チェリャビンスク州立大学のSergey Taskaev氏らの研究チームは、このような貴重な機会となったチェリャビンスク隕石の塵について観察を行いました。降り積もった雪と雪の間で層状に保存された塵を採取し、光学顕微鏡で粒子の観察を行ったところ、炭素の微細な結晶がいくつも見つかりました。大きさはいずれも数µm程度です (1µm=1000分の1mm) 。
詳しい観察を行うため、走査型電子顕微鏡で撮影すると、炭素の結晶は球体に近い多面体や、六角形の棒など、特徴的な形状をしていることが分かりました。ラマン分光法やX線結晶構造解析により、これらは黒鉛 (グラファイト) の結晶であると判明しました。
黒鉛は鉛筆の芯など、日常生活でよく見かける炭素の同素体です。しかし、その結晶は六角柱の板状になりやすく、長い棒状結晶や球体のような多面体結晶になることはありません。
では、このような特異な形状は何が成因となったのでしょうか。Taskaev氏らは、炭素原子がどう結びつき、結晶がどのように組み合わさって成長すれば、塵で見つかったような炭素の結晶ができるのかをシミュレーションしました (より正確に言えば、離散フーリエ変換と古典および量子分子動力学法を駆使し、閉殻な多重炭素双晶成長メカニズムをシミュレーションしました) 。
その結果、見つかった炭素の結晶を作る「核」となる物質の、有力な候補が2つに絞り込まれました。1つは「バックミンスターフラーレン」、もう1つは「ポリヘキサシクロオクタデカン」です。それらの分子の周りに黒鉛の結晶が成長し、結晶同士がうまく噛みあうことで、塵で見つかったような長い棒状結晶や球体のような多面体結晶ができると考えられます。
何億年も地層に埋まった石炭のように、炭素は条件さえ整えば相当長い期間地中に保存される可能性があります。Taskaev氏らは今回の発見をもとに、特異な形状の炭素結晶を見つけることで、過去の隕石落下の時期などを推定する手掛かりになるのではないかと推定しています。
Source
Sergey Taskaev, et.al. “Exotic carbon microcrystals in meteoritic dust of the Chelyabinsk superbolide: experimental investigations and theoretical scenarios of their formation”. (The European Physical Journal Plus) Uragan. TT. “File:A trace of the meteorite in Chelyabinsk.JPG”. (WikiMedia Commons)文/彩恵りり
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