報酬の一部を引退後に受け取る契約をしていたイチロー選手とその課税関係を解説
相談LINE / 2019年7月19日 19時0分
先般、引退を表明したイチロー選手について、報酬のもらい方が話題になりました。具体的には、現役時代に契約した年俸の一部を、引退後に利息を合わせて受け取る契約としていたということのようです。引退後の生活も見据えての契約と考えられ、イチロー選手の賢さがよく分かります。
■税はどうなる?
では、仮にイチロー選手のような契約を日本で行った場合、課税はどうなるか考えてみます。仮の話ですので、アメリカではなく日本の税制を前提に解説します。
税務上は、もらえるのが引退後であったとしても、税金が課税されるのは引退後ではないと考えられます。というのも、日本の法律では、税金が課税されるタイミングは権利確定基準で見るのが通例だからです。権利確定基準とは、お金をもらえる権利が確定したタイミングで、税金の対象になる所得を認識する方法を言います。権利が確定した以上は、実際に入金されるタイミングが前後したとしても、いずれお金を貰えることになるため税金を納める資力(担税力)があると考えられることから、そのタイミング税金をかけることにしているのです。
■権利確定をどう見るか
この権利確定を判断する場合、押さえるべき概念が同時履行の抗弁権というものです。同時履行の抗弁権とは、二者間で契約する場合に適用されるもので、相手方が債務を履行しない限り、こちらも債務を履行しないと主張できる権利を言います。具体的には、商品の売買において、売主は買主がお金を払うという債務を実行しない限り、商品を渡すという債務を履行する必要はありません。このような関係です。
同時履行の抗弁権が主張できる場合、権利が確定したとは言えません。このため、顧客が同時履行の抗弁権を主張できないタイミングで、権利確定と見ることになります。
■商品は引き渡し、サービスは全部の提供
このようなタイミングは、商品であればそれを顧客に引き渡した段階であり、サービスであれば全部提供した段階です。こうすれば、自分の責任は全部終わっていますので、顧客がお金を払わないという同時履行の抗弁権を主張することはできません。
イチロー選手も、すでに自分のサービスを提供している訳ですから、お金を貰うのが後になっても、サービスを提供した年度、すなわちプレイした年度において全額課税されると考えられます。
■専門家プロフィール
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
※注意事項:記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。本コラムのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、著者は賠償責任を負いません。加えて、今後の税制改正等により、内容の全部または一部の見直しがありうる点にご注意ください。
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