持分なし医療法人への移行で問題となる贈与税の対策と注意点を税理士が解説
相談LINE / 2019年9月5日 19時0分
現状、医療法人を設立する場合、持分なし医療法人しか設立できないこととされています。持分とは出資を意味しますので、この医療法人は、出資のない医療法人ということになります。株式会社のように、出資を発行する法人については、原則としてその出資を有する株主の利益のために法人は活動することになります。しかし、医療法人は、医療という公益的なことをやるための法人ですので、持分なしが妥当ということで、このような制度になっています。
この制度改正は、平成19年度の医療法改正で創設されましたが、それ以前は持分ありの医療法人も認められていました。このような医療法人は、現状経過措置型医療法人として当分の間存続することとされ、一定の要件を満たすことで、持分なし医療法人に移行できることになっています。
■移行には贈与税の問題
持分なし医療法人に移行する場合、大きな問題になるのが贈与税です。例えば、出資された方が複数いるとします。そのうち、1名が出資を放棄すると、出資者が減少するため残りの方の出資の価値は大きくなります。具体例を申し上げると、時価1億円の医療法人の持分を2名で均等に持っていれば、それぞれの持分の価値は5千万円ですが、片方が放棄すれば1億円に増加します。このような価値の増加に対しても、贈与税の対象になり、結果として放棄しなかった者に贈与税が課税されます。
このようなことがないよう、持分なし医療法人に移行する場合には、出資者全員が同時に持分を放棄することが原則です。こうすれば先の問題は生じませんが、別の問題が生じます。それは、医療法人に対して贈与税が課税されるリスクがあるということです。
贈与税の特例なのですが、持分のない法人に対して贈与や利益供与などがあった場合、その贈与者の親族などの贈与税の負担が不当に減少すると認められる、一定の要件(不当減少要件)を満たす場合、その持分のない法人に対して贈与税が課税されるとされています。出資者全員が持分を放棄する場合、その持分の利益は医療法人に移転することになりますので、この規定の対象になる贈与や利益供与にあたります。
加えて、不当減少要件が非常に厳しいため、持分なし医療法人に移行すれば、多くの医療法人がこの要件に該当し、結果として贈与税が課税されるリスクが非常に大きいと言われています。
■贈与税のリスクヘッジの方法
このようなリスクがあることから、近年は所定の要件を満たす持分の放棄について、納税を猶予するという特例的な制度が創設されています。詳細は税理士などの専門家にお尋ねください。
■専門家プロフィール
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
※注意事項:記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。本コラムのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、著者は賠償責任を負いません。加えて、今後の税制改正等により、内容の全部または一部の見直しがありうる点にご注意ください。
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