人並みに仕事ができない人たちの苦悩「周囲に“またか”という顔をされるのがツラい」

日刊SPA! / 2019年2月18日 8時53分

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 SPA!でも’18年に2度にわたり、大特集を展開した発達障害。その取材をきっかけに生まれた『発達障害グレーゾーン』(姫野桂著)も発売即重版となるなど、大きな反響を呼んでいる。第3弾となる今回は「発達障害という診断名がついていない人々」の苦悩を追った。

◆「人並みにできない」にあがく会社員たちの辛苦

「打ち合わせや会議中はメモをするのに必死で内容についていけない。そうなってしまうと、いきなり意見を求められても当然、ロクなことが言えずにオドオドしてしまう」

 そう自らの振る舞いを振り返るのは大手流通会社に勤める香川晴彦さん(仮名・37歳)。診断こそ受けていないが自分の発達障害の傾向には十分な自覚があると語る。

「『急ぎではない』と自分でもわかっているのに、最優先すべき仕事をほったらかしてほかのことをやってしまう。1時間で終わると思った仕事がもうプラス10分かかってしまい提出が遅れる。待ち合わせ時間から逆算してぴったりの時間に出ようとするから何か些細な想定外のことが起きると、少しだけ遅刻してしまう。もう何度同じミスしたかわかりません」

 香川さんのように一つひとつは大きな問題にはならないレベルの失敗がたびたび発生することにより、自己嫌悪や周囲からの叱責が積み重なり、さらに仕事でのミスを生んでしまうという悪循環に陥るグレーゾーンは多いと発達障害当事者を数多く取材するフリーライターの姫野桂氏は指摘する。

「近年ではそんな傾向に対して、『大人の発達障害』という言い方をしますが、そもそも発達障害は後天的に発症するわけでなく、生まれつきの脳の機能の問題とされています。なので、正確に言えば『大人になるまで見過ごされていた発達障害』という言い方になるはず。これまでに多くのグレーゾーンの方とお会いしてきましたが、仕事をするようになって、初めて『自分が人並みにできないこと』に気づくケースは多いです」

 多少、多動気味でも不注意でも「子供らしい」と見落とされる幼少期だけでなく、受験や試験勉強のようなタスクが明確な作業は得意な発達障害当事者も多いため、そこでも障害の可能性に気づかないことが珍しくないとのこと。

「しかし、社会に出た途端、複雑な人間関係の調整やマルチタスク、社交辞令などを急に求められ、発達障害の傾向が表面化。周囲からは『仕事のできない困った人』とレッテルを貼られ、本人も『なぜ自分はこんなにもできないのだ』と悩みを抱えてしまうわけです」

 そんな彼らをさらに苦しめるのが周囲の視線である。自らの発達障害傾向に自覚のある社会人たちはその苦悩を次のように明かす。

「『なぜこんな簡単ことができないのか』と何度も上司から注意されるが、『発達障害だからです』とはもちろん言えず、答えに窮します。『そんなに俺の評価を下げたいのか』と言われたときはもう頭がぐちゃぐちゃになりました」(37歳・人材派遣)

「仕事でミスをするたびに『またか』という顔をされるのが一番、ツラい。『発達障害なんだから仕方ないじゃん』と開き直りたい気持ちといつも葛藤しています」(31歳・メーカー)

 自らの傾向に気づきながらも、その生きづらさへの対処法を見つけられず苦しむグレーゾーンは少なくない。

◆周囲が手を焼く無自覚なグレーゾーン

 一方、その名前こそ徐々に広まれど、まだまだ正確に知られているとはいえない発達障害。傾向があるにもかかわらず、まったく自覚のないグレーゾーンも間違いなく存在している。38歳のときに発達障害診断を受けた経験のある佐藤紀子さん(仮名・46歳)は周囲にいる無自覚なグレーゾーンについて率直な思いを吐露する。

「発達障害関連でメディアに取り上げられるのは極端な人ばかり。なので、正しい認識は全然広がっていない。だから自分で気づいていない人がいっぱいいますよ。発達障害を他人事だと思っていて、自分の発達障害に気づいてない姿は、見ていて痛々しいです」

 本人が大きな壁にぶつからない限り、自覚することは限りなく難しい。デリケートな問題だけに周囲はその対処に苦慮する。

「与えられたタスクはこなすけど、それ以上のことにはまったく頭が回らない部下。客先に行っても雑談は一切せず、無表情のまま話をしているようで、まったく愛想ないと取引先から苦笑交じりのクレームがあった」(43歳・メーカー)

「週末も昼夜問わずに『あの企画書はどうなった』『〇〇の件、明日までに調べてこい』といった指示をLINEしてくるうちの部長。あまりにも行動が衝動的で周囲は疲弊、ただのパワハラでなく、病的なレベル」(30歳・IT)

 こういった周囲の人の発達障害を疑う声も今回の取材では多数聞かれた。不十分な知識による断定はもってのほかだが、正しい発達障害に関する知識が広がることで救われる職場は存在している。

【姫野 桂氏】

フリーライター。発達障害当事者を数多く取材。自身も発達障害当事者。著書に『私達は生きづらさを抱えている』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)

― 発達障害グレーゾーン ―

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