東日本大震災、賠償金を「もらった原発被災者」と「もらい損なった津波被災者」の格差

日刊SPA! / 2019年3月11日 8時52分

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いわき市勿来海岸にて。勿来町は一時期、報道の空白地帯となっていた

 東日本大震災から8年。被災地では復興に向かい協力し合う姿がクローズアップされがちだが、美談だけではない。原発から30キロのラインを境に問題が起こっているという。賠償金を手にすることができるのは、この圏内に住んでいた人たちだけなのである。わずかでも外に出れば、一切、賠償金は支払われない。

 そんななか、「賠償金によって被災者の間に生まれた格差が暗い影を落としている」と話すのは、いわき市の元大手住宅メーカー営業マンで、『震災バブルの怪物たち』(鉄人社)の著者である屋敷康蔵氏だ。今回は、着々と復興に向かっているように見える被災地で、東電からの莫大な賠償金に翻弄され続ける住民たちの実情を語ってもらった。

◆被災地におけるお金の話題は一種のタブーだった

 栃木県出身の屋敷氏は1995年から大手消費者金融で10年間、不動産担保ローンの貸付けと回収業務に携わった後、2005年より不動産業界に転身。2010年代に大手住宅メーカーに入社し、いわき市内の営業所で働く住宅販売の営業マンとして、東日本大震災以降は多くの被災者に住宅を販売してきた。

「住宅メーカーの社員はお客さんの所得証明を見る機会が多く、東電からの賠償金をもらった人とそれ以外の被災者との格差を感じる機会が多かったですね」

 屋敷氏の身内にも実際に被災者がおり、震災前後の被災地で住宅メーカーの社員として働くなかではもちろん、同業者から賠償金の話を聞かされることも多かったという。

 17年以上にわたり福島県で暮らす屋敷氏だが、現在は同社を退職。自宅のリフォームや修繕をメインに扱う会社に勤務している。人のお金に対する執着や欲望に当てられ、半ばノイローゼになりながらも、実情を明らかにすることを決意した。

 原発事故の賠償金を手にした人のなかには、働くことをやめてしまったり、派手に遊んでいたり、パチンコをしながら悠々自適に暮らしている人もいたそうだ。そんな姿に憤りを感じることもあったというが……。

「ぶつけようのない怒りのような衝動で『震災バブルの怪物たち』を書いたようなところもありますが、被災者すべてが賠償金で派手な生活をしていると思われるのは、また新たな誤解を生むことになる。賠償金の額の多寡に関わらず、ほとんどの方は賠償金をもらいひっそりと慎ましく暮らしています。

ただ、地元でも気心の知れた仲間内ならともかく、あまり公に賠償金の話をすることはありません。被災地におけるお金の話題は一種タブー視され、メディアでもあまり大々的には取り上げられてこなかった。それだけに、私も福島県から一歩県の外に出ると、福島県というだけで被災者として相当お金をもらっていると勘違いされることもあり、多くの県民の実状と乖離を感じていました」

◆「もらった原発被災者」と「もらい損なった津波被災者」

 そもそも被災地に縁遠い人なら、原発避難者と津波被災者の支援が一緒くたに考えられている向きもあるが、東電の賠償金の対象者は原発~20キロ圏内と20キロ超~30キロ圏内の住民だけ。前述のとおり、この30キロラインからわずかでも外に出れば自主避難区域となり一切、支払われない。

 東電による賠償金が平均的な4人世帯で約6300万~1億円超という莫大な金額である一方、逆に津波被災者の場合、被災者全てが対象の「生活再建支援金」しか基本的には存在しないのが現状だという。

「生活再建支援金は数百万円単位で、家や暮らしを本当に再建するにはとても足りない。あとは代替地といって津波で流された代わりの土地を安く買えたり、好条件で融資が受けられたりする程度。東電の賠償金の額もバラツキはありますが、東電からの賠償金をもらえる人ともらえない人では、特に大きな差がある。少なくとも津波被災の方は相当複雑な感情を抱いていると思います。生活していた家を失ったという意味では、原発避難者も津波被災者も同じわけですから」

 しかも、いわき市は東日本最大級の津波被災地。いわき市沿岸部の薄磯地区の津波被害は死亡者115名(2017年7月いわき市調べ)と甚大だ。

 原発避難者も数多く移り住み、いわき市は境界線の内側と外側とで東電からの賠償金を「もらった原発被災者」と「もらい損なった津波被災者」が多く住むことも、事態を複雑にしているようだ。

「どこで線引きしても結局同じような問題は起きただろうと思いますが、単純に原発を中心とする同心円状の線引きは、どこまで科学的な根拠に沿ったものか疑問です。田舎なので大家族も少なくないですが、世帯一人当たり月10万円というどんぶり勘定で、7人家族だと毎月70万円も援助される。

加えて就労不能損害の補償では震災前の年収も保証され、たとえ、新しい仕事に就いたとしてもその収入分が補償から差し引かれるだけ。それで働けという方が無理な話かもしれませんが、中にはお金の使い方が露骨にハデな人も一部で見かけます」

 また、東電社員の所得証明を見た際、震災直後の“ボーナスカット”でも震災前と遜色ない年収だったという点にも屋敷氏は苦言を呈する。実際に政府から東電に資金が流れている以上、寄らば大樹の陰とも言うべき状況もあるようだ。

◆原発御殿が一等地に建設される一方で…

「いわきには広大な土地があるにも関わらず、ほとんどが農地を推奨している調整区域という土地で、住宅に使える市街化区域という土地は本当にわずか。調整区域を解除して宅地造成すればもう少し状況は変わったかもしれませんが、住宅として使える土地は調整区域の3分の1もない。

調整区域は4年に一回解除の見直しができますが、結局解除しても民間の宅地造成業者や不動産業者が間に入る。そうすると地権者の方も土地が不足している中で、なるべく高く売ろうとするのが普通です」

 平成27年度全国直上昇率ベスト10では、そのすべてをいわき市が独占しているが、宅地不足に伴う土地の値上がりよって、住宅事情は一変。様々な形で市民生活に影響を及ぼしているという。

 賠償金でパチンコをしようが何をしようが、当人の自由であることは強調しておくべきだが、莫大な東電からの賠償金の影響をモロに受けるいわき市の地元住民たちの心情がざわつかせるのも無理からぬことだろう。

 原発御殿が一等地にどんどん建設され、「警戒区域の自宅は別荘として思い切りリゾートっぽくリフォームしたい」と要望する人も、一人や二人ではないそうだが、家賃補助などの賠償金もないいわき市民は家賃の高騰で同居もままならない新婚カップルも続出したそうだ。

「私も持ち家ですが、震災前に900万円で買った土地を査定に出してみたらいま1500万円でした。住宅メーカーは所得証明から、その人にあった土地を提案しなくてはいけません。

現金のある原発被災者の方は自然と高台のいい土地に集まり、いわき市民の方はそうしたいい土地は手が届きにくくなってしまった。避難解除に合わせて補償も徐々に打ち切りになってきていますが、土地の値は急激に下がることはなく、賃貸価格もピーク時からほぼ横ばい。一度火のついた部分はなかなか元には戻らないですね。

避難解除で戻るとしても高齢者の方が多く、8年も経つと特に子供がいる世帯はもう避難先での生活があります。特に小さい子供がいる場合、いくら除染しているとはいっても、あえて戻ろうとは考えにくいでしょう」

「川の流れの澱みに浮かんでいる水の泡は一方では消え、一方では生じて、長いあいだそのまま留まり続ける例はない」とは方丈記の一節だが、数千万円単位の賠償金によるバブルの影響は、そう簡単には消えないようだ。<取材・文/伊藤綾>

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