自衛隊員には失業保険がない。身体を壊して無収入になる悲劇

日刊SPA! / 2019年4月20日 8時53分

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防衛省・自衛隊Twitterより

「自衛隊ができない100のこと 54」

◆公務員には失業保険はないという事実

 公務員は失業保険には入れないということをご存じでしょうか(念のために申し上げると「非常勤・臨時職員・再任用職員」の者については失業保険(雇用保険)に入ることができます。この場合はそれ以外の一般公務員の話です)。なぜ公務員が失業保険の適用除外になっているかについては、公務員は一般の会社員と違い会社の倒産やリストラされるリスクがないためとされてきました。でも、安定した公務員の仕事を離職しなければならないことはあります。例えば高齢の家族を介護するために仕事を辞めざるを得なかったという話もよく聞きます。しかし、自衛隊を含む公務員は基本的に失業保険には入れないままです。

◆任期が終われば失業する任期制自衛官はどうなるのか

 さて、ここで問題となるのは自衛官です。国家公務員の中でも自衛官には「若く機敏に動き回れる時期だけ隊員となってほしい」として設定された職種があります。期間限定で雇用される職員「自衛官候補生」(特別職国家公務員)です。陸上自衛官は1年9ヶ月(一部技術系は2年9ヶ月)、海上・航空自衛官は2年9ヶ月を1任期(2任期目 以降は各2年)として勤務します。規定された回数は再任が可能で、最長で7年程度勤務できます。定年まで自衛隊に残りたいと希望する場合は昇任試験を受けることができ、3曹に昇任すれば、常勤の自衛官として50代前半の退官年齢まで働く職種に変更されるという道もあります。

 ただ、大半の任期制自衛官は数回の任期が終われば退職となります。つまり、あらかじめ職を失うことが決まっている職種です。しかし、失業リスクがすでに確定している職種であっても失業保険には入れないのです。

 任期制自衛官には退職時に任期満了金と呼ばれる退職金が支給されます。退職金は再就職するまでの失業保険の代わりという位置付けではないはずですが、失業保険がなければそのように使われるのは自然なことでしょう。

 任期制自衛官は「任期満了時にもらえる退職金は預貯金に回そう」というような夢を持つかもしれませんが、その時には失業保険はないことを頭の隅に入れておく必要があります。任期満了後にそのことに気付いて求職活動中に愕然とすることのないよう、退職後の生活設計のためには最初から知っておく方がいいですね。

 この退職金は「若い貴重な時期を国防のために費やしてくれたお礼」だと思うのです。就職に有利な新卒の若者が任期制自衛官を選ぶ理由の中には、受け取った任期満了金で進学したり事業を起こしたりというような夢や希望もあるかと思います。志ある若者に報いるためにも失業手当が一般の企業退職者と同等にもらえてしかるべきかと思います。

◆自衛隊という仕事に付随する「身体負荷」というリスク

 さらに、自衛官は体力的にも危険が伴う、時には我が身を顧みず動かねばならない職業です。ゆえに、訓練中や仕事中の事故などで体に不調を起こすようなことも起こります。しかし、重大な事故や病気になった場合、残念ながら自衛隊で仕事を続けることは難しくなります。次に紹介するのは元自衛官から聞いた事例です。

 彼は夏の暑い日に訓練で重い荷物を運んで長時間歩き続けた後、筋肉繊維が壊れて力が入らなくなってしまいました。脱水症状が引き金になって起きる「横紋筋融解症」という病気です。しばらく療養した後、上司は辞めなくていいと言ってくれたのですが自衛隊での仕事ができる状態に復帰するとは思えなかったので自ら退職したとのことです(彼の場合は結果として退職後に健康を取り戻し、現在は元気に過ごしています)。自衛官は身体能力を問われる職種なので体力検定などで常に健康かどうかを問われます。そのまま残った場合に部隊の人たちに迷惑をかけるのではと悩んだようです。

 自衛隊ではこのような場合、辞めろと言われることはないのですが、現実には体が健康でないと自衛隊では配置されるべき仕事がないのです。仕事で健康が損なわれて休職する場合は「俸給の百分の八十を支給することができる」とありますが、一定期間後には無給になります。結局、「辞めろ!」とは言われなくても結果的に「辞めるしかない」ということになるのです。公務災害が認定されれば少し様子は変わりますが、公務災害認定のハードルは高く、認定されることは難しいようです。

 このように自衛官は一般の公務員よりも危険物を取り扱うことも多く、体に負荷のかかる仕事も多く、必然的に失業リスクは高くなります。それなのに一般の公務員と同じ扱いでいいのでしょうか?

 自衛官になろうという人は自分の損得など考えず、国防のためにその貴重な時間を費やしてくれる存在です。そういった崇高な心を持ち我慢強い隊員たちが文句を言うはずがありませんから、外にいる私たちが気にかけてあげないといけないと思うのです。

◆定年退職する自衛官の再就職時にも失業保険を期待できない

 さらに、自衛官は50代で定年を迎えます。階級が上がるごとに定年年齢も少しずつ加算されて上がっていきますが、大半の自衛官は50代前半で定年となります。

 その他の仕事よりも早すぎる定年時にも、失業保険に入っていないために失業手当は出ません。50代での就職はかなり厳しいものがあります。

 でも、年金受給にはまだ時間がありますから仕方ありません。

 自衛隊から再就職先に提示される職種は、警備や運送など体にはキツイ仕事も多いようです。新しい仕事になじめず、一度の就職では再雇用先が決まらない人もいます。その間、自衛官にはその生活を支える失業保険はありません。私たちは50代の元自衛官たちに預貯金や退職金や若年給付金を費やしながら仕事を探す苦労をさせていることに気づかなければなりません。

 失業保険には限りがあり、ずっともらえるわけではありませんが、自衛官は様々なシーンで失業する可能性が高い特殊な公務員です。失業保険に入るにはそのコストがかかりますから、その人の都合に合わせる必要はあるかと思いますが、彼らに報いるためにそれくらいは国がやってあげてもいいのではないでしょうか。年金受給まで働ける他の公務員と、年金受給前に確実に失業する自衛官を同じ扱いにするのは、あまりにオカシイです。<文/小笠原理恵>

【小笠原理恵】

国防ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰

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