87歳の池袋暴走事故。高齢ドライバー問題に意外な解決策がある

日刊SPA! / 2019年4月20日 17時15分

写真

 4月19日昼、東京・池袋で最悪の交通事故が発生した。87歳の男性が運転する乗用車が暴走し、次々と歩行者をはねた上にゴミ収集車に激突したのだ。通りすがりの母子が亡くなり、「高齢者による自動車の運転」が社会問題として再び注目されるようになった。

 報道によれば、事故を起こした男性は以前「運転をやめる」と周囲に話したこともあるという。

 高齢者は運転免許を返納すべきなのか——。話は一筋縄ではいかない。免許を返納したら、他に頼れる交通手段がなくなってしまう人も存在する。自家用車に代わるものがない、というのが問題を複雑にしていると言えよう。

 そこで解決の糸口になるかも知れないと期待されているのが、「ライドシェア」の導入である。

◆高齢ドライバー問題を解消する有力手段「ライドシェア」って何?

 ライドシェアとは、スマホアプリを使った配車サービスである(例えばUber=ウーバー)。サービス運営者と契約したドライバーは、オペレーションに従って利用者のいる位置へ向かう。スマホのGPS機能と連携しているから、迷うことは絶対にない。またこの時、利用者は降車地点も指定している。そこから利用料金が事前に算出されるという仕組みだ。

 ライドシェアのドライバーは、タクシー営業に必須の二種免許取得者ではない。空いた時間に働きたいと考える、ごく普通の市民だ。従って既存のタクシー業界はライドシェアを「白タクサービス」と見なし、導入に強く反発する。しかし、そんなライドシェアが各国の交通事情を劇的に進化させているのも事実なのだ。

◆ドライバーが評価される仕組み

 ライドシェアの利点として、まずは「料金が安い」ということが挙げられる。タクシー営業許可を取得していない車両を使うのだから、そのぶんだけでも大幅なコストカットが望める。さらにAI(人工知能)も駆使した効率的なオペレーションシステムにより、運行上のロスもなくなる。

 そして、ライドシェアは利用者がドライバーに対して評価点をつけることが可能だ。車内が散らかっていたり、ドライバーが無礼な態度を取ったり、煙草臭かったりということはすべてマイナス評価されてしまう。逆に、常日頃から利用者のことを最優先にしているドライバーは高評価される。すると、必然的に質のいいドライバーだけが残っていくという流れになる。

 そのため、海外ではタクシーよりもライドシェアのほうが信頼されているというケースが多い。

◆取り残されているのは日本と北朝鮮ぐらい

 海外のライドシェア導入事例はどうなのか。こんな話がある。

「ライドシェアが認められていないアジアの国は、北朝鮮と日本だけ」

 だが、内外の陸運ビジネスに精通した人からすれば、この文言を笑うことはできない。なぜなら、北朝鮮と同じ共産主義国家であるはずの中国やベトナム、ラオスにはすでにライドシェアサービスが存在するからだ。

 アジアで最も普及しているライドシェアサービスは、マレーシア発の「Grab」である。従来のタクシーよりも低料金で運行する仕組みはもちろん、チャイルドシート設置車両を呼べるサービスや飲食店と提携したデリバリーサービス、そしてそれらの利用を円滑にする電子決済サービスまで提供している。

 そのようなライドシェアサービスに、日本の既存タクシー業界が反発して大規模なデモを起こすということもあった。しかしそれは、利用者からして見れば「不便で割高なタクシーを押し付けられる」ということに他ならない。ライドシェアに代わる便利なオンラインプラットフォームを開発できない既存タクシー業界は、むしろ各国市民の怒りを買ってしまった。

 インドネシアではタクシードライバーがライドシェアドライバーを集団リンチする動画が拡散し、市民の間で「タクシーに乗るのはやめよう!」という呼びかけが起こったほどである。

◆自動運転タクシーが現実のものに

 ライドシェア最大手といえば、アメリカ発の「Uber」だ。

 池袋の悲惨な事故が発生した日、デンソーとトヨタ自動車、そしてソフトバンクはUberに対して計10億ドル(約1100億円)の追加出資を行うと発表した。これはUberが進める自動運転システムの開発を念頭に置いた投資である。

 Uberは一般ドライバーによる配車サービスでシェアを広げると同時に、自動運転の実証実験もすでに開始している。ライドシェアのオペレーションシステムはAIと連動していると先述したが、それは自動運転タクシー運用に向けたデータ収集の意味合いも兼ねている。

 ドライバーのいない車をいつでもどこでも呼び出せる、という光景はSFの世界ではなくなっているのだ。

◆高齢者だけでなく、過疎地域にもニーズが

 突き詰めて考えれば、ライドシェアの仕組みは日本の地方部に対してより親和的である。数字上の利用者は少ないが、それでも「交通の足がどうしても必要」という人が存在する地域、と言い換えれば適切か。このあたりは、過疎地域のスーパーマーケットやガソリンスタンドが撤退してしまう問題と構造が似ている。

 しかしスーパーマーケットと違うのは、車はスマホひとつでいつでも呼び出せるという点だ。今いる場所が池袋であろうと奥多摩町であろうと、同一のスマホアプリで低料金の配車サービスを利用できる。

 こうした光景が日本で実現すれば、身体能力に問題のある高齢者が自ら車を運転する必要はなくなるだろう。<取材・文/澤田真一>

【参考】

Grab,Uber

●澤田真一(さわだ・まさかず)

ノンフィクション作家、Webライター。1984年10月11日生。東南アジア経済情報、最新テクノロジー、ガジェット関連記事を各メディアで執筆。ブログ『たまには澤田もエンターテイナー』

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング