米中衝突、関税バトルの行方 チキンレースに勝つのはどちらの国?

日刊SPA! / 2019年5月21日 8時50分

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 血で血を洗う終わりのない関税バトルは、ついに“最終章”のページを開いた……。

 5月13日、米通商代表部(USTR)は、中国からの輸入品のほぼすべてに制裁関税を拡大する第4弾の詳細を発表。対象はスマートフォンやPC関連製品など3805品目に及び、最大25%の上乗せとなる。発動は6月末以降となる見通しだが、攻撃の手を緩める気配のない米国は、15日にも中国通信機器最大手「華為技術」(ファーウェイ)に事実上の輸出禁止措置を発動。5G(第5世代移動通信システム)導入直前に、中国の産業育成策「中国製造2025」を牽引するファーウェイを狙い撃ちしたことで、米中対立がさらに激しさを増すのは必至の状況だ。

 だが、高関税政策は「諸刃の剣」とも言われている。ファーウェイが公表した主要取引先92社のうち、インテルやクアルコムなど米国企業は30社を超え、地域別に見ると調達額は最大で年間100億ドル。米国市場では、ファーウェイへの輸出依存度が高い半導体企業の株が投げ売りされるなど混乱が広がったが、果たして、国家の威信を懸けたこの壮大なチキンレースに勝つのは米中どちらの国なのか? 経済評論家の渡邉哲也氏が話す。

「制裁の応酬は、米中両国ともに国内物価を上昇させ、個人消費を冷え込ませることになるでしょう。ただ、貿易依存度は米国の約20%に対して中国は約33%と影響が大きい。中国の輸出品もほとんどが中国以外の国のものと代替が利くので、これを機に多くの企業が生産拠点を中国から別の国に移すことを表明しています。中国経済は米中衝突以前から腰折れをきたしており、今回の制裁のダメージは計り知れない。

 一方、米国への影響はあくまで一時的なもので、中国からの報復関税にも耐えられると踏んでいる。昨年6月に第1弾の制裁を発表したときから、企業は制裁発動に備える猶予期間と捉え、ここに至るまでに世界のサプライチェーンから中国を外す方向で動いていた。関税収入も’17年の352億ドルから’18年には497億ドルと急増しており、これに第3・4弾の25%を上乗せすれば、莫大な税収になる。経済が好調な米国には利下げに踏み切る余裕もあり、トランプ政権は制裁合戦の副作用をコントロールできると考えているのです」

 米中のせめぎ合いは単なる貿易戦争ではなく、5G時代の到来を前に起こるべくして起きた「覇権争い」と捉える声も少なくない。東京福祉大学国際交流センター長の遠藤誉氏もその一人だ。

「トランプ大統領は、何としても『中国製造2025』を阻止しなければ、近い将来、米国は中国にハイテク分野で負けてしまうと考えている。’30年には中国のGDPが米国を上回ると見られており、ハイテク分野でも中国の後塵を拝することになれば、米国が世界のトップの座から引きずり下ろされるのに等しい。

 中国は近い将来、米国と世界の覇権を争う日がくることを見越して、一帯一路の参加国やアフリカ53か国を囲い込み、『人類運命共同体』と唱えて、彼らとともにグローバル経済圏を構成するよう着々と準備してきた。

 直近の’19年第1四半期の中国の貿易データで特徴的なのは、民間企業の輸出入増加が11%と高い伸びを示したことと、貿易相手国の多様化。なかでも、一帯一路沿線国との貿易額は2.73兆元(約45兆円)と飛び抜けて増加し、前年比9.1%の伸びを見せている。中国はこの数字を重視することで『米国の脅しなど痛くも痒くもない』と言外に主張しているのです」

◆米国寄りか中国寄りの国に世界は二分される

 実際、日本の経産省が’18年4月にまとめた「中国と米国、EU、一帯一路関係国との貿易額比較」を見ると、米国への輸出4330億ドルに対して、一帯一路関係国への輸出は6400億ドル、EUへの輸出は3740億ドルと、米国との取引き以上に活発なのがわかる。さらに、1年前には62か国だった一帯一路の参加国は133か国へと2倍以上に増えており、貿易額も2倍程度に膨張していることが窺い知れるのだ。遠藤氏が続ける。

「先頃、開催された第2回一帯一路フォーラムには150か国が参加しており、国連参加国が193なので、ほぼ全世界が参加しているといっても過言ではない規模まで膨らんでいる。これはつまり、近い将来、中国が主導した米国抜きの巨大貿易圏が誕生する可能性が出てきたことを意味しています。仮にそうなった場合、中国を核とする“グローバル経済”を標榜した150余りの国と、孤立した米国とこれに追随するわずかな国に世界が二極化されてしまう。

 振り返れば、トランプ大統領はパリ協定、TPP、そして先頃はイラン核合意からの離脱……と、『アメリカ・ファースト』の名のもと、孤立化の道をひた走っており、こうしたトランプの振る舞いが、習近平主席にとっては好機となっていると考えていい。米国が独りよがりの道に突き進むほど、習金平は『人類運命共同体』といった誘い文句を用いて、発展途上国はもちろん欧州までも自陣に引き入れようとしているのです」

 そんな中国の腹のなかを見透かしてか、現在、米国の連邦議会では、トランプ大統領以上に強い口調で「中国脅威論」が湧き起こっているという。前出の渡邉氏が話す。

「先の中間選挙を見ると、“パンダ・ハガー”(親中派)の議員は一掃されており、残っているのは民主党のバイデン元副大統領くらいで、日に日に対中強硬派の声が大きくなっている。米国が昨年制定した外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)と輸出管理改革法(ECRA)には、安全保障上問題と思われる国に対して、米国の最先端技術や重要インフラにかかわる14分野で輸出禁止措置を取ることを定めているが、これはあからさまに『中国製造2025』を標的としたもの。

 今回のファーウェイ排除は、昨年、中国企業を規制するためにつくった国防権限法(NDAA)2019に基づいたもので、大統領令を下せばテロリストや敵対国に対してあらゆる対抗措置を取ることも可能となっている。中国は、保有残高が約1兆1000億ドル(約120兆円)に上る米国債を売却するという“伝家の宝刀”を持っているが、国防予算を縛れる国防権限法を発動すれば、中国が勝手に米国債を売り払うこともできなくなる」

 5月15日、中国が米国債を3月に204億ドル(2兆2000億円)売り越し、保有額が2年ぶりの低水準に圧縮されたことが明らかになっている。中国が米国債の投げ売りという最終手段に出れば、世界経済がさらに混迷を深めるのは必至だが、この泥沼の戦いは一体いつまで続くのか……。しばらくは目が離せない。

  * * *

◆中国が報復として米国債を投げ売りする可能性は?

 第4弾となる対中関税制裁が発表された後、中国政府系・環球時報の幹部が投稿した「多くの中国の学者が米国債を圧縮する可能性を議論している」というツイートが物議を醸している。投げ売りが始まれば、米国債の長期金利は上昇。急激なドル高・元安が進み、中国から資本の流出が始まるため、可能性は低いと見られているが……。

取材・文/週刊SPA!編集部 写真/AFP=時事 Avalon/時事通信フォト

※5/21発売の週刊SPA!「今週の顔」より

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