昭和的ラブホが密集する鶯谷に登場した「第二のバリアン」/文筆家・古谷経衡

日刊SPA! / 2019年6月16日 15時51分

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完全にバリアンを模倣したホテル”ピュア・アジアン”

独りラブホ考現学/第11回

◆ラブホの概念を一変させたリゾートラブホ

 筆者は本連載第5回で、ラブホテル業界の革命児として「ホテルバリアンリゾートグループ」の存在を挙げた。その要旨とは、インドネシア共和国のバリ島(南国)をモチーフにした同ホテルが、これまで殺風景だったラブホテルの概念を一新させ、新しく「リゾートラブホ」というジャンルを開拓し、主に女性客に訴求する店舗づくりを主導することによって、業界内でも次々にバリアンに追従する動きが出てきていること(室内リニューアル)、等々である。

 確かに、「ホテルバリアンリゾートグループ」は、ラブホテル界にとっては革命であった。フロントは岩清水と小鳥のさえずりが漂う。フロアー各所には南洋の観葉植物、木彫りの彫刻やカエルをモチーフにした、いかにも南国リゾート風の小物で占められている。

 日本のラブホテル事情を全く知らない外国人がバリアンリゾートグループを訪れたなら、これが新型方式のセックス・ホテルであることに気がつくまで、多大な説明と時間を要するであろう。それほど、バリアンの衝撃は大きく、そしてバリアンの登場により旧来のホテルグループは、回転ベッド、室内自販機、スロットマシーンさえ置いてあれば、あとは適当に客のほうが忖度して帰ってくれるという方程式を崩さざるを得なくなった。

 通常のホテルと同じく、ラブホテル業界にも刷新と革新が必要で、常に顧客のニーズの先を行くサービスを提供しなければ生き残れない。バリアンが南国風の内装を貫く一方、色とりどりの入浴剤をプラスチック・カップに詰めて室内に持ち込む方式(筆者はこれを、入浴剤ビュッフェ形式、と勝手に呼ぶ)は瞬く間に、バリアン以外のラブホでもスタンダードになった。

 入浴剤をブッフェのように室内に持ち込めるという方式は、何の設備投資も必要がないのにもかかわらず、これまでのラブホテル業界では考えたことのない奇抜で新鮮なサービスであった。だから現在、少しでも改装の加わっているラブホは、ほとんど例外なくこの入浴剤ビュッフェ形式を採用しているのである。

◆バリアンそっくりのラブホが鶯谷に

 さて、そんなバリアンの起こした革命と快進撃に追従するように、既存のラブホテルを改装するなら、中途半端にバリアンに似せたものではなく、ほとんどバリアンと一緒の構造に変えたほうが良いと判断する経営者も続出した。

 そのひとつが、都下有数のラブホ街である鶯谷にある。該地にあるラブホテル「ピュア・アジアン」は、その名の通り、「アジア」をモチーフにした外装と内装に貫かれており、明らかにバリアンに触発を受けた「鶯谷における第二のバリアン」の呼び声が高い。

◆「徒歩5分」が改革を後押しした

 驚くほどバリアンに似せたホテル『ピュア・アジアン』は、保守的な鶯谷のラブホ街にあっては異端に映る。というのも、都下有数のラブホテル街で知られる鶯谷は、その街全体の知名度を生かして、旧態依然とした「昭和的」ラブホテルがまだ方々に散見される。それは「鶯谷=ラブホ街」という認知度が効果を発揮し、抜本的にホテルを改装しなくとも客が訪れるというアドバンテージを有しているからだ。

 目下のところ、「カラオケ完備」と看板で謳っておきながら実際にはカラオケ装置がぶっ壊れているとか、そういった経営進歩の欠片もないラブホテルは、まだ鶯谷には残存している。

 しかしそれは、駅からおおむね徒歩2分以内の、きわめて至便なホテルに限っていることで、同じ鶯谷といえど徒歩5分以上を要する「辺境」のホテルとなるとそうはいかない。『ピュア・アジアン』はまさに鶯谷の辺境にあるラブホであり、競合他社との差別化を図らなければ生き残れないという判断が、経営者の背を押したのであろう。

◆割高なリゾートラブホに客が流れるわけ

 変革とは、常に痛みを伴うものだ。費用対効果だけを考えるのであれば、旧態依然とした竣工当時のセンスを維持した、殺風景な「ヤリ部屋」だけをこさえて客を待っていればよい。

 しかし、日本全体の経済規模(GDP)は1997年の水準で停滞したままだが、そのぶん個人の趣味嗜好は、現在から20年以上前の価値観からすると、想像を絶するほど多様化した。非正規雇用者が労働者全体の4割を占めるにいたり、かつて日本型経営の典型と言われた終身雇用、年功序列はとうに過去のものになった。働き方が変わり、人々の価値観も変わり、人々の金銭に対する感覚も変化した。

 殺風景な「ヤリ部屋」に一泊8,000円を払うのなら、2,000円を足して10,000円を払ってでも、奇麗で奇抜で工夫の行き届いたリゾートラブホに泊まりたい、という客が圧倒的に増えた。ラブホ利用者は常に多様な選択肢を求め、ラブホに「交尾の場所」以外の付加価値を求めていることは、あらゆる客観的事実から言って、ゼロ年代以降の事実であり特徴である。この流れを否定したり無視したりすることはできない。

 ラブホは風俗営業法という厳格な法規制の下、新規の開業が事実上不可能であるという、特殊かつ閉塞的な業界である。にも関わらずこの業界で永年淘汰の流れが続いているということは、客の多様なニーズに答えられないラブホは廃業の憂き目に行き着くという資本主義の自明の法(自然淘汰)が健在であることを示している。

 現在、駅至便、ラブホ街立地というただそれだけで胡坐をかいているラブホ経営者は、良きにせよ悪しきにせよ、令和の時代、否応なくその経営の抜本的転換を余儀なくされるであろう。

◆ラブホテルQ&A

Q ラブホテルに入ったのはいいのですが、ルームサービスが貧弱で、部屋までピザの宅配を頼みたいのですが可能ですか?(41歳、会社員、男、京都府)。

A 結論から言うと可能です。というより、ラブホ自体がピザの宅配をホテルメニュー、ホテルサービスの一環として推奨している場合が多く、ホテルへのピザのデリバリーはむしろホテル側にとっても、利用客側にとっても、願ったりかなったりでしょう。仮にご宿泊・ご休憩のホテルが、ピザのデリバリーを行っていない場合でも、フロントに相談すれば受けつけてくれる場合があります。「当ホテルでは、ピザの出前は禁止しています」という法度は、筆者が知る限り一店舗も存在していません。ですので、ラブホテルのルームサービスに満足できない場合は、積極的に外部の宅配を利用するべきです。とりあえずフロント9番に電話をしてみましょう(フロントに相談する前に、ピザ屋を呼ぶのはマナー違反です)。

【古谷経衡】
ふるや・つねひら。‘82年北海道生まれ。文筆家、評論家。一般社団法人日本ペンクラブ正会員。ネット保守、若者論、社会、政治などで幅広く評論活動を行う。著書に『日本を蝕む極論の正体』(新潮新書)ほか多数。新刊に初の長編小説『愛国奴』(駒草出版)

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