ホルムズ海峡、日本タンカー襲撃事件の“真犯人”は?

日刊SPA! / 2019年6月18日 8時30分

写真

◆よりによって「和平仲介」で安倍首相がイラン訪問中に発生

 日本とペルシャ湾を行き来する年間3400隻のタンカーが通過する中東・ホルムズ海峡――。

 その周辺には、我が国が原油輸入の40%を依存しているサウジアラビアをはじめ、アラブ首長国連邦(24%)、カタール(7%)、クウェート(7%)、さらには、イラン(5%)などの国々がひしめき、資源を持たざる日本にとっては、まさにエネルギー供給の「生命線」と言っても過言ではない海域だ。

 そんな海上交通の要衝で、6月13日、日本の海運会社「国華産業」が所有する、パナマ船籍の船を含む2隻のタンカーが強襲された。国華産業によると船は2度にわたって攻撃を受けたとされ、最初は午前6時45分頃(日本時間午前11時45分頃)、船体左側後部の喫水線付近に衝撃が走り、エンジンルームで火災が発生。二酸化炭素を注入し消火したものの、その3時間後にも再び船体左側の中央付近に「飛来物」による攻撃を受けたため、フィリピン人乗組員21人は近くを通りかかった船に助けを求めて避難したという。

 折しも、安倍晋三首相と河野太郎外相が、緊迫化する米国とイランの関係修復を図るために「仲介役」としてイランを訪れていた矢先の出来事。’18年5月に米国のトランプ大統領がイランとの「核合意」からの離脱を発表して以降、米国とイランの間では緊張が高まっており、先月14日には同じホルムズ海峡付近で、サウジアラビアのタンカーが何者かによって攻撃を受けたばかりだった。

「責任はイランにある」
「安倍首相の外交努力を拒否し、日本のタンカーを攻撃することで日本を侮辱した」

 事態を受けて、米国のポンペオ国務長官はすぐさまイランを名指しで批判したが、これに対し、イランのハビブ国連次席大使も「米国の根拠なき主張を断固として認めない」「イランに対するネガティブ・キャンペーンを最大限の言葉で非難する」と真っ向から否定するなど、一触即発の様相を呈しているのだ。果たして、誰が何の目的でこのような事態を引き起こしたのか? 元自衛隊の海将で、金沢工業大学大学院教授の伊藤俊幸氏が話す。

「エンジン部分を狙うのは一般的だが、タンカーの船内には多くの区画が設けられており、仮に攻撃を受けて浸水したとしても、そう易々と沈没するわけではありません。5月にサウジのタンカーが襲撃されたときも沈没には至っておらず、今回も、沈没させることが目的ではなく、何らかのメッセージを発するための攻撃だったと見ていい。

 加えて、当初1回目の攻撃は『魚雷』によるものと報じられたが、実際は、リムペットマイン(吸着爆弾)という機雷が用いられたようです。これは、船体に磁力などで機雷を吸着させ遠隔操作で爆発させるというもの……。つまり、今回の攻撃は外洋で受けたわけではなく、港に停泊している際に仕掛けられた可能性が高い。

 米軍が、攻撃されたタンカーにイラン革命防衛隊の船が近づき、リムペットマインの不発弾を取り外す『証拠映像』を公表したが、恐らく、近海に派遣された米国艦船が当該タンカーを監視していたところ、ちょうどこのような場面に遭遇したのではないか。機雷を仕掛けた張本人なら取り外しも迅速にできるでしょうし」

◆「イラン犯行説」に懐疑的

 5月12日に起きたサウジのタンカー襲撃事件も、いまだ「攻撃主体」が特定されていない。当時も米国のボルトン大統領補佐官が早々に「イラン犯人説」を唱えていたが、イランはこのときも事実関係を完全否定し、米国政府を痛烈に批判している。

 ただ、その一方で14日に起きたサウジの石油パイプラインを標的にした無人機攻撃では、のちにイランが支援しているとされるイスラム教シーア派武装組織「フーシ」が犯行声明を出しており、イランの関与が拭いきれないのも事実なのだ。中東情勢に詳しい放送大学名誉教授の高橋和夫氏が話す。

「フーシはイエメンの反政府勢力で、独力で製造したとされる弾道ミサイルがイランの巡航ミサイルに酷似しており、イエメン正規軍の軍事パレードを攻撃したドローンもイラン製ではないかと疑われていることからも、イランがフーシを資金面で支えていること自体は間違いない。

 ただ、彼らがイランの指示通りに動く配下の組織と断定することは早計で、’14年にイエメン内戦で首都サヌアに侵攻した際もイランは制止したがフーシはこれを無視しています。

 また、サウジのパイプライン襲撃事件のときも、イランはわざわざイランの指示ではないとする声明を出しており、本音ではイランはフーシと距離を置きたがっているのではないか。今回の襲撃事件はイランが『攻撃主体』とは考えにくく、安倍首相の対話による解決を否定する勢力がイランの仕業に見せかけたものと推測できる。

 個人としてはイラン強硬派として知られるボルトン大統領補佐官、国としてはイランと敵対するイスラエルやサウジにも動機があり、これらの国の情報機関が工作に乗り出したとしても不思議はない」

「イラン犯行説」を懐疑的に見るのは高橋氏だけではない。駐イラン大使や外務省国際情報局長を歴任した評論家の孫崎享氏が話す。

「イラン政権内では対米強硬派が勢力を増しており、仮に今回のタンカー攻撃が、イランあるいはその影響下の組織によるものだとしても、その目的はホルムズ海峡の封鎖はできないまでも、通行に障害を及ぼすことができるのだという示威行動で、米国にシグナルを送っていると見るべきでしょう。

 一方で今回の件を受けて、イラン革命防衛隊の元司令官が分離主義を掲げるイランの反政府組織『ジェイシ・アドリ』の関与を指摘し、米国の名前こそ出さなかったものの『“特定の国”が支援している』と明言しています。

 ’64年に米国は米軍艦艇が北ベトナム軍に攻撃されたとしてベトナム戦争に本格介入したが、その後、ニューヨーク・タイムズ紙が『ペンタゴン・ペーパー』を入手し、戦争の口実をつくるための謀略だったことを白日の下に晒した歴史もある(トンキン湾事件)。

 トランプ大統領になって、エルサレムの首都認定やゴラン高原でのイスラエルの主権認定を行い、イラン核合意離脱やイラン革命防衛隊のテロ組織認定もやってのけるなど、イスラエルが望む政策に大きく舵を切っており、今の時点で『イラン犯行説』と断定すべきではない」

 安倍首相との会談でイランの最高指導者・ハメネイ師は「核兵器を製造も所有も使用もしない。その意図はない、すべきではない」と話したという。だが、安倍首相がイランに訪れたタイミングでこのような事態が起きたことを考えると、複雑にからみ合う米国と中東を巡る激しいせめぎ合いに、すでに日本が巻き込まれたことは間違いなさそうだ。

<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/AFP=時事 時事通信社>
※週刊SPA!6月18日発売号「今週の顔」より

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング