トランプは中国との貿易戦争を6月のG20までと決めていた節がある/倉山満

日刊SPA! / 2019年7月15日 8時30分

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6月30日、板門店の軍事境界線を挟み、互いの腹に一物ありながらも握手をする金正恩朝鮮労働党委員長と、米国のトランプ大統領。満面の笑みは台本通りだろうか?(写真/時事通信社)

― 連載「倉山満の言論ストロングスタイル」―

◆トランプは中国との貿易戦争を6月のG20までと決めていた節がある

 日本人にとって、香港情勢と消費増税は独立した二つの問題ではなく、つながっている一つの問題である。果たして、何人の日本人が自覚しているであろうか。

 そもそも、今の日本は独立国家ではない。敗戦以来、アメリカの持ち物とされた。それにソ連や中国が「そいつを俺にも寄越せ」とちょっかいを出してくる。最近では北朝鮮や韓国にまで舐められる。

 例えるならば、滅び際の清朝や李氏朝鮮のようなものだ。昔の中国や朝鮮は、どこか一つの国の植民地にされることはなかった。多くの大国に小突き回され、食い物にされた。

 今の日本は、米中代理戦争の舞台(シアター)である。当事者(アクター)であろうとする意志を捨てている。だから、大国(パワーズ)に振り回されるのだ。

 アメリカのトランプ大統領は、昨年から中国に貿易戦争を挑み、中国の習近平主席が悲鳴をあげていた。特に、携帯電話で有名なファーウェイを締め上げた。同盟国のカナダが同社社長を逮捕したのを皮切りに、禁輸措置の対象とした。

 これに呼応するかのように、香港でも100万人規模のデモが起こる。きっかけは、大陸本土への犯罪者の引き渡しに対する抗議だった。だが、当局の自由自在にされては、中国共産党に敵対する人物は、香港に入った瞬間に犯罪者扱いされて、大陸に送られかねない。自由を奪われまいと声を上げたのだ。米英もデモへの支援を表明した。

 だが、トランプは中国との貿易戦争を6月のG20までと決めていた節がある。その理由は、自身の大統領選挙だ。トランプの地盤は決して盤石ではなく、中国に対し強硬な主張をしなければ支持層の対中強硬派が納得しない。しかし、経済制裁は仕掛けた側も貿易の利益を失う。いつまでも続けていては、中国との貿易に依存している州が利益を失う。案の定、日本でのG20でファーウェイへの禁輸の大部分を解いた。手打ちである。

 G20閉幕の翌日、トランプは板門店に飛ぶ。そして、アメリカ大統領史上初、北朝鮮の地を踏み、非核化に向けてチームを形成することを公表した。これまた手打ちである。北朝鮮は中国の従属国である。ただし常に面従腹背で、「中国の頭越しに直接対話している」という格好が大事だ。北朝鮮としても、中国をギリギリ怒らせない程度に、「アメリカと話ができる」との姿勢を見せておくのは、自分の立場を強くする。東アジア情勢は、これで終わりではないが、一息ついたところだ。

◆トランプは原理原則がはっきりしているので、行動が読みやすい

 ちなみに、トランプがツイッターで金正恩に呼びかけ、一夜にして会談が決まった、などというおめでたい話があるはずがない。そういう演出に決まっていて、事前の周到な根回し無しに、そういう大事なことを決めるはずがない。トランプも金正恩も、外交に関しては慎重な男だ。外交においては、「こいつは何をするかわからない」と思わせることは時に有利になるので、突飛な人物だと思わせているだけだ。

 トランプは原理原則がはっきりしているので、行動が読みやすい。東アジアが片付けば、自分の有力な支持者であるユダヤ人が重視するイランだ。ただし、アメリカにとって中東は利益線であって死活的な利害地域ではない。言ってしまえば、影響力を行使できると都合が良いが、いざとなれば放棄しても構わないのだ。アメリカ本土から遠いし、この地域の石油に依存しなくてもアメリカは生きていけるのだから。

 アメリカにとって最も重要な地域は、南北アメリカ大陸、特にメキシコ湾だ。ここは国境線のすぐ傍にある生命線である。現在、ハイパーインフレで大混乱のベネズエラが、アメリカの最大関心事である。ベネズエラは石油産出国で、露骨な反米政策を掲げていた。ここを放置することはありえない。

 アメリカから見れば優先順位は、中南米(ベネズエラ)、中東(イラン)、東アジア(中国)である。庭先の火事、重大な取引先、訳も分からず喧嘩を売ってくる強敵、である。遠くの最強の敵(中国)を最優先にして、目の前の最弱の相手(ベネズエラ)を放置するなどありえない。

 そう言えば、1年前は「トランプは明日にでも北朝鮮を空爆する」とはしゃいでいた御仁が大量に存在したし、今でも「明日にでもトランプは中国共産党を潰す」と煽る論者もいる。中長期的にはともかく、「明日にでも」は言い過ぎだろう。

 そんなことより、7月2日、IIJ(インターネットイニシアティブ)社がファーウェイ製のスマホの大量販売を公表した。「総合的判断による」とのことだ。「総合的」とは何を言いたいのかよくわからないが、トランプがファーウェイへの制裁解除を発表した直後の発表だ。これを待っていたとしか言えまい。

 IIJとは元々、日本のインターネットのインフラを構築した企業だ。一時は潰れるのではないかと噂されていたが、今は持ち直している。敏腕の社長が就任してからだ。

 社長の名は勝栄二郎。元財務事務次官で、鳩山・菅・野田の三代の民主党政権に仕え、消費増税法案を通過させた実力次官だ。霞が関が鳩山由紀夫内閣の成立で大混乱する中、財務省だけは勝の剛腕で主導権を握り続けた。あの傲慢な菅直人も簡単に屈服し、野田佳彦に至っては「直勝内閣」とさえ揶揄された。勝は増税法案が国会を通過した翌日に退任、それから数か月で自民党総裁に安倍晋三が就任、またたくまに民主党は政権を失った。

 勝の天下りは異例だった。財務事務次官の天下り先は金融業界が慣例だが、勝はIIJの特別顧問を経て社長に就任した。

 ここまで読んでおわかりだろうか。中国情勢と消費増税の密接な関係を。

 別に私は、勝氏が中国のスパイだと断定するつもりはない。ただし、日本の国益を中国共産党に差し出して奉仕している人物だと決めつけている。日本が不況に苦しんで最も喜ぶ国はどこか。中国である。日本が長いデフレに苦しんでいる間に中国は軍事費を4倍に増やした。勝氏は財務事務次官として「デフレ期の増税」を推し進めた人物であるし、天下り先でも同盟国のアメリカが敵視するファーウェイと密接な関係を有している。

 今年の10月1日に消費増税が予定されているが、中華人民共和国の建国記念日なのは偶然だろうか。

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス「倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数

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