香港デモ、永住日本人タレント・Rieが明かす真実

日刊SPA! / 2019年8月27日 15時54分

写真

◆6月の200万人デモに次ぐ170万人が「反送中!」

 香港人の怒りが収まらない。6月に史上最大の200万人デモが実施されてから2か月、今も連日多くの市民が抗議活動を繰り広げている。8月18日には雨が降りしきる中、170万人がデモ行進。普段、若者で溢れる銅鑼湾地区の繁華街は傘を差した市民らで埋め尽くされた。

 すでに報じられているとおり、火種となったのは逃亡犯条例の改正案だ。一定の条件を満たした逃亡犯については立法会(国会)の審議を経ずに行政長官の判断で裁判所に逮捕状の発行を要請できる、とする改正だ。北京政府に任命権がある行政長官の裁量権を強めるうえに、新たに中国本土が引き渡し先の対象として盛り込まれた。だから、香港の人々は怒りの声をあげたのだ。

「’16年の銅羅湾書店関係者の失踪事件と、’18年に開通した高速鉄道の香港内での中国による出入境手続きの導入。この2つが今回の『反送中(逃亡犯条例改正反対)デモ』の根っこにあるんです」

 こう話すのは、日本の観光地を紹介する香港の長寿番組『日本大放送Go!JapanTV』(香港ViuTV)に15年間レギュラー出演している日本人タレントのRieさんだ。’00年に留学したことがきっかけで香港に定住。’03年に香港の自由を縛る国家安全保障条例に抗議する50万人デモに参加して以降、常に市民と抗議活動に身を投じてきた人物だ。

「中国に批判的な本を扱う銅羅湾書店の関係者が2か月で5人も失踪した事件は香港市民から大きな反発を呼びました。5人とも中国に無実の罪を着せられて拘束されていたからです。その後、’18年開通の高速鉄道では“香港内で”中国が入境審査できるようになりました。ここ5年で着実に中国の侵食が進んだため、香港市民の不満は溜まり続け、今回の逃亡犯条例で爆発したんです」

◆今回は『リーダー不在のデモ』

 5年前には普通選挙権を求めて雨傘運動が起こったが、2か月あまりでデモは収束している。そのときの教訓が今回に生かされているという。

「幹線道路を占拠し続けたことで、雨傘運動は徐々に市民の支持を得られなくなり、デモ隊の穏健派と強硬派の間で仲間割れも生じて弱体化してしまいました。その経験をもとに今回は2つの呼びかけがされています。一つは『Be Water』。ブルース・リーの哲学で、水のように型をなくせという意味です。一か所に留まったりせず、柔軟な戦略を取ろうというメッセージ。もう一つが『一齊嚟,一齊走』。『一緒に行って、一緒に帰ろう』という意味で、誰かが逮捕されたりしないよう、時に強硬すぎる姿勢の仲間を説得しながら戦おうと呼びかけている」

 Rieさんは、そもそも雨傘運動とは動機が似て非なるものと話す。

「普通選挙権という今までになかったものを勝ち取ろうというデモに対して、今回は一国二制度と香港の自由を“守る”ための戦い。だから、若者だけでなく、親世代、シルバー世代、司法界、金融界、医療業界、航空業界、教職関係、公務員など、それぞれに特化したデモが同時開催され、団結しながら抗議活動を続けているんです。
 一見バラバラなのにまとまっているから、『リーダー不在のデモ』とも言われています。資金が尽きて食事を我慢する学生もいることを知った親世代は街頭の寄付活動に長蛇の列をつくり、食事券やスーパーの商品券まで自主的に提供。金物屋さんは中学生までもがヘルメットや催涙弾から身を守るためのガスマスクを求めてやってくることを心配しながら、『拒否しても彼らは無防備な格好でデモに行くだけ』と格安で販売したり、無料であげたりもしている。こんなことは’14年には見られませんでした」

 それだけに、中国の工作どおり日本でも「デモ隊が暴徒化」と報道されることに強い憤りを覚えるという。

「立法会を破壊・占拠しましたが、暴徒化して商店を襲うようなことは一切ありません。課題が残ったとすれば、8月13日の空港デモぐらい。その2日前に警察が一人の女性の顔に向けてゴム弾を発射して眼球破裂の重傷を負わせる事件が起き、警察がデモ隊に紛れ込んでいることも発覚したことで、疑心暗鬼になった一部の抗議者たちが13日に空港ロビーを占拠したり、行動が疑わしい記者を捕らえる事態に発展したのです。
 ただ、この日の出来事はデモ隊のなかでも大きな反省事項と位置づけられ、公式に謝罪文を発表しています。最前線で警察と向き合う抗議者を“武勇派”と言いますが、彼らも決して暴力的な解決を望んでいない。だから、8月18日の170万人デモでは『今日、我々は何もしない。でも、穏健派の身に何か起きたら、我々が守る』と声明を発表しました。
 そんな彼らのことを、穏健派も心配している。平和に抗議しても無反応な政府にプレッシャーをかけるため、身を挺して対峙してくれているからです」

◆警察に対する反発心から団結力は強まる

 背景にあるのは、改正案への反発心と香港警察に対する強い不信感だ。

「香港警察はジャッキー・チェンの映画にもなったように、香港人に愛される存在でした。私も香港警察グッズをたくさん持っていました。ところが、雨傘運動で催涙弾がバンバン発射されて警察不信が募るようになり、今回のデモで完全に市民の敵になってしまった。7月21日には白シャツ軍団などと言われる暴力集団100人以上が駅で一般市民をも巻き込みながらデモ隊を襲撃して45人を負傷させましたが、1か月以上たった8月22日にようやく3人が起訴された状態。
 一方で、抗議者や抗議者と疑われた一般人は2か月で700人以上も逮捕されている。親中派の香港議員が白シャツ軍団と握手を交わす映像が残っているので、彼らは政府側と繫がりがあると考えるのが普通。だから、警察は見逃しているのでは?と言われています」

 そんな危険と隣り合わせの現場にもかかわらず、一向にデモ参加者が減る兆しはない。むしろ警察に対する反発心から団結力は強まっている。

「9月2日から学校の新学期が始まりますが、中高大学生が授業のボイコットを呼びかけています。そのため『ごめんなさい先生。私たちは学校に行きません』とメッセージを発信する学生もいるのですが、先生たちも『大丈夫。私たちも一緒にデモに行くから』と返しているような状態なんです。だから、たとえ中国が軍を投入しても、抗議者の心を折ることはできない。一時的に、家に帰って寝るだけ。仕事もせず、学校にも行かず、香港が完全停止して中国の軍が引き揚げたら、またデモに繰り出すとみんな口々に話しています」

 香港の自由を守る戦いはまだまだ続きそうだが……これ以上の負傷者・逮捕者が出ないことを祈りたい。

▼ネット上でも抗議者に圧力をかける中国の影……Rieさんのツイッターには毎日のように「殺す」といった脅迫文が届くという。その背後にいるとされているのも中国政府。実際、米フェイスブックとツイッター社は今回の香港デモで「900件を超える不正アカウントが中国政府による情報操作に使われていた」と名指しで批判している。この中国のネット対策を担う部隊は「五毛党」と呼ばれる

【Rie】
’04年から香港で芸能活動を開始。その傍ら、抗議活動にも参加するRieさん。ツイッター(@japanavi)では今回のデモの情報を毎日配信中

取材・文/週刊SPA!編集部 写真/AP/アフロ
※8/27発売の週刊SPA!「今週の顔」より

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング