“あおり運転僧侶”と間違われた住職を直撃。ネット上の罵詈雑言は残り続ける…

日刊SPA! / 2019年9月4日 8時32分

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拡散された「あおり運転僧侶」

 今年1月、大阪府松原市の僧侶(61)が、乗用車を運転中の会社員の男性(36)に対しあおり運転を繰り返した挙句、信号で停止した際に車から降りて後方の運転手に暴言を吐き、胸ぐらを掴んだ事件が起きた。この僧侶は8月21日に書類送検されている。

 ドライブレコーダーに残された映像に収録された関西弁の怒号はもちろんだが、何より世間に衝撃を与えたのが、法衣を着た僧侶のガラの悪い姿。教師や医者などと並んで聖職者のように認識されている僧侶のこのような映像は、マスコミやインターネットであっという間に日本中に広められた。

◆犯人に間違えられた住職がいた

 報道の中では「松原市内の寺の住職を務める61歳の男」とのみ伝えられたが、例によってネットは身元探しに躍起になり、すぐに僧侶の名前や寺の名前が晒されていった。その後何が起きるかは火を見るよりも明らかで、同寺に対し誹謗中傷や無言の電話が引きも切らなくなったという。

 しかしここで、ほとんど表に出ていない「二次被害」が起きていた。送検された男が住職をつとめる寺と同じ松原市内の、わずか約1.5kmの場所に、なんと同じ名前の寺があったのだ。そしてこの無関係な寺が謂れのない誹謗中傷を受けていた。

 筆者が被害にあったこの寺に直接電話をし、「近隣のお寺のことで」という旨を伝えただけで「あぁ」と合点がいったような返答があった。住職によると、現在は(取材日9月1日)イタズラ電話もかなり落ち着いてきたというが、報道された当初は無言電話などが相次いだという。

 謂れのない被害を受けることにどう感じるか尋ねると「縁なので仕方のないこと。何か聞かれればうちは無関係ですよと答えるだけです。ご心配いただきありがとうございます」と返ってきた。仏教は「縁」を大切にしているが、「悪縁」ともいえるこの関係さえも穏やかに受け止める住職には感服する。

 住職によれば、無言電話や「あの事件はお宅か?」という問い合わせはあったものの、暴言を吐かれることはなかったという。その言葉には若干安心したが、ネットを見てみると、それが思い過ごしであることに気づかされた。

 ある大手口コミサイトでは、この寺の欄に「暴言暴力坊主」、「バカにつける薬はない」、「ヤクザやチンピラと変わらない」などと、まったくの勘違いによる誹謗中傷の言葉が並んでいたのだ。

 こうした汚い言葉の流れ弾を、住職が目にしたらと思うと心が痛くなる。そればかりではない。現代の人々は、お寺が必要になったときにはインターネットで探すことが多いだろう。その際、誤って放たれた罵詈雑言が、無関係なこの寺を邪魔することになることを考えると、気の毒でならない。

◆過去の過ちは生かされないのか?

 1999年お笑いタレントのスマイリーキクチさんが、ある殺人事件の犯人グループの一員だというデマを流された。まったく無関係であった本人は、その否定に東奔西走するが20年が経った今でも誹謗中傷の火はくすぶり続けている。

 無罪であることの証明があまりに困難であることから、司法の場でもそれは「悪魔の証明」と言われている。無関係の人物が藪から棒に突きつけられた罪に、誹謗中傷の絨毯爆撃をあびながら悪魔の証明をしてみせることの辛さは計り知れない。そうしたことからもスマイリーさんは今でも、同じような事件が起こるたびに、注意喚起をし続けている。

 ここには大きく分けて2つの問題がある。まず一つは個人が独断で、加害者(と思われる)の情報を特定し拡散すること。これを拡散をする者の意見は「公表しない警察やマスコミが悪い」と言う。しかしそれによって、今回の寺のように無関係な人にまで当たる流れ弾の責任をどう取るというのだろう。

 もうひとつの問題は「罪を犯したものは、何をされても仕方がない」という感覚があるということ。日本は法治国家であるが、誹謗中傷やイタズラ電話をする人々は「その法が甘い」と反論する。しかし、法の甘さは法に対して訴えるべきであり、現行の法の中で罪を犯した者に対して「ネット私刑」をおこなうのは全くの見当違いではないか。

 何気なくSNSに書き込んだ、加害者(と思われる)ものの個人情報が、10人に拡散されるか、10万人に拡散されるか予測できるか。

 今回の件に限った話ではないが、そんな予測もコントロールも効かないネット私刑には、厳しい罰が必要だと筆者は感じる。<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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