ラグビーW杯の楽しみ方を『スクール☆ウォーズ』のモデル・大八木淳史が解説

日刊SPA! / 2019年9月10日 8時30分

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大八木淳史氏

 4年前、日本中を熱狂させた「世紀の番狂わせ」の再現とはならなかった。

 9月6日、「リポビタンDチャレンジカップ2019」が埼玉・熊谷ラグビー場で行われ、世界ランキング10位の日本は、同5位で’15年のラグビーW杯で歴史的勝利を収めた南アフリカに41-7の大差で完敗した。20日に開幕するW杯に向けた最後のテストマッチ、日本は前半4分にチームのエース、WTB(ウィングスリークォーターバック)の福岡堅樹(27・パナソニック)が右脚を痛めるアクシデントが発生。南アに3トライを許し22点ビハインドで迎えた後半、WTBの松島幸太朗(26・サントリー)が40m独走のトライを返すも力及ばなかった。

「得点のチャンスはつくったが、自分たちのミスで逆にやられた……」

 試合後、代表チームを率いるジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチはこう振り返ったが、本番直前で不安が噴出した格好だ。果たして、我らが“ジョセフJAPAN”は、2週間後に控えたW杯の晴れ舞台で本領を発揮できるのか?

 今回、’87年と’91年の2度のW杯に出場し、日本代表30キャップを誇る大八木淳史氏を直撃。伝説のメガヒットドラマ『スクール☆ウォーズ ~泣き虫先生の7年戦争~』(TBS系列で’84~’85年に放送)のモデルとされる京都・伏見工を卒業後、’18年に急逝した故・平尾誠二さんと共に同志社大学で大学選手権3連覇、神戸製鋼でも’88~’94年度に日本選手権7連覇を果たすなど、長年日本ラグビー界を牽引してきた「レジェンド」に、「にわかファン」でも堪能できるW杯の楽しみ方を聞いた。

 * * *

――いよいよW杯が始まるが、今の「盛り上がり」についてどう感じているか。

大八木:日本のラグビーは、Jリーグのように地域に密着して発展してきたわけではないので、地元の「代表」という共感が得にくいというのはある。大学ラグビーは伝統を重んじた一部のエリート校が集う花形競技ですし、社会人ラグビーは社内の福利厚生や社員の士気向上のために行う企業スポーツだったので、一般の人からすれば親近感が湧きにくく、せっかくの自国開催のW杯なのに、どうしても盛り上がりに欠けてしまうのです……。

 ’70年代後半に大学ラグビーが人気となり、’80年代半ばにはドラマ『スクール☆ウォーズ』がヒットして一大ブームが訪れたが、それ以降は、’95年の第3回大会で日本がオールブラックス(ニュージーランド)に145対17で完敗したのを機に人気は急降下……。

 長い低迷期をようやく抜け出したのは、当時、世界ランキング3位だった南アにジャイアントキリング(番狂わせ)で勝利し“五郎丸ポーズ”が話題となった4年前のW杯です。つまり、日本のラグビーは20年ほど時間が止まっていたようなもので、“空白”の時代もラグビーを見続けていたのは一部のコアなファンくらい。

 だから、「にわかファン」でもいいので、今回のW杯をきっかけにラグビーに興味を持ってくれる人が一人でも増えればいいと思っていますよ。

◆味方チームの選手を「いかに余らすか」

――盛り上がりに欠ける理由の一つとして、「にわかファン」には近寄りがたいルールの難解さがあるのではないか。

大八木:ひと言で説明するならラグビーは「陣取りゲーム」。ラグビーはボールを前に投げたり落としたりするのが禁止で、後ろにパスするか前に蹴らなければならないが、このとき注意して見てほしいのが、味方チームの選手を「いかに余らすか」という点。例えば、僕がボールを持っているところに、敵陣の選手2、3人がタックルにくれば、その分、相手チームの選手が欠け、余った味方の選手が自陣を前に押し込むことができる。

 ラグビーは、体の激しいぶつかり合いが認められているスポーツで、「常に紳士であれ」、「卑怯なことはしてはいけない」という原則が貫かれているが、これだけ押さえておけば、細かいルールはわからなくとも楽しく観戦できますよ。

――強豪ひしめく今回のW杯で、日本代表チームはかねてから目標として掲げていた1次リーグ突破を実現できるのか。

大八木:今年に入ってからの日本代表チームのテストマッチは通算成績3勝2敗。どの試合を見ても平均して強さを維持できているので、ワンサイドの大差で負けるようなことはないと思いますよ。

 日本(世界ランク10位)と同じプールAに入っているのは、アイルランド(2位)、スコットランド(7位)、サモア(16位)、ロシア(20位)の4か国だが、決勝トーナメント(以下T)に進出できるかどうかは、初戦のロシア戦にすべてが懸かっている。ジェイミーが考えるベストメンバーをぶつけて、どんな手を使ってでも、何がなんでも、絶対に勝ち切らなければならない!

 開催地の利でファンが多く駆けつけてくれるでしょうし、気候はほかの国にはない異様な蒸し暑さ、日程も最も格下のロシアが初戦といいことずくめ。最初の試合に勝てば日本全体も盛り上がり、追い風になることは間違いないでしょうね。

――ロシア戦に勝利すれば目標が見えてくる?

大八木:前回W杯で、日本は3勝したにもかかわらず得失点差で決勝Tに進めず、“最強の敗者”と称されたことを考えれば、一番格下のロシア戦では大量得点しておきたいところ。ただ、ロシアに勝っても、色気を出してアイルランドも……なんてことは思わないほうがいい。

 アイルランドの初戦は、プールAで2番目に強いスコットランド戦ですが、順当にアイルランドが勝ったら、やはりアイルランド戦は「捨て試合」とし、力を温存して、その後のサモア戦とスコットランド戦にすべてをぶつけるべき。とはいえ、シナリオどおりに進んだとして、1次リーグ突破の可能性は……厳しいですが、それでも20~30%じゃないでしょうか。

――日本のラグビーのよさはどこにあるのか。

大八木:日本の伝統的なラグビーは、早稲田大学ラグビー部の名将で、’66~’71年にジャパンの監督も務めた大西鐵之祐氏が唱えた「接近・展開・連続」がベースにあり、これは、体格的に劣る早大を率いていた大西監督が、ライバルの明大に勝つ方法として編み出した理論です。

 体の大きい相手にはスペースを与えず、できるだけ「接近」してプレーし、相手選手と接触する寸前に、味方に正確なパスを出し、人もボールもワイドに「展開」する。そして、こうしたプレーを「連続」させる戦術は、フィジカルの強さを武器にする選手が多い諸外国との試合でも通用します。

 ボールを支配し、ショートパスを多用し、人もボールも動く日本のラグビーができれば勝利は近づく。現在の代表選手はFW、BKを問わず、オールラウンダーが揃っていて、パスの技術も高い。こうした戦術に加えて、近年は多くの外国人選手も代表入りしている。

 彼らはプロ意識が高く、日本人以上に日本を背負って戦うハートを持っているので、今も日本代表チームは進化し続けていると言っていい。南半球の国は、接戦になっても最後には何となく勝つというチームが多く、自分たちの勝ち方を持っている。

 一方、アイルランドやスコットランドも勝ち方を知っているわけですが、前回W杯で日本が優勝候補の南アに勝ったのは、向こうのシナリオにないことを日本がやったから。だから、日本が決勝Tに進出するには、相手国の筋書きをどう裏切るかに懸かっている。

◆ラグビーは多様性を重視したスポーツ

――確かに、近年の日本代表チームは、バラエティに富んだタレント(才能のある選手)揃いのチームという評価がある。

大八木:今回のW杯では、FWは、力のあるフランカーの姫野和樹選手(25・トヨタ自動車)、BKは、一瞬の隙を突く「スピードスター」と称されるウィングの福岡選手に特に注目していますが、そもそもラグビーは「社会の縮図」なんですよ。例えば、学校には背の高い生徒もいれば、太った生徒もいる。足が速い生徒も遅い生徒もいる。こうした人たちに適材適所のポジションを設けたのがラグビーなんです。

 サッカーにしろ、水泳にしろ、マラソンにしろ、同じ競技をしていれば、選手の体格はだいたい似たようなものですが、ラグビーはそうじゃない。つまり、ラグビーは「個」を最大限に優先している。15人という多人数でプレーするのに、多様性を昔から重視しているわけです。

 日本代表に外国人選手がいるのも、多様性を重んじて、外国人でも代表資格を得られる規定があるからで、日本人がほかの国の代表になることもできる。こんなスポーツ、ほかにはありませんよ。

――自国開催ということもあり、世界標準のプレーを一目見ようと、多くの「にわかファン」がスタジアムに詰めかけると見られているが。

大八木:野球やサッカーと違い、ラグビーはホームとアウェイで観客席が分かれておらず、隣に対戦相手のファンが座っていたりするが、ケンカにはならないんですね。ラグビーの強い国は大抵“パブ文化”のある国で、試合前にパブで対戦国のファンと一緒に、ラグビーの話をつまみにビールを飲む。

 スタジアムでは観戦しながら飲み、終わればまたパブで試合を振り返りながら飲む(笑)。ラグビーファンの「たしなみ」とはそういうものなんです。ラグビー選手もよく飲むしね。どの国の選手も10ℓはビールを飲むんちゃうかなぁ(笑)。

 ’87年にオールブラックスが初来日したとき、対戦後に芝パークホテルでレセプションがあったのですが、1試合戦った後だというのに19時くらいから朝まで延々と飲むんです……。バーテンダーも偉いもんで、朝方になっても店を閉めない(苦笑)。僕らはさすがに朝帰ったんだけど、後で聞いたら、時計がもう一回りして翌日の朝食までぶっ続けで飲んでいたらしい(笑)。

 そのときは、さすが、世界最強と言われるオールブラックスやなぁと思いました。まぁ、選手は別として、大会中に対戦相手の国から来たファンを見かけたら、ご当地グルメを教えてあげたりすれば、W杯をより一層楽しめると思いますよ。

 * * *

 20日のロシアとの開幕戦は、東京スタジアム(東京都調布市)で行われる。2戦目は28日に小笠山総合運動公園エコパスタジアム(静岡県袋井市)でアイルランド戦、3戦目は10月5日に豊田スタジアム(愛知県豊田市)でサモア戦、そして、10月13日に横浜国際総合競技場(横浜市)で行われるスコットランド戦で1次リーグ最終戦を迎える。

 果たして、開催国日本は、念願の1次リーグ突破を叶えられるのか?ラグビー熱が盛り上がるかは初戦に懸かっている。

★全国の12会場で開催。44日間の激闘が始まる……ラグビーW杯は44日間にわたって熱戦が繰り広げられる。20日に東京スタジアムで行われる日本vsロシアの開幕戦を皮切りに、会場は、北は札幌ドーム(札幌市)から、南は熊本県民総合運動公園競技場(熊本市)まで12会場に上る。無料、チケットなしで訪れることができるファンゾーンのうち、全国18会場で日本戦のPVも楽しめる

取材・文/週刊SPA!編集部 写真/時事通信社 AFP=時事
※週刊SPA!9月10日発売号「今週の顔」より

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