アウトローからオタクまで。俳句・川柳界の新潮流が、疲れた現代人の心を癒す

日刊SPA! / 2019年10月11日 15時50分

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毎週金曜日、新宿・歌舞伎町「砂の城」で開催される「屍句会」

 定型(五七五)や季語のルールにとらわれず、心に抱えたやりきれない思いを句に乗せて詠み明かす“アウトロー俳句”。ネットでは、ブラックな日常を描いた川柳や、オタクに特化したコアな川柳コンテスト、スマホ俳句アプリなどが話題だ。

 いま、俳句・川柳界に新たなジャンルの波が押し寄せている。

◆心に闇をかかえた者たちのよりどころ「屍句会」

「うちの句会には、依存症やうつ病の患者、ニート、女装家など、いわゆる “はみ出し者” たちが集まります。とはいえ、本当は互いに素性もほとんど知らなければ、本名も知りません」

 俳人・北大路翼氏は、ほぼ前歯の抜け落ちた笑顔を向けてこう語った。ギャンブルが好きで、負けるたびにペンチと木槌で歯を抜いてしまうのだという。

 雑多な街、新宿・歌舞伎町の片隅に、「砂の城」という今にも崩れ落ちそうな名がつけられた、小さなサロンがある。北大路氏はここの管理人であり、俳句一家「屍派」の家元を名乗る。

 北大路氏率いる「屍派」は、俳句界に “アウトロー俳句”という新たなジャンルを確立させ、メディアにも進出するなど精力的に活動を行う、はぐれ者たちの集まりだ。

「“アウトロー俳句”というジャンルは、いつの間にか名づけられていた」という北大路氏。

「“アウトロー”とは悲しみや怒り、嫉妬など、人間のネガティブな感情を受け入れる、懐の深さ」だと定義しているという。

◆堅苦しいルールはナシ、スピード感が特徴の句会

「砂の城」では、毎週金曜日に「屍句会」が行われる。狭い階段を上がると、雑然とした壁に囲まれた空間にたどり着く。

「句会はいつも、ひとつ上のフロアの座敷部屋で行われますが、今日は暑いので」と、取材時の句会は、バーカウンターが設けられたフロアで行われた。

 句会では、まず「お題」と10分間の投句時間が与えられる。参加者は投句用紙に俳句を書き、座の中央にある日本酒の空き箱に次々と投句していく。投句が終われば、すぐさま披講(詠み上げ)と講評に移るのが「屍派」のスタイルだ。この模様はネットにも同時配信され、Twitterでの投稿も受け付けている。

「屍句会」には、堅苦しいルールは特にない。「俳句の基本である定型や季語は、なくてもいい。キレイな景色を見てキレイな句を綴る必要もない。お題に合わせて、自分の感情をすりよせていくことがいちばん大切」と北大路氏は語る。

「屍句会は、脳に直接来るようなドライブ感を大切にしています。本当は、俳句の基本を知るのが必要ですが、やっているうちに自然に体が覚えてくるもの」

「屍句会」の参加は予約不要。好きな時間に来て、途中で帰ってしまっても構わない。

「投句はしてもしなくてもOK。好きなものを持ち込み、飲み食いしながら雰囲気を味わうだけでも大歓迎」(同)

 今夜も「砂の城」は、心に抱えた闇を句に吐き出し、ともにわかち合う人々のあたたかな笑い声に包まれている。

◆俳句・川柳界の新潮流はネット界にも

 一方、ネット界においても新たな俳句・川柳の波は押し寄せてきているようだ。

 日々のできごとやその時の思いをストレートに句に乗せ、「#自由律俳句」のハッシュタグをつけてSNS上に投稿するユーザーが増えている。「自由律俳句」とは、五七五や季語のしばりのない、感情のおもむくままの表現に重きをおく俳句のことだ。
 
 TwitterやInstagramでは、ユーザーの心模様をリアルタイムに映した句が次々と投稿される。「#自由律俳句」は、現代を生きる人々のさまざまな感情をうかがい知ることができるハッシュタグなのだ。

◆ブラックからほのぼの系まで 川柳コンテストを毎週開催「まるせん」

「みんなで楽しむ川柳投稿サイト まるせん」は、月に1万句以上の投稿が集まる、国内最大級の川柳投稿サイト。「憂鬱川柳」「ろくでなし川柳」「ぼやき川柳」など、毎週オリジナリティにあふれたお題で川柳コンテストを開催している。

 ユーザー登録をすれば誰でも参加可能で、優秀賞に選ばれればギフト券などの賞品を手にすることができる。

 サイト内では過去の受賞作品が閲覧できるほか、優秀な作品は「今日の一句」として、InstagramなどのSNSに公表される。

 投稿作品に対して他ユーザーとのコメントのやりとりや、投稿数に応じたランクづけの機能もあり、俳句コミュニケーションの場として盛んな活動が行われているサイトだ。

◆見知らぬ人と俳句を詠み合うスマホアプリ「五七五オンライン」

「五七五オンライン」は、スマホで俳句が作成できるアプリ。自身が作成した俳句は、ランキングにエントリーできるほか、SNS上にシェアも可能だ。Twitter上では「#五七五オンライン」ハッシュタグで、アプリユーザーの投稿作品が見られる。

「みんなで詠む」機能では、ネット上の見知らぬユーザーとマッチングが行われ、リアルタイムで上の句・中の句・下の句を交互に詠み合う。中には、句の中で短い会話を楽しむ者も。俳句を通じた新しいコミュニケーションツールとしての機能も持ち合わせているようだ。

◆「第15回 オタク川柳大賞」の賞品は……。

 インターネットプロバイダー事業を手がけるインターリンク社は、2019年10月1日より「第15回 オタク川柳大賞」の作品募集を開始した。

 キャッチコピーは「人はみな 何かしらかの オタクです」。例年、優秀作品には賞金やギフト券、入選作品にはオタクグッズを贈呈。最優秀作品に選ばれた投稿者には“ネ申”の称号が与えられる。昨年の“ネ申”は「細胞は はたらいているが 俺無職」。

「オタク川柳大賞」の認知度は年々上がり、ここ数年は約1万句の応募が集まる。さらに、今年の募集告知では例年にない試みが見られ、Twitterやネットニュースで話題となった。その理由をインターリンク社に聞いた。

「毎年、“ネ申”には賞金として10万円を贈呈していました。しかし、今回は“未来永劫取返しのつかぬオタクであることの証”として、胸像を作って差し上げることにしました」(広報部)

「やはり“ネ申”になる人には“お金よりも名誉”を得てほしい」という思いから、今回の賞品に決まったという。なお、胸像の制作は、3Dプリント事業を展開するメルタ社が行う。

 この告知には、ネット上から「いらねえぇぇぇぇw」「胸像するなら金をくれw」など、さまざまな嘆きの声が寄せられた。しかし、中には「胸像:異人から偉人にクラスチェンジするのに必要なレアアイテム」「貰えたら小学校に寄付しようと思います!」といった賛同の声も、ごくわずかにあるという。

 同コンテストでは、公式マスコット「12代目 にゃこ式部」の猫耳コンテストも同時開催している。二次元(イラスト)・三次元(実写)とふたつの部門があり、一般投票を経てグランプリが決定する。

 グランプリ受賞者には賞金5万円と、公式マスコットとしての1年間のメディア出演やイベント参加等の特典が与えられる。

 過去の入選作品で構成されたテーマソング「オタクノミカタ」など、ユニークな取り組みも特徴的な「オタク川柳大賞」。投稿数に制限はなく、募集開始から早くも常連からの投稿が寄せられているとのことだ。

 令和の時代は、常識にとらわれない新たなジャンルの俳句・川柳が、現代の疲弊した世の中を笑い飛ばす。

文・写真/櫻井れき
※週刊SPA!10月8日発売号「アウトロー俳句がはみだし者を救う」より

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