ヘビィーな人生相談に答えるのが、じつは大変ではない理由/鴻上尚史

日刊SPA! / 2019年10月19日 15時50分

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― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

◆ヘビィーな人生相談も大変ではない理由

 どんなに長く仕事をしていても、「え!? そんなに評価されるの?」と予想が外れることがあります。知ってる人は知ってるかもしれませんが、約1年前から、おいら『ほがらか人生相談』というものを始めました。

 朝日新聞出版が発行している『一冊の本』という小冊子とネットの「AERA dot.(アエラドット)」での連載です。

 相談の内容が、「個性的な服を着た帰国子女の娘がいじめられそうです。普通の洋服を買うべきですか?」とか「うつになって妹が田舎に帰ってきましたが、世間体を気にする家族が、病院に通わせようとしません」とか「今年入籍したばかりの妻が、酒を飲むと暴言をはきます」なんていう、『ほがらか人生相談』というタイトルなのに、全然、ほがらかじゃない相談がどっと集まりました。

 自分としては、普通に回答していたのですが、気がつけば、「5000万PV突破」という閲覧数だと、担当編集者が教えてくれました。

 寄せられる相談も、月平均60本以上で、もう700以上の相談が集まっているそうです。

 こんなに反応があるとはと、ちょっと、キョトンとしています。

 毎月、ヘビィーな相談に答えるのは大変でしょうと、いろんな人に言われるのですが、じつは、そんなに大変ではありません。

 これまた知ってる人は知ってますが、おいらは演劇の演出家を40年ぐらいやっています。

 劇団でも、一回限りのプロデュース公演でも、人間が集まりますから、何らかのトラブルはいろいろとあります。

 でも、初日は近づき、幕が開いたら楽日まで、公演を続けなければいけません。「ショウ・マスト・ゴウ・オン」です。

 何があっても、ショウは続けなければいけないのです。

 なので、いろいろとゴタゴタが起こったら、なんとか「明日も公演できる方法」をずっと考えてきました。

◆すべては明日、幕を開けるために

 僕は22歳で劇団を作りました。俳優も同世代か年下でしたから、俳優としてのプロ意識なんてものはまだありませんでした。それより、みんな人生の悩みに真剣でした。

 でも、公演は続くのです。

 三角関係になっただの、浮気されただの、親が故郷に帰ってこいと言っているだの、さまざまな悩みを相談されながら、考えていることは、「明日、公演がある。どうやったら、すべてを放り投げないで、なんとか公演を続けられるのだろうか?」ということでした。

 つまりは、どんな相談にも、「観念論ではなく、理想論でもなく、精神論だけでもなく、具体的で実行可能な、だけど小さなアドバイス」をつねに探しました。

 すべては、明日の公演を中止にしないためでした。

 映画監督とかTVディレクターを頭の片隅でうらやましく思ったりした時もあります。

 映像の人達は、一度、俳優さんの演技を撮れば、後はどんな問題が起こっても問題ないのです。

 主役の男女が本当の恋仲になり、そして、片方が浮気をしてしまって最悪の関係になっても、二人の登場シーンを全部撮り終わっていれば、何の問題もないのです。こっちは残ったシーンの撮影を続けてますから、どんどん、ケンカしてちょうだいよっ!てなもんです。

 でも、演劇だと、公演がすべて終わるまで安心できないのです。今日、無事に公演が終わっても、明日、爆発する可能性があるのです。

 そんな生活を40年続けてきたので、『ほがらか人生相談』に答えるのは、じつに楽というか、自然なことなのです。

 ネットでの反応を見ると、「この相談者は人格が破綻している」「私だったら、もう絶対に口を聞かない」「すぐに絶交」なんて言葉がたくさんあります。そんなに簡単に切り捨てられたら、どんなに楽かとうらやましくなります。

 でも、「ショウ・マスト・ゴウ・オン」の現場では、そんなことは言えないのです。

 そんな相談をまとめた『鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』が朝日新聞出版から出ました。1300円プラス税です。よろしければ。

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