ソフトバンクがトヨタと組んだ理由は“自動運転普及”の先にある

日刊SPA! / 2020年5月25日 8時50分

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―[あの企業の意外なミライ]―

「あのトヨタと、ソフトバンクが組む!?」

 そんなニュースが世間を騒がせたのは、いまから約1年半前のことです。

 2018年10月、ソフトバンクグループとトヨタ自動車は、自動運転技術などモビリティ(移動手段)に関する新たなサービスで提携し、共同出資会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」を設立しました。

「ソフトバンクとトヨタが組む」と聞くと、なんだかすごいことが始まりそうな予感がしますが、これは一体何を意味するのでしょうか。実は、このニュースが話題になる前から、ソフトバンクはライドシェア企業への投資を積極的に行っていました。

 ソフトバンクはなぜモビリティに投資するのでしょうか?今後、急速に普及すると言われる“自動運転”をキーワードに、ソフトバンクはなぜ交通プラットフォーマーになりたがっているのかを見ていきましょう。

 本記事は、ソフトバンクに関する全3回の論考の最終回です。今月18日、ソフトバンクグループは2020年3月期決算の純損益が9615億円だったことを発表しましたが、同グループの多額の赤字についての考察は、第1回を読んでいただければ幸いです。

◆なぜここまでライドシェアに力を入れるのか?

 これまで、孫社長は日本よりも、世界で急成長しているライドシェア企業に投資をしてきました。

【ソフトバンクのライドシェア企業への投資史】
2014年10月 インドの「オラ」を運営するANIテクノロジーに投資
2014年12月 シンガポールの「グラブ」運営マイタクシー(現グラブ)に投資
2015年1月 中国の快的打車(アリババグループ)にアリババと出資
2015年2月 快的打車と滴滴打車(テンセントグループ)が合併し、中国最大のタクシー配車サービス滴滴出行(ディディ)が誕生
2017年12月 米国ウーバーに投資

 このように、ソフトバンクは今や世界のライドシェアマーケットの約9割に投資をしていると言われています。孫社長がライドシェア領域に力を入れる理由、それはライドシェアが自動運転がもっとも普及しやすい領域だからです。

 自動運転の技術はコストが高く、一般の人が自家用車で購入できる価格ではありません。たとえば、自動運転技術(正確には「運転支援機能」と呼ばれています)が搭載されている自動車、テスラモデルSの新車価格は最低でも約1,000万円。正直、一般の人には手が出しにくい価格です。

 一方、バスやタクシーなどの商用車ならば、その一人あたりのコストはかなり安くなります。

 仮に無人運転機能があるバスが普及した場合、ライドシェア企業は、ドライバーに払っている人件費が削減できるだけでなく、効率的な配車と移動が可能になることで、回転率が上がり、収益が高まることが予想されます。つまり、ライドシェア企業にとって、自動運転の実用化はいかにバスやタクシーで使ってもらうかにかかっているのです。

 しかし、現在の日本ではそれが難しい状況となっています。例外としてライドシェアが認められるのは過疎が進み、路線バスの維持が難しい公共交通の空白地のみ。ですが、ライドシェアは単なるコスト削減だけがメリットではありません。利用者のデータを詳細に把握できるため、ロスのない効率的な移動環境を実現できるのです。

 従来のマイカーを所有する社会では、クルマの稼働率は限定的です。クルマをシェアする社会が広がれば、駐車場にとまっているクルマが勝手に動き出し、人を乗せ、タクシーとして動いてくれます。自動車の稼働率が上げることで、人々の不便が解消されるのです。

◆移動界の“楽天経済圏”を目指しているソフトバンク

 とはいえ、ソフトバンクとトヨタの本当の目的は、そんな「不便の解消」のもっと先にあります。

 そもそも、MaaS(Mobility as a Service、サービスとしてのモビリティ)とは「ICT(情報通信技術)を活用して、マイカー以外の移動をシームレスにつなぐ」という概念です。これ、どういうことか説明すると楽天をイメージすればわかりやすいかもしれません。

 楽天市場で本棚を買い、楽天ブックスで扶桑社新書を買い、彼女と楽天トラベルで箱根の温泉旅館を予約する。支払いは楽天カードで、引き落としは楽天銀行ハープ支店。たまった楽天ポイントは楽天証券で投資に回す…。

 あなたが、こんな行動をとった場合、楽天はあなたの顧客情報をすべて一元で把握できます。楽天というプラットフォームの上で、一元的に顧客管理ができるのが楽天側のメリットです。

 これとMaaSは似ています。

 現在、電車、バス、タクシーは、それぞれの交通サービスで経路検索や支払いを行っています。

 それを、モビリティプラットフォーマーが登場することで、一つのアプリで経路検索から支払いを一元化できるのです。先ほどの楽天の例で言えば、今の交通事情は、Amazonで本棚を買い、紀伊国屋で扶桑社新書を買い、じゃらんで箱根の旅館の予約をし、支払いはエポスカードで、引き落としは足利銀行といったところでバラバラ。

 では、なぜこの世界が必要なのでしょうか?

 トヨタ自動車とソフトバンクグループの共同出資会社であるMONETは、地域社会が抱える大きく3つの課題を解決していくことを目指しています。

1:公共交通機関が離れていて、住民の移動が困難な「交通空白地」
2:バス停が遠く不便、免許返納後の移動に困っていたいる「高齢化地域」
3:公共交通機関からのアクセスが悪く、来訪者数が増えない「点在する観光地」「遠隔地店舗や病院」

 当然、これらは日本だけでの問題ではなく、中国、その他の先進国でも起きている問題。移動界の“楽天経済圏”が実現できれば、移動の効率化は一気に進むことが期待できるのです。

◆夢のある話だけど、実現度は…?

 では、MONETは本当に力を持つのでしょうか?現在、MONETでは、自動運転技術を用いて、ライドシェアやフードデリバリーなどの実現を目指してMaaS事業を進めています。

 MONETには、日野自動車、本田技研工業が2.8億円の出資をしており、いすゞ自動車、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、マツダがそれぞれ約2%の株式を取得しています。この事実を見るだけでも、日本の本気度がよくわかるでしょう。

 また、本腰を入れている一例として、長野県の伊那市と株式会社フィリップス・ジャパンとの協業事例が挙げられるでしょう。これは、医療とMaaSを連携させるという取り組み。

 2019年12月、医療機器などを搭載した車両である「ヘルスケアモビリティ」がテスト運行を開始しました。看護師が車両で患者の自宅を訪問することで、車両内のビデオ通話を通して、医師はその場にいなくとも、遠隔地から患者を診察できるというものです。

 もはや、ソフトバンクは通信会社ではなく、移動を含めたあらゆる領域のプラットフォーマーになりたいことがおわかりいただけたのではないでしょうか。ソフトバンクという土台の上に私たちの生活は成り立っている…それを実感する社会がまもなく訪れるかもしれません。

【馬渕磨理子】
日本テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

―[あの企業の意外なミライ]―

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