性教育は下ネタ? 増える若者の妊娠相談。大人側の根本的問題とは/鴻上尚史

日刊SPA! / 2020年6月17日 6時50分

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―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―

◆性教育は下ネタ? 増える若者の妊娠相談、大人側の根本的問題とは

 気になる記事を見つけました。

「一斉休校期間中、中高生から『妊娠したかもしれない』との相談が増えている」というものです。(共同通信=三浦ともみ)

 コロナ禍で暇を持て余し、不安で、同じ時間を過ごすようになった中・高校生が思いがけない妊娠をしていると報告しています。そして、それを単純に「無責任」「とんでもない」と中・高校生のせいにしていいのか、と記事は問いかけるのです。

 この事態は「妊娠に関する知識が中高生に欠落している」のが大きな原因だとして、ではなぜ欠落しているのかというと「どの相談窓口の担当者も口をそろえて『性教育が不十分だから』」と答えるそうです。

 ではなぜ不足しているのかというと「“人間と性”教育研究協議会の代表幹事、水野哲夫さんは、ある規定の存在を挙げる。その規定は、文部科学省が最低限の学習内容として定める『学習指導要領』にある」として、「一つ目は、小学5年の理科。人間が母体内で成長して生まれることを取り上げる際、『人の受精に至る過程は取り扱わない』との記述がある。二つ目は、中学校の保健体育。思春期における生殖機能の成熟を扱う場合に、『妊娠の経過は取り扱わない』とされている」

 つまり、水野さんは「一読して意味を取りづらいが、要するに『性交』を教えないということ」と説明しています。これらは教育関係者の間で『歯止め規定』と呼ばれ、性教育を実施する際のハードルになってきたと解説します。

「性教育」に対しては、エイズ問題もあって、「90年代に性教育への関心が高まった。一方で、『過激な性教育はやめろ』『寝た子を起こすな』などと、保守系政治家らによるバッシングも起こった」とします。

 この「寝た子を起こすな論」と「性教育は下ネタ」だと思われていることが、日本が「性教育の後進国」である理由です。

◆健全な学びのはずが…閉ざされた日本の性教育

 記事はこんなエピソードで終わります。

「水野さんには、忘れられない光景がある。性教育バッシングが激しかった05年の国会。自民党の山谷えり子参院議員が、ある公立小で使用されていた教材を問題視。それに対する答弁として、小泉純一郎首相(当時)は『性教育はわれわれの年代では教えてもらったことがないが、知らないうちに自然に一通りのことは覚えちゃうんですね』と述べた。すると、議場からどっと笑いが起きたという。水野さんは『性教育を下ネタのように考えている人たちがいる。子どもに責任があるのではない。問題は何も分かっていない大人たちだ』と話した」

 オヤジ達のニヤニヤと笑う顔が見えます。そして、暗澹たる気持ちになります。

 性教育の専門家、齋藤益子さんは、「性教育は性器教育ではなく、『生と性』の教育、人間教育そのものである」と言います。

 逆に言えば、日本では「性教育」とは「性器教育」だと思われているということです。だから、「寝た子を起こすな」と言うし、「下ネタ」だと思われるのです。

 性教育は、性という人間の大切なものと、ちゃんと向き合い、理解し、健全に生きてくためのものです。

 ですから、一番最初に教えなければいけないことは、「あなたの身体はあなたにとって大切なものである」ということです。

 そして、「あなたの愛した人とあなたはどんな風にコミュニケイトするのか」「自分と相手にとって、愛と性はどんな意味があるのか」ということを教えるのです。

 その一貫として、「LGBTQ」やジェンダーギャップに関する知識を学び、理解するのです。

 その過程に、妊娠や避妊の知識と理解もあるのです。

 国会で小泉純一郎氏の答弁にどっと笑った人達は、つまりは、「性に対してどう向き合うか」という根本の考えがない、ということです。そして、罪深いのは、笑った彼らの時代にはネットはなかったということです。興味本位の、間違った知識が溢れたサイトと出会う危険はなかったのです。

 文科省が世界に目を向ければ、さまざまな性教育の優秀な蓄積があります。

 いつまで「性教育の鎖国」を続けて、若者を傷つけ、追い込むのだろうと心配になるのです。

―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―

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