若年ホームレスを支援する26歳女性の挑戦 「コロナで相談が倍増しました」

日刊SPA! / 2020年7月11日 8時50分

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相談者と面談する市川加奈さん(奥)

 生活困窮者に仕事と住まいを紹介するソーシャルビジネスが、ホームレス問題を解決する一助になると期待されている。Relight株式会社の市川加奈さん(26)が立ち上げた生活サポート総合事業「いえとしごと」だ。

 住所や携帯電話、身分証がなくても、長く働ける場を提供しようと昨年4月に始まった。寮付きの求人紹介に特化したサービスで、これまでに100人以上就職につなげた。現場目線の手厚い対応が、好評を呼んでいる。

◆「面接に行く交通費はある?」「細かい作業は好き?」 相談者の要望探る

 九州から上京の20代男性が6月下旬、都内にある市川さんの会社へ訪れた。キャバクラのボーイやコンビニ店員など職を転々とし、相談時は都内に住む友人の家に居候中だった。友人からそろそろ出ていってほしいと言われたため、インターネットで住み込みの仕事探しをしていたところ、寮付きの職場を紹介してくれる「いえとしごと」を見つけた。

 男性が記入した登録シートを眺めながら、市川さんは「面接に行く交通費はある?」「細かい作業は好き?」などと質問を重ねた。上京理由などプライベートなことはあまり詮索せず、仕事と一緒に紹介できる住まい(寮)や生活再建に向けた具体的な道筋を話し合っていた。

 40分余りの面談後、翌日に1社面接を受けることが決まった。ほっと一安心する男性に、市川さんは「仕事に受かることがゴールではなく、続けることが大事です。働いてみて続けられなさそうだったら、いつでも言ってください」と伝えていた。

◆コロナ禍で問い合わせ件数毎月300件以上、2倍に

 相談者は20~30代が主で、両親との不和で実家を出た人、キャバクラや風俗で働いていた人、ネットカフェ難民、派遣切りに遭った人、前科のある人など多岐にわたる。仕事を紹介する前、市川さんは必ず面談をするようにしている。その人の性格や生活状況、どんな仕事に向いているかを把握したいからだ。

 コロナ禍でも相談は後を絶たない。4月以降の問い合わせ件数は毎月300件以上で、それまでの2倍近くだ。休業や廃業など会社都合による離職者が目立つといい、「支援が滞れば生きるのを諦めてしまうか、罪を犯してしまうかもしれません」と懸念する。

◆学生時代からホームレス問題に関心深め、新卒入社後3年で事業スタート

 高校生の頃から貧困問題に関心があった市川さんはもともと、アフリカや東南アジアなどの途上国支援に興味を持っていた。大学時代にホームレス支援団体でのインターンや炊き出しを手伝ったことで、日本国内でも未だ支援が行き渡っていない状況を知った。ホームレス問題の解決を目指し、当事者の自立を促して社会に変化をもたらせるソーシャルビジネスの道へ進むことを決めた。

 大学卒業後、国内のソーシャルビジネスで名高い「株式会社ボーダレス・ジャパン」に就職。アジア最貧国の1つであるバングラデシュでの雇用創出事業に3年間携わった後、グループ会社としてRelightを設立。「学生時代からホームレスやネットカフェ難民の方々と話す機会が多かったので」と現場の声を反映し、生活困窮者に住まいと仕事を同時にサポートできる「いえとしごと」を始めた。

◆当初は賛同者集まらず…。現在は10社ほど紹介できる態勢に

 当初は賛同者を見つけるのが大変だった。「寮付きの仕事自体が数少ない中で、はじめはひたすらテレアポ、飛び込み営業でした。『なんでそんな人たちを雇わなくちゃいけないの?』『仲介手数料を払わなくても嫌だ』と言われることもありました」と振り返る。

 現在では製造、建設、介護、新聞配達、警備など関東近郊を中心に10社ほど仲介できるようになった。時季によってはリゾート求人も入ることもあり、業種の幅も広がっている。

 一方、うまく就職できても、その後定着しなかった人も中にはいる。これまで100人余り就職したが、2か月以上仕事を続けた人は約70人ほどだ。市川さんは「無理やり仕事を紹介しても、続けることはできないのでその人のためにはならない」とした上で、相談者の要望に応えるためスピード感持って仲介することを意識する。

◆「誰もが孤立することのない社会の実現を」

 東京都がまとめた「道路・公園・河川敷・駅舎等の路上生活者概数調査」によると、都内で把握している路上生活者(ホームレス)は19年8月で1037人(前年比147人減)と4年連続で減少傾向にある。その一方、都が18年に発表した「住民喪失不安定就労者等の実態に関する調査」では、ネットカフェ、漫画喫茶、サウナなどを利用する「住居喪失者」は、都内だけで1日当たり4000人。市川さんは「『見えないホームレス状態』の人たちは、コロナ禍で増えていると感じます」と危機感を募らせる。

 市川さんの目標は、誰もが孤立することのなく、何度でもチャレンジできる社会の実現だ。世界的にみて豊かな国といわれる日本でも、目に見えにくい貧困があると感じている。

「自分にできることは、生活を立て直すお手伝い。次のステップに進みたいと思っている人たちを今後もサポートしたい」

 26歳女性起業家が放った力強い意気込みが、深く印象に残った。<取材・文・撮影/カイロ連>

【カイロ連】
新聞記者兼ライター。スター・ウォーズのキャラクターと、冬の必需品「ホッカイロ」をこよなく愛すことから命名。「今」話題になっていることを自分なりに深掘りします。裁判、LGBTや在日コリアンといったマイノリティ、貧困問題などに関心あります。Twitter:@hokkairo_ren

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