<純烈物語>拍手の代わりに万雷のシャッターを。報道陣の心を動かすステージ<第54回>

日刊SPA! / 2020年7月18日 8時30分

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―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

◆<第54回>拍手の代わりに万雷のシャッター音。無観客だからこそ垣間見られた純烈らしさ

 純烈6・23無観客ライブの取材中、マスコミ陣は困っていた。それは、ラウンドで4曲を歌い終えたあたりから明らかな空気となって場内に漂い始めた。

 困るといってもネガティブなことではない。歌いきったあと、ごく自然に拍手を送りたくなるもやっていいものかどうかを考えてしまい、結果的にノーリアクションで踏みとどまるというのが続いたのだ。

 無観客だから、本来は拍手を送る人たちがいない。なんの反応も得られなければ、代わりに素晴らしかったとの意を示してやろうと思うのが人情というもの。

 だが、この日はDVDの収録が入っている。勝手にリアクションを起こしたら迷惑になってしまうかもしれない。そう判断し、拍手をこらえる気持ちの動きが確実に在った。

 無人の客席をまわり、4曲分もの尺をエンターテインメントとして成立させてその場をハッピー空間にした純烈。仕事で来ていようが、そこに何も感じぬはずなどない。

 拍手という行為は、手の位置にその人の感情が表れる。普通に胸の前で叩くよりも、頭のあたりに上げた時の方が“ブラボー感”が強い。それを無意識のうちにやるから、嘘がない。

 ラウンドを終えた瞬間の情景が、まさにそれだった。中村座の後方に陣取った記者団は座敷に座り、カメラマンは三脚の後ろに立ったままだったが、幽体離脱するような形で感情がもう一人の肉体となって、スタンディングオベーションをしているように映った。

 そうした高揚感とは裏腹に、じっさいのところは拍手代わりのシャッター音が無機質に鳴り響く。そのギャップがなんとも不思議な感じだった。

「やってみると、あのへんにああいう人が座っていたよなと残っているから、その光景が蘇ってきました」(後上翔太)

「無観客であるのをいいことに、スカートめくりとかやりたいことをやらせてもらいましたよ。やっていることはいつもと変わらない。2周目あたりからお客さんが見えてきて、イスの木目がシワに見える。年取った人がおるなあと思ったら、すごい年輪が入ったイスでしたわ」(小田井涼平)

「お客さんがいないのが、こんなに寂しいものかと思いました。2周まわって、すごい切なくなりました」(白川裕二郎)

「この会場でやってきたことが残像として残っていて、握手したら本当におばちゃんがおることが、こういう時だからこそわかるっちゅうかね」(酒井一圭)

 初体験の「エアラウンド」を終えた4人が、それぞれの思いを口にする。観客の姿が見えたことも、そして見えたからこそその場にいない現実の切なさも“MC仕様”ではなく、本音だろう。そんなやりとりの中で切り出したのは、酒井だった。

「まあ、この状況下で純烈も解散か?なんて言われていますが……いざとなったら大阪に焼き肉屋やっとる知り合いがおるからな。純烈はこんなに頑張っとるのに、一番有名なのは元メンバーや。焼き肉屋の看板だけで俺らはニュースにならんもんなあ」

 前々日に報じられた元メンバー・友井雄亮氏の焼き肉店店長としての再起。集まった報道陣は、それに対するコメントも取材する必要があった。ただ、スキャンダルに関することとなると質疑応答のさいも持っていき方を考えなければならなくなる。

 ところが、酒井の方でMCのネタとして消化されたとあれば、話も振りやすくなる。直接的な事前の打ち合わせなどなくとも、聞く側と聞かれる側に適切な間合いが生じ、円滑に囲み取材がおこなわれるだろうと、この時点で確信できた。

◆シャッター音にさえも熱がこもる

 後半3曲は『純烈のハッピーバースデー』からスタート。イントロが流れ、歌詞の冒頭へ入る直前に小田井はギュッと目をつぶり、気合を入れるようにしてから声を出した。

 それまでMC中はニコやかにし、話を落としては客席から無音の笑いを取っていた男が、一瞬見せた生身の根性。初めて東京お台場大江戸温泉物語で純子と烈男の皆さんの声を聞いた時、一様に純烈の魅力としてあげていた「色気」を、目の当たりにした瞬間だった。

 囲み取材のさいもスチール用(写真)として動きは必要なかったのに、小田井は一人おどけたアクションを繰り返した。9曲分のパフォーマンスを終えて誰よりもシンドいはずが、カメラを向けられるとサービス精神でじっとしていられない。思わず後上が「それにしても、ホント元気ですよねえ」と半ば呆れるかのように感心するほどだった。

 もはや、一曲ごとにパシャパシャパシャと鳴り響くシャッター音にさえも熱がこもっているようにしか聞こえなくなっていた。拍手はできずとも、報道陣一人ひとりの思いがその音声に乗っかっていた。

 10年目の純烈を包んだのは万雷のシャッター音――あの頃、そんな光景は夢のまた夢だった。奇しくもこういう状況下だからこそ、それをより実感できるシチュエーションが訪れた。

 フルコーラスで歌うのは、これがまだ5回目ほどだという『愛をください~Don’t you cry~』も、とてもそのようには思えぬほどのクオリティーで歌い上げる。当たり前のことだが、4人とも息は上がっていない。

 いや、たとえそうだとしても表へ出さぬようにしていたはずだ。目の前にオーディエンスがいて声援が飛んでくれば力にもなるが、それが望めぬ中で自身を支えるとすれば「純烈を純烈として全うする」というダンディズム以外にない。

 一朝一夕のものではなく、10年という気が遠くなるような時間をかけて培ってきた姿勢。無観客だからこそより純烈らしさが垣間見られたのであれば、このDVDはまさに貴重な記録映像となるはずだ。

◆純烈はどこまでいっても純烈なのだ――

 無事、全9曲を歌いきったあと休む間もなく純烈は撮影用として、ショートVer.でもう一度エアラウンドをまわった。これも無観客だからできることで、目線が来たカットや正面顔を至近距離で取るための計らいだった。

 いつもとは違うアングルで撮影できるのであれば、そのための時間も割きましょうというマスコミに対するサービス精神。そうだとわかっていても、4ヵ月ぶりのフルサイズライブを終えた直後に応じるなど、なかなかできることではない。

 しかもそこからさらに囲み取材もある。書くまでもないがこの日、メンバー4人は一瞬たりとも嫌な顔を見せなかった。

「無観客というのは何が正解なのかわからないというか、純烈としてお客さんとコミュニケーションをとりながらライブを作る中で、その跳ね返りがまったくない。でも純烈も眠っているばかりじゃ物足りないという方もたくさんいらっしゃるし、僕たちも歌詞や振り付けを忘れるぐらい間隔が空いてしまって、じゃあ10周年経ったからと今日の運びになったんですけど……物足りない部分もあるけど、ライブは楽しかった」(酒井)

「4ヵ月近くお客さんと会えていなくて、そんなに会わなかったら普通は記憶が薄れたりするよなあと思ったりしていたんですけど、席をまわっているとあの人だったらこういうふうに楽しんでいるだろうなというのが浮かんできたので、本当にキャラの濃いしあわせなお客様に囲まれていたんだなと、ありがたく実感しました」(後上)

「久々にメンバー4人で1時間ライブをやらせていただいて、体のあちこちが悲鳴をあげています。マイクがこんなに重い物とは思わなかった。これから徐々にリハビリを重ねて、いつか皆さんの前でまた楽しいステージをおこないたいと思います」(白川)

「コロナ前に僕たちが演っていたライブの熱気をなるべく忠実に、それ以上に再現できるようにと朝から気合いを入れてきたんです。カラ回りした部分もあったけど、元気さだけは届けた自信があるし、それを皆さんに見ていただけるという思いで頑張っていました。振り付けは大丈夫でしたけど、歌詞を1ヵ所間違えてしまいました。あとは体よりも頭の記憶の方がおかしかった」(小田井)

 質疑応答が続く中で「友井さんのお店にはいきますか?」と振られると、酒井が「そこは純烈も3年連続紅白決めないといけないし、コロナで飲食店って大変ですしね。友井にも頑張ってもらって、お互いが本当に安定してまた会える日が来たら僕もお店に食べにいきたいと思っています」と答えた。そして、場が盛り上がる“反撃”も。

 代表質問を担当した人物が仰々しいほどの飛沫対策姿であるのを拾って「ショッカーみたいなカッコしやがって。仮面ライダー、久しぶりに変身するぞ!」と酒井が身構える。そこへ絶妙な間合いで小田井が「変身するのはいいんやけど、勝てる気が全然しないんですよ」とオチをつけた。

「こっちは(白川も含め)3人地球を守れるんやからな」と強がる酒井だが、もはやそんな体力は残っておらず、残念ながら小田井の方に説得力があった。これが囲み会見の締めだというのだから、純烈はどこまでいっても純烈なのだ――。

(この項終わり)

撮影/ヤナガワゴーッ!

【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』が発売

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

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