母親たちに求められる「育児か経済か」の選択。価値観の違いで対立も

日刊SPA! / 2020年8月31日 15時54分

写真

 コロナ禍においてとかく議論が紛糾しがちなのが、自粛を徹底するか、経済を優先するかの二元論。どちらを選択するかで、さまざまな社会問題が浮き彫りとなる中、母親たちの間でも「自粛派」と「経済派」の対立が起こっているのだ。

 その結果、自粛派の母親たちは孤立を深め、外部に助けを求められない状況へと陥っている。

◆「経済派」のママ友と疎遠に。夫の助けはあるものの……

「初めての育児なのに、我が子に“普通”を経験させてあげられない」と悩むのは、東京都在住の加奈さん(仮名・30歳)。

 加奈さんは昨年末に第一子を出産。産褥期(※体が妊娠前の状態に戻るまでの期間)を経て外出できるようになった頃、コロナ禍に見舞われた。

「私のようにコロナの流行直前に出産していると、やっと動ける体になっても外出できず、子供と家にこもりきりです。公園にも気軽に遊びに行けないし、ほぼ毎日子供と一緒に家で過ごしています。“普通の子育て”を知らないので、余計にいろんなことを神経質に考えてしまいます」

 子供と一緒に外出し、公園などで遊ばせてあげて、たくさんのものに触れさせる。そういった「普通」の育児ができず、歯がゆさを感じているという。

「よく言う、『つらかったら夫に子供を見てもらって、妻だけ外に息抜きにいく』が叶わない状況なので、逃げ出すこともできずに参っています。うちは夫も在宅勤務。コロナを持ち帰ってしまうかもしれないと考えると、自分だけ外へ遊びに行くのは怖くてできません」

 いわゆる自粛派の加奈さんだが、経済派のママ友からの言葉も育児へのプレッシャーを感じる一因となっている。

◆外食や旅行も気にしない…価値観の違いにウンザリ

 経済派の母親たちは、「また緊急事態宣言が出たら今度はいつ出かけられるか分からない」と、旅行などを楽しんでいるそうだ。

 加奈さんはコロナ以降、電車に乗らない・移動範囲は徒歩圏内のみを徹底している。一方で経済派のママ友たちからは、ホテルでのお茶会への誘いなどがあり、危機管理や価値観の面で違いがはっきり出たという。

 加奈さんら自粛派の母親たちに対し、経済派のママ友は「気にしすぎ」と笑う。

「子供は感染しても重症化しないらしいよとか、一回かかって免疫つけた方が楽かもよ? とか言われます。自粛していてもスーパーとかで感染する可能性があるから、どうせなら外出した方がよくない? と言われたことも。そういう人たちは週末にディズニーランドに行ったり、お盆は地元に帰省していたりして、自粛している自分たちは何なんだろうと思ってしまいます」

 育児書などには、幼児期の体験を重要視するものも多い。加奈さんも経済派のママ友から、「今いろんな人に会わせないと人見知りになるかも」と不安を煽られたそうだ。

「彼女たちの言っていることも分からなくはないんですが……気軽に行動しているのを見てしまうと、付き合い方を変えよう、距離を置こうと考えてしまいます。コロナをきっかけに人付き合いは本当に変わりました」

 0歳児を抱えた中で行動が制限されていることに対し、ストレスが溜まるという加奈さん。

「どこにも連れて行ってあげられないから、こころの発育は大丈夫かなって毎日心配です。それを考えると、危険を冒してでも外出しているママさんを羨ましいと思います。今は少しずつ自粛派のママ友とZoomママ会などをしていますが、実際に会えているわけではないので、子供の体験としてはゼロですし……」

 システムエンジニアとして在宅勤務している夫にも、コロナ禍での育児について話を聞いてみた。

「家にずっといる分、なるべく育児や家事は協力するようにしています。毎日のお風呂や寝かしつけは交代でやって、オムツ替えは気付いた人がやる、と分担しています。コロナだからと育児でストレスは特に抱えていません。むしろリモートワークになって、家庭でのちょっとした手伝いができるので良い面が多いと思います」(夫、30代)

 そう語る夫に対し、加奈さんはどう感じているのか。

「子供がまだ小さいから、今の時期に家にいてくれて大人の目が多いのは助かっています。でも夫が家にいるからこそ、いつもなら適当に済ませていたお昼ご飯をちゃんと作らないといけない。家事を前倒しにする必要もあるので、大変な面もあります」

 夫の協力がある分、まだ救いがあると語る加奈さんだが、一方で「ワンオペ育児」の末に孤立化で苦しむ母親たちも多い。

◆「通報されるのが怖い」育児相談に行ったところ…

 同じく都内在住の綾さん(仮名・27歳)は、0歳と5歳児を抱える母親。地域の育児相談に行った結果、施設から児童相談所へ通報されてしまった。

「家にいる時間が長くなって、子供もストレスを感じているみたいで……前よりわがままになってしまったんです。5歳の長女が言うことをどうしても聞いてくれず、思わず『ダメだよ』って軽くぺちんと叩いてしまいました」

 子供に手を上げてしまったことを後悔した綾さんは、住んでいる自治体が行っている子育て相談室に相談。「5歳の子への注意ってどうしたらいいんでしょうか。この前軽く叩いちゃって……」と伝えたところ、その場で児童相談所案件になってしまったそうだ。

「児童相談所からの家庭訪問があり、その時は夫と児相のカウンセラーさんと話をしてそれ以上の大事にはなりませんでしたが、今回の事で余計に精神が参ってしまいました。何か相談したくてもまた通報されてしまったらと思うと、もうどこにも相談できません」

 従来の児童虐待防止法では、児童相談所への通告対象となるのは「児童虐待を受けた児童」であった。

 しかし年々増加する虐待事件を受け、平成16年に児童虐待防止法が改正。通告対象が「児童虐待を受けたと思われる児童」に拡大された。「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」など、虐待に関する対策・ガイドライン整備も進んでいる。

 その一方で、綾さんのように「虐待と思われたらどうしよう」と悩み、誰にも相談できない母親も増えているのは事実だ。

◆地方特有の「監視」と「比較」

 都会の母親たちの「孤立化」が進む一方で、比較的人との交流が多いイメージがある地方はどうだろうか。「地方にいるからこそ、他の母親と比べられる」と語るのは、福島県在住の美佳さん(仮名・33歳)だ。

「地方で田舎だからこそ、『あそこのママはこうなのに、アナタはどうなの?』と言われることも多いです。比べられるのが嫌で、コロナ以前から人付き合いは極力避けていました」

 美佳さんは現在3歳の娘を育てているが、夫は多忙で「ワンオペ育児」状態だ。自身も子育ての合間を縫って在宅仕事をしており、休む暇も逃げ場もないと涙ぐむ。

「地域内で『あのママは立派ね』と言われる人たちは、実家が近かったり、旦那が協力的だったり、恵まれた環境の人が多いです。でも私は実家も遠いし、一人で育てないといけない。他のママさんたちと比べて自己嫌悪に陥ってしまうので、必要以上に付き合わないようにしています」

 地方特有の「ムラ社会」気質がゆえに孤立化するパターンだ。それでもコロナ以前はまだ人との交流があったという。

「今は近場の公園が封鎖されているので、子供を外で遊ばせる場所がありません。車で行ける範囲に遊べる公園がないので、他の地域の公園に行く必要がありますが、そこでは既にコミュニティができあがっています。地域以外の人と交流したくないママ友コミュニティも多いので、遊びに行っても結果的に孤立してしまいます」

 コロナがきっかけでより顕著となった母親たちの育児問題。孤独を抱えて悲鳴を上げる彼女たちを救う手はあるのだろうか。<取材・文/倉本菜生>

【倉本菜生】
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院在籍中。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。Twitter:@0ElectricSheep0

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング