なぜ、日本の凄腕ラッパーたちは“団地”出身なのか? ANARCHY、スチャダラパーetc.

日刊SPA! / 2020年9月1日 8時30分

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サイプレス上野氏

 テレビでフリースタイルバトル番組が放映され、アイドルがラップをする時代。アニメや漫画業界でも躍進は止まらず、今年10月には豪華声優を起用したアニメ『ヒプノシスマイク』(TOKYO MX)が放送開始、また週刊SPA!連載中で9月2日に単行本が発売の『少年イン・ザ・フッド』も予約好調だ。市民権を得たヒップホップだが、重要なキーワードがある。それは過疎化が進む「団地」だ。なぜ、団地が凄腕のラッパーを生み出すのか、そのルーツを探る!

◆団地というゲットーから世界に広がった多様性

 地上波でのフリースタイルバトル番組や、声優軍団によるラップユニット「ヒプノシスマイク」のブレイクなど、すっかりお茶の間に浸透したヒップホップ・カルチャー。誕生から約50年となるこの文化を語る上で、欠かせないキーワードが「団地」だ。音楽ライターの磯部涼氏は、国内外の歴史と団地の相関性をこう語る。

「そもそもヒップホップは、’70年代初頭、サウス・ブロンクスというニューヨーク郊外の巨大団地で生まれた文化です。都市計画によって半強制的に移住させられた貧困層の有色人種の若者たちが、『プロジェクト』と呼ばれる団地の遊戯室や公園で始めたパーティが発端。

 ただ、興味深いのはその後、例えばパリ郊外の公営団地『バンリュー』など、世界中の同じような環境で同時多発的にその土地に根付いたヒップホップが生まれていったのです」

 ’86年にRun-D.M.C.が初来日するなど、文字通り日本にも上陸したヒップホップは、徐々に全国に広がりを見せ’00年代以降、他国々同様「団地」が重要な舞台になったのだという。

「京都市伏見区にある団地『向島ニュータウン』での生活をラップで表現したANARCHYの登場は、その後の日本のヒップホップシーンに大きな影響を与えたと思います。実は、それ以前にもスチャダラパーのANIとSHINCO兄弟など、団地育ちのラッパー、DJがいなかったわけではありません。

 ただ、積極的に地元をレペゼンする(=represent:代表する)という感覚はそこまで強くなかった。そうしたアーティストの活躍を’90年代に日本各地で見聴きして育った世代が、’00年代にやはり同時多発的に活動を始め、現在のバトルブームなどに続く日本におけるラップ表現の確立に貢献したという流れがあります」

 ’80年代まで全国的に隆盛を誇った暴走族ブームの終焉と入れ替わるように、地元意識の強い不良カルチャーの受け皿としてヒップホップが広がったことは想像に難くない。小学生でザ・ブルーハーツに、中学2年生で日本語ラップに出合ったANARCHYが、少年院の中で音楽番組に出演していたZEEBRAを見て本格的にラッパーを志したというエピソードはよく知られていることだが、そうした世代を超えたカルチャーの継承は、今も繰り返されている。

「川崎のBAD HOPなど’10年代に登場したラッパーたちは、『ANARCHYの1stアルバムを聴いて、自分たちと同じだ!と思った』と、口を揃えて語っています。日系ブラジル人をはじめとした『移民』2世ラッパーたちもそうで、彼らは団地出身者が多い。それは’89年の入管法改正による移民の増加などと密接に絡んでいます」

 高度経済成長期には近代的な生活スタイルとして憧れの的であった団地は、’80年代以降の少子高齢化に伴い急速にゴーストタウン化。そこに永住権を持つ外国人の大量流入があり、文化の違いから元の住民との衝突、荒廃化した。まさにヒップホップが生まれたサウス・ブロンクスと似た環境になっていったのだ。

◆ヤンチャな先輩たちからヒップホップを学んだ

 ANARCHYと同じく’80年生まれのラッパー、サイプレス上野氏も横浜市戸塚区の「ドリームハイツ」で生まれ育った団地っ子だ。

「ガキの頃は団地の隣に『ドリームランド』という遊園地があって、ジェットコースターの音やら一日中うるさい環境でした。だから、暴走族が走り回っても住民が気にする空気はなかった。友達の兄貴や先輩にスケーターやグラフティライターもいて、小学生ながら『カッケー! 俺もやりて~』って。ヒップホップの4大要素が身近にあり、中学生の頃には独学でラップを始めました。夜な夜な団地の友達の家に集まっては、皆でYOU THE ROCKの深夜ラジオを聴いて、俺のはがきが読まれたときはブチ上がりましたよ」

 いわゆる郊外の荒廃した団地とは、やや趣の異なるポップさ、暴走族とスケーターが共存する時代に幼少期を過ごした影響は多大だ。

「俺達はB-BOYだったから、意識し合う族のヤツらに追いかけられて、玄関のドアを金属バットでボコボコにされた経験もあります(笑)。『ドリームランド』が廃園になってからは加速度的に、壁にグラフィティを描く練習もしたり、溜まってラップやスケボーしたり。横浜在住の先輩からは『あのゲットーな団地をお前はヒップホップの聖地にした』と言われるけど、本当に俺を育てた最高の場所。テレビに出るようになってからは活動も認められて、団地内の祭りでライブを依頼されるようになったんです。やっと地域貢献できるようになり感慨深いです!」

 多様性を育む団地は、多くの可能性を秘めているかもしれない。

団地に縁のあるヒップホッパー
▼ANARCHY 京都府・向島ニュータウン
▼WEST HOMI 愛知県・保見団地
▼GREEN KIDS 静岡県・磐田東新町団地
▼KOHH 東京都・豊島五丁目団地
▼サイプレス上野 神奈川県・戸塚ドリームハイツ
▼SEEDA 東京都・ひばりが丘団地
▼NORIKIYO(SDP) 神奈川県・相武台団地
▼ANI&SHINCO(スチャダラパー) 神奈川県・宮前平グリーンハイツ

【磯部 涼氏】
ライター。’78年生まれ。音楽や文化を軸に社会問題について執筆。著書に『ルポ川崎』など。『新潮』にて「令和元年のテロリズム」を連載中。

【サイプレス上野氏】
ラッパー。’80年生まれ。「ドリームハイツ」の先輩後輩で結成したサイプレス上野とロベルト吉野のラップ担当。結成20周年を迎え、7月にももいろクローバーZなど豪華客演が参加したコラボEP『サ上とロ吉』をリリースした。

<取材・文/仲田舞衣 加藤浩之 撮影/長谷英史>
※週刊SPA!8月25日発売号より

―[少年イン・ザ・フッド]―

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