カジノで得た120万円を、お手本のように2017年のトレンドで溶かした話

日刊SPA! / 2020年9月27日 15時51分

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―[負け犬の遠吠え]―

ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

「マニラのカジノで破滅」したnoteで有名になったTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は第18回。

 今回は、犬が珍しく稼いだ大金を○○○○に突っ込んだときのお話です。

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◆破滅するまで辞められないギャンブル依存症でもたまには勝って帰る

 これまで10回近くカジノ旅行という名目でフィリピンに行ったことがあるが、勝って金を持って帰ってこれたのはただの2回だけだった。

 勝って帰ってこれた理由は、

「使い切れないほど勝った」

「ポーカーのトーナメントで優勝して急に大金を得た」

 この二度だけで、自分でペース配分をして利益を確定して終わったことがない。金に対する価値観が歪みすぎてやめられないのだ。勝ちたい金額も明白に決まっておらず、ただただ生活をテーブルの上に置くのが好きだった。

 簡単に言うと負けるまで博打をするし、博打が目的になってしまっているからその先の目標がない。快感を与えられた猿のようにひたすらチップとトランプを交互に触り続ける。甘い毒を味わった動物は、止める理由がなければ悲しいくらいに忠実だ。

「一撃でかいのが当たりゃあ、やめられるんだけどなあ」

 というダメ人間の理屈はあながち適当ではなく、予期せぬ大金によって目を覚まし、さらに今までのスピードでギャンブルをしても減らないくらいの体力がなければならない。

 ギャンブル依存症の人間は守銭奴でも銭ゲバでもない。所持金はあくまでHPのようなものでしかなく、私生活に重大な亀裂が入るまで金が人生と直結していると思わない。

 初めて海外から金を持ち帰ってきたのは120万円だった。この時は複数のポーカーの大会で優勝、入賞を果たし、残り時間が少ない中のギャンブルでも運良く勝ち、帰りの飛行機の時間ギリギリまで負けることがなかったから勝って帰ってこれた。元々ポーカーの大会に参加するつもりはなかったが、たまたま一緒に行った当時の上司が、カジノで呆けている僕から5万円分のチップを奪い、

「お前はいつも同じ事しかしないから有意義に使ってやる」

 と、僕の名前で勝手にポーカーの大会にエントリーしてしまった。

◆嫌いなギャンブルほどよく勝てるものよね

 ポーカーは長い時間がかかるギャンブルなので、ポーカーをしてもあんまり「響かない」人はとりあえずエントリーしてみてもいいだろう。速くてわかりやすいギャンブルが好きな依存症の中にはポーカーや麻雀と言った知的ゲームにハマり辛い人もいるだろう。

 バカラや競馬で熱くなった頭を冷やすのにはちょうどいいと思う。無論、人によっては人生を破壊しかねないほどの中毒性を秘めているので、そこは自分の嗜好と相談しよう。

 個人的にギャンブルそのものは人生を楽しくしてくれるし断たなければならないものではないので、うまく付き合うためには「速いギャンブルと遅いギャンブル」「好きなギャンブルとそうでもないギャンブル」を知っておくのは大事だと思う。どの道地獄に堕ちるとしても、冥土の土産はたくさんあった方がいい。

 120万を持ち帰った後、僕は浮かれていた。カジノチップで見るとおもちゃにしか見えなかった「ソレ」は、日本円に交換した瞬間になんでもできる魔法の札束に変わっていたのだ。急に自分の成し遂げた偉業を思い出す。この金で人間の人生が買えるかもしれない。そう思った。数字にすると全然そんな価値はないのだが、100万円の実体にはそのくらいの魔力が宿っていた。

 数日間、ずっと120万の使い道を考えていた。その間パチンコ屋にはほとんど行かなかった。100万円を目の前にして1万円ずつしか遊べないパチンコは全く魅力的に感じなかったからだ。その代わりに目に入ってきたものがある。

 仮想通貨だ。

◆時は2017年後半。お祭り騒ぎだったあの頃

 当時は仮想通貨全盛期で、ちょうど何億円も稼ぐような「億り人」が発生したりしていて、全体の空気感としてもFXや株よりも簡単で遊びやすいイメージがあったので、とりあえず100万円で何かしたい僕にとってはちょうどいい釣り針だった。部屋で100万円を見ながら悶々と生活を続けて、目減りしていって普通の人間に戻っていくくらいなら「100万円を持った人間」のままでいたかった。

 確か口座に入れてデビットカードで入金したと思う。120万円をそのままビットコインにぶち込んでレバレッジを当時のギリギリまで上げた。15倍だったと思う。

 レバレッジとはlever(てこ)から来ている言葉で、その名の通り小額を大金として扱うことができるシステムで、例えば1万円持っていて100倍のレバレッジをかければ、1円を100円として扱うことができ、値動きの幅が100倍になる。本来1円儲かるところが100円儲かり、逆に100円値下がりすれば1万円損したことになり、元のお金の1万円を丸々失うことになる。文字に起こしてみるといかに異常なシステムか伝わるだろう。FXで大損しては破産、なんて悲劇が起こるのも大体このシステムによるものだ。

 だから、僕は100円の値動きで1,500円の得か損をする形になった。

 日常にスリルを潜ませるのは大事で、いつでも儲かるし損をする状態で生活するのは楽しかった。今思えば頭が悪いにもほどがあったが、毎朝出勤前と出勤後しか値動きを見てなかった。

 すでにサラリーマンが苦痛になっていた僕は、上司に怒られたり従業員に文句を言われる度に頭の中で自分に都合のいい値動きのグラフを妄想していた。嫌なことがある度に「もしかしたらたった今30万円ほど儲かったかもしれない」と思い込むことでメンタルをコントロールしていた。追い込まれて心臓がギュッと小さくなり、血の巡りが速くなる感覚に合わせて頭の中にあるビットコインのグラフは角度を増していく。当時はすでに落ち着いていて、いざ仕事が終わってみると値動きがほとんどなかったのも良くなかったかもしれない。

 上の空で働き始めて二週間経った頃、いつものように叱責や突然増えた仕事を処理している途中にビットコインのサイトからメールが来た。13時15分くらいだったと思う。2年以上経っても覚えている。昼過ぎだった。その時は全く気にしていなかった。そもそもすでに120万円が仮想通貨として浮いた状態にあることに慣れすぎていて気にも留めていなかった。

 退勤の時間がきて、いつものように少しだけ多い仕事を振られて定時を少し過ぎた。ビットコインを確認する。携帯を開けば120万円あるこの状況が唯一の楽しみだった。一日かけて心にかかった煤を払う。そう、僕には100万円がある……。

 そう思っていたが、驚いて心臓が止まってしまうことは実際にあるのかもしれない。そのときは脈打つ振動で胃が漏れそうになった。

 ビットコインの口座はほとんど空になっていた。

◆待ってくれ、待ってくれ

 焦ってメールを開く。「ロスカット通知」というメールが4通ほど入っていた。

 ロスカットとは、損失を途中で強制的に止める行為のことで、レバレッジをかけていると発生する損切りシステムのことだ。元々入れていたお金以上の損失が発生したら借金になってしまうので、そうなる前に取引を勝手にしてくれる(この説明で合っているかは詳しくないのでわからないが、素人目にはそう思う)。

 慌ててビットコインの値動きを確認すると、昼間に11万円ほど急に動いていた。11万円動くということは、15倍のレバレッジをかけている僕は165万円の値動きを食らうことになる。そして僕の資産が減る方向に動いていた。それまで見たことのない動きをしていた。

 傾きは限りなく無限大に近く、突然11万円の値動きが合った。ワープに近い。

「待ってくれ、待ってくれ」

 ネットを開いて確認してみると、億り人も誕生していたし、命を断つとうなだれている人もいた。どうやら事実らしい。

 心臓は速く鳴っていたが、それほど悲しい気持ちにならなかったのを覚えている。鼓動が落ち着く頃には狐につままれたような気持ちになっていた。きっと負けるのに慣れ過ぎていたからだろう。僕の中ではビットコインに変えてしまった瞬間にギャンブルがスタートしていて、心の奥底の方で失う可能性について覚悟が済んでいたのかもしれない。秋葉原の職場を出て一人で飲みに行った。

 いつもはすぐに食べてしまうお通しを1時間ほどちびちびとつまみ、いつも飲まない強い酒を頼んだ。

 その日の記憶は鮮明だが、今でも後悔はあまりない。人生最大の無駄遣いだったかもしれない。こんなに、金額に対して心が動かないギャンブルに出会ったのも初めてだった。

「元が取れてないな」

 そう思った。仮想通貨は僕にとって感情のコスパが悪い。

 次の日、その話を職場でしたらみんなにめちゃくちゃウケた。社畜人生が1年伸びた瞬間だった。

〈文・犬〉

【犬】
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
Twitter→@slave_of_girls
note→ギャンブル依存症

―[負け犬の遠吠え]―

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