菅義偉首相が誕生し、アベノシンジャーズは彷徨う亡者と化した/倉山満

日刊SPA! / 2020年10月5日 8時30分

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首相官邸の公式Twitterより

―[言論ストロングスタイル]―

◆菅義偉首相が誕生し、アベノシンジャーズは彷徨う亡者と化した

 亡者たちが彷徨っている。アベノシンジャーズのことだ。

 連中は、「安倍さんを応援しない奴は保守じゃない!」と安倍晋三前首相の悪口を言う人間の悪口を言うことで飯を食ってきた。そして言い逃れできないと、「それはすべて菅官房長官がやったことだ」と責任転嫁した。特に検察人事をめぐる一連の黒川騒動では、「黒川〔弘務東京高検検事長:当時〕さんと仲がいいのは菅だ! 安倍さんは関係ない!」と強引な主張を展開した。

 また、「親中派の新自由主義者の菅が安倍さんの足を引っ張っているんだ!」などと言いふらした輩が大量にいる。何を根拠に親中か不明だし、その手の議論で「新自由主義」と普通の自由主義を区別した御仁に会ったことが無い。

 その安倍さんが、いなくなった。そして悪しざまに罵ってきた菅義偉官房長官が新首相となった。昨日までの己の言論を忘れすり寄ろうとする者、錯乱する者……。哀れなり。

◆新内閣が発足

 さて、新内閣が発足した。日本の総理大臣は自民党総裁である。自民党総裁は、派閥の談合で決まる。

 安倍内閣では、石破派を除き総主流派体制だった。その中でも、細田・麻生・二階の三派が主流派、岸田・竹下・石原が準主流派の扱いだった。総裁選を通じ、岸田派が反主流派に転落、竹下・石原両派が主流派入りした。そして安倍内閣で要だった、麻生太郎副総理・財務大臣と二階俊博幹事長の主導権争いが激化している。

 いち早く菅支持を打ち出した二階幹事長に対し、細田・麻生・竹下の三派が共同記者会見で菅支持を打ち出した。麻生氏の呼びかけで、二階はずしを目論んだとのこと。

 二階派は、二階幹事長が留任。長らく入閣できなかった平沢勝栄氏を大臣に押し込み、政権の目玉である携帯電話値下げに切り込む総務大臣も得た。無難な論功行賞である。武田良太大臣は、突破力に定評がある。

 安倍政権末期、「座敷牢」に閉じ込められた感があった菅官房長官(当時)を支えたのが二階幹事長と、石原派の森山裕国対委員長だ。

「MSNライン」と称される。二階氏は森山氏を官房長官に推したが、さすがに通らなかった。だが、石原派は国対委員長の他に、これまた今まで入閣できなかった坂本哲志氏が入閣。

 二階・石原両派とも満足だ。

◆対する麻生派は…

 対する麻生派は、麻生財務大臣が留任、主流派の証である党四役(国対委員長を入れると五役)を確保。閣僚数も2で、うち一つは政権の目玉の規制改革。面目は保った。なお、河野太郎大臣は、ここで成果を残すことが将来の首相への跳躍台となる。

 両者対立のドサクサで最も浮上したのが、竹下派だ。政権の要の官房長官の他に、主要閣僚の外務。さらに選挙前の選対委員長。3人とも安倍前首相に近いと言われる。

 だが、本欄で再三指摘してきたが、この派閥は引退して久しい青木幹雄氏の影響力が強い。茂木敏充外相と加藤勝信官房長官は竹下派の後継争いを繰り広げているが、青木氏の眼鏡にかなった加藤氏が優位に立ったと言われるようになった。

 割を食ったのが、細田派だ。党四役の政調会長こそ押さえたが、選挙対策委員長を手放してである。大臣の数こそ5と多いが、主要閣僚は一つも得ていない。萩生田光一文相を官房長官に押し込もうとしたが、失敗したとか。最大派閥の強みを生かせなかった。

◆今は発足当初で支持率は高いが、御祝儀だ。早期解散ができねば、何が起きるかわかるまい

 ところで菅首相は、「無派閥」としか報道されないのに「菅派」とは奇異だろう。実態は25名の小派閥とか。ここでは菅首相と近い3人を「菅派」と称した。官房長官を自派で得られなかったのは、痛い。

 総評すると、弱体内閣である。小派閥を率いた首相は、大派閥に翻弄される運命にある。では、突破口はどこか。

 衆議院の早期解散である。早期解散論の筆頭は麻生財務大臣だ。自らの内閣で早期解散できず、政権喪失の大敗に至った。その教訓から進言している。

 これに反発しているのが、公明党だ。創価学会は公明党だけでなく、自民党の最大支持組織でもある。

「コロナが収束するまで解散はできない」と釘を刺す。公明党は二階幹事長と関係が深い。ただ、当の二階氏は組閣前には公明党に同調していたが、今は「総理の判断されること」と下駄を預けた。下村博文政調会長が「今すぐやるべきだ」と発言すれば山口泰明選対委員長が「やりたいからやるという問題ではない」と打ち消す。

 結果、臨時国会召集は10月下旬で調整している。菅首相自身も、早期解散には前向きではないようだ。

◆「政界の一寸先は闇」を誰よりも知っているのは菅首相自身

 だが、「政界の一寸先は闇」を誰よりも知っているのは菅首相自身だろう。既に景気の劇的な悪化を示す数字が上がってきている。今は政権発足当初だから支持率は高いが、御祝儀だ。何としてもコロナを収束させて解散総選挙を打たねば、何が起きるかわかるまい。

 コロナが収束するのか? 逆に訊こう。そもそも、安倍前政権が科学的知見を尊重したのか? コロナで自粛した方が政権運営に都合が良いから、騒いだだけではないのか。ならば、政治的理由で収束する。

 自民党に、潔く下野するなどという概念はない。権力の座を守るためなら、いかなる手段もいとわない。菅内閣の立場で論じるなら、もっともらしい理由を並べて、コロナを収束(したことに)させ、総選挙を断行すれば大勝間違いなしだろう。そうすれば政権基盤は強化できる。それを好まない勢力がいるということだろうが。

◆誰が総理大臣でも、国民の為になればいい

 誰が総理大臣でも、国民の為になればいい。菅首相はさっそく、「規制改革」を掲げた。規制とは、官僚が国民に指図する根拠法令のことである。不要な規制を廃止、整理してくれるなら大歓迎だ。ということは、官僚の抵抗は激しくなるだろう。

 ほとんどの官庁は戦々恐々で、菅首相の古巣の総務省などは狙い撃ちされている感がある。武田大臣とその背後に控える二階幹事長の力で総務省改革を行おうとしているのだろうが、どうなるか。

 外政では、安倍前首相の実弟の岸信夫防衛相が注目だ。前内閣以来、経済安全保障に取り組んでいる。この分野は麻生財務大臣も後押ししている。

 私は政権発足直後であり、「期待を込めて見守る」との立場である。

【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、『保守とネトウヨの近現代史』が9月25日に発売された

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