<純烈物語>最年長でありながら自分の個性は “動”と言える小田井涼平ののびしろ<第70回>
日刊SPA! / 2020年11月7日 8時30分

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―
◆<第70回>純烈最年長でありながら自分の個性は“動”と言える小田井涼平ののびしろ
2020年の純烈を振り返る中でいくつかの忘れられぬシーンがある。そのうちの一つが6月23日、東京お台場 大江戸温泉物語の無観客ライブにおける小田井涼平の奮闘ぶりだった。
最年長でありながら誰よりも動きまくったあのテンションは、今思えば「頑張る」のひとことで片づけられぬ意志のようなものを感じずにはいられなかった。そこまでやるのが純烈だとしても、やはり突き動かす何かがなければ、気持ちと体はついてこない。
「あの日だから特別一生懸命やろうというつもりはなかったんですけど、配信とはいえ、久しぶりの純烈のステージということで見ている人のハードルが上がっているだろうと。そこでチンタラやっていると、あれ?って思われるのが嫌だったから普段のステージよりも張り切ってやれたんでしょうね。やっぱり、この日のために仕上げてきたなと思わさなければ負けやなと。
実際はその日のためにした特別なことはないんですよ。今までやってきたことをやっただけだし、ましてや4人のメンバーでやって全体で作るものとなると、僕一人ではどうにもならない。なので下準備のようなものはなかった。なんだかメッチャ気合入っとるやつが一人ぐらいおった方がええやろという気持ちでしたね。いくら夫婦で番組出ていようが、肝心の純烈になった時に一番パワーが出ていなかったら意味ないやないですか」
◆何よりも大切なものは純烈であり、家族
音楽のライブはスポーツのように得点や記録で勝ち負けを競うものではない。でもプレイヤーそれぞれの中には、れっきとした勝敗がある。
ステージ上と無人のラウンドをまわる最中にしたたり落ちていた汗は、そんな小田井の勝負に対する覚悟の結露だった。夫婦としての露出が増えたからといって、浮かれるどころかその反動も想定した上でどうするべきかを考える。
小田井にとって何よりも守らなければならないのが純烈であり、家族。そこに向けられる姿勢は、意識せずともあらゆる物事にトレースされていく。バラエティなど初めて呼ばれる番組では何かしらの爪痕を残すためのことを、常に心がけてきた。
テレビ出演が多かった期間、世間へ届いたパブリックイメージにステージへ立った自分が負けてしまったら……それは小田井自身がもっとも味わいたくない現実である。だから、シャカリキになった。「あのおっさん、何はしゃいどんねん」と思われるほどに。
「いやいや、むしろおっさんがはしゃいどると見てくれたらいいなぐらいの思いでしたよ。自分たちも、配信いうても久しぶりのファンに見てもらうライブができたという喜びは、言葉じゃなくて体で伝えると。
言葉ではいくらでも言えるけど、体で表現された方が、見る側もリアリティーがあるってなるやないですか。それは伝えたかったですよね。ホンマ、外国へいる気分になっていました。ここは言葉が通じない国なんやと。ボディーランゲージで喋るしかないんですよという気持ちでやっていた」
なぜ動画ではなくスティール(写真)撮影時にもずっと動きまくっていたのかと聞くと、あごヒゲを右人差し指と親指ではさみ、スリスリしながら答えた。あの時の現場に漂った「小田井さん、いいからポーズをとる時ぐらいは動かずに休んで!」という空気による一体感は、純烈2020年の一景として忘れられない。
熱闘にはダメージがつきものである。全曲を終えて袖に引っ込んだ瞬間、汗だくのまま気持ちが悪くなった。走り慣れていないのに完走した直後のあの感覚。
翌日から49歳の体はストライキを敢行。全身を筋肉痛が包み、なかでも振り付けでよく動かす右の肩がウソでしょ!?と思うぐらいに上がらなかった。じっとしていない代償は、あまりに大きかった。
◆無観客とは思っていなかった
目の前にオーディエンスがいるならまだしも、無観客でそこまで自分を持っていけるのも、プロならばと言ってしまうのがはばかれる。あの日、対戦相手はカメラの向こう側だけでなく、小田井の目の前にもいた。
「僕はあのライブ、無観客とは思っていなかったんです。マスコミの方がいてくれたので。お客さんとまた違うプロの目線でいろんなことを伝える皆さんが見ているというのは、僕の中では特別なステージでした。ないじゃないですか、なかなか。そういう人たちが見ている中でやるのはある意味、手抜けないですから。
ファンだったら普段からキャッチボールしているので、そこにボールを投げれば返してくれる。そういう方たちじゃないわけですよ。怖かったですもん、俺。怖かったし、ラウンドでマスコミさんのところにいった時もメッチャ小芝居した憶えがあります。アホちゃうか、そんなにライブやれて嬉しいんかと思ってもらうためにね」
現在は一般人で、元プロレスラーの澤宗紀さんが現役時代に使っていたフレーズとして「やりすぎぐらいがちょうどいい」なる名言があった。エンターテインメントは、過剰に描かれるからこそ伝わる。
一般的にはあり得なくても、作品として落とし込められたものであればリアルを超えたリアリティーとなり心に刻まれる。その“やりすぎ担当”が最年長者であるところも、純烈の味わいの一端を担っている。
「それは僕が常日頃言っていることなので。これだけ年齢差の開きがあるグループだと、ファンの方々から体が大変でしょうというお気づかいの言葉をいただく。もちろんありがたいんですけど、年上やけどあんなに動くんやという印象だけが残ればいい。僕の個性は“動”というキャラクター。後上君との年齢差はそれで埋めるという感覚ですわ。
後上君は自分のリズムで普通にやってくれればよくて。だって若い分、エネルギーがあるという部分に関しては、僕がファンだったら49歳のおっさんに何も期待しないですよ。それなりに頑張ってくれはったらええですよっていう存在になるんです。だけどそれで終わるのも悔しいから、俺のファンでなくていいんでなんとなくあいつに目がいくなというのを残したいんです」
それが爪痕というものになるのだろう。とはいえ、自分のポジションが“動”と言い切れる小田井涼平は肝が据わっている。言葉にするだけで終わらせたくないから、数ヵ月前よりついに走り込みを始めた。
◆2020年、自身ののびしろを見いだそうと動き続けた
また、ステージがない中で来た芝居やドラマの仕事もやるからには向上させたい。純烈のMCが面白く、ましてや元は役者ならソツなくできると見られがちだが、本人的にはまったく勝手が違うとなる。
「純烈って、アドリブが多くて用意したものがない。その日の気分で喋っていいからラクなんですよ。用意されているものをできるのが役者であり、しかもそれを自分の言葉として本当はセリフなのにセリフとは思えないように言える役者さんはすごい。セリフ憶えとか、会話をしている間(ま)とか臨機応変さが芝居には求められるのに、そういうのができへんようになったなあと気づかされた。
台本っていう縛りをつけることで、これを憶えてやらなければならないというのをやった方がええなと思って、コント・芝居を始めたんです。YouTubeでやっているのはワークショップです。お芝居はウチの事務所の俳優部であげてもらって、実地訓練のようにお客さんに見てもらうものを作る感覚でやっています。誰も見てないところでかけ合いをやるのはできると思うんです、緊張感がないから。世に出すことで、緊張感が持てると」
ライブには直結せずも、そこで培ったスキルは2021年の純烈にフィードバックされるはず。2020年は、いったん新しいことは横に置いて原点に還り、コロナ禍の中で薄まったものの濃度をあげる作業に充てた一年と言えた。
「なかったことにしたい2020年」の中でも、小田井は自身ののびしろを見いだそうと動き続けた。来年の今頃には、これらのことと線でつながったものが具現化されているに違いない。
撮影/ヤナガワゴーッ!
【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』が発売
―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―
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