女性アスリート盗撮被害のひどい実態。「競技団体も守ってくれない」

日刊SPA! / 2021年1月29日 8時50分

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山下泰裕JOC会長、室伏広治スポーツ庁長官らが盗撮を非難した会見には、女性の姿が見えず、認識不足と姿勢を疑う声も聞かれる 写真/朝日新聞社

昨年11月、JOC(日本オリンピック委員会)などが、アスリートを標的にした「性的画像」の撲滅を訴える声明を出し、広く知られるようになった盗撮問題。多くの競技団体が対策に動くが、被害が減らない背景に迫った!

◆競技団体は事実上放置? 盗撮被害のひどい実態

「競技に集中しているので、選手は盗撮に気づかない。後で、私のお尻や股間の写真が卑猥な言葉と一緒にネットにアップされているのを知って、ショックでした……」

 女子陸上中距離界で将来を期待される大学生のAさん(21歳)は、過去の忌まわしい体験をこう明かしてくれた。陸上競技、水泳、新体操、バレーボール……アスリートを「性的」目的で盗撮し、SNSに投稿する事例が相次いでいる。

 昨年11月には、JOCやスポーツ関連団体が被害の実情を訴え、盗撮を非難する声明を出したが、今もネット上には、バストや股間を執拗に接写した画像が溢れ、多くの女性選手が被害に苦しんでいるのだ。スポーツライターの酒井政人氏は、近年、盗撮が増えた背景をこう説明する。

「アスリートの盗撮自体は20年以上前からあったが、増えはじめたのはビーチバレーが注目を集めた’03年くらいから。同じ頃、陸上選手のあいだにセパレート型のユニフォームが広まり、露出の多さから狙われるようになった。デジカメが普及し、陸上の大会でスタンドから女性選手に望遠レンズを向ける不届き者が増えたのもこの頃です。駅伝やマラソンなど公道で行われる競技は、盗撮に対して打つ手なしで無法地帯と化している」

◆アスリート側に「落ち度」があるかのような理不尽な意見

 陸上の女性選手のユニフォームは、以前はランニングシャツにランニングパンツと体にフィットしないものが一般的だったが、セパレート型は薄い生地が体に密着し、ビキニ水着のようにお腹が丸出しになる。

 露出が多いのも確かで、「あんな格好だから、盗撮されるのだ」という声も一部に根強い。だが、アスリート側にあたかも「落ち度」があるかのような理不尽な意見に、酒井氏は強く反論する。

「選手がセパレート型を着るのは、動きやすいからに尽きる。セパレート型は女性の胸の膨らみの下にできる空間の空気抵抗を減らす目的で開発されたもので、世界のトップアスリートが愛用するようになると、国内の選手にも浸透し、今や中高生も着用しているほど。また、陸上以外の競技でも丈が短いパンツを着用する選手がいるが、競技によっては規定で長さが決まっており、長めのユニフォームを着用できない場合もある」

 SNSも被害拡大の大きな要因の一つだ。盗撮写真が拡散するだけでなく、選手に直接メッセージを送れてしまう。さらに、盗撮写真や動画を専門に販売するサイトがいくつも存在し、有名な“撮り師”が商売にしているのだ。

◆JOCはようやく通報窓口を設置した

 実業団の短距離選手Bさん(23歳)は、被害体験をこう話す。

「私の盗撮画像に体液をかけている局部の写真や、『あなたで抜いている』とDMを送ってくる人もいた。高校時代は田舎で、盗撮の存在自体も知らず、被害に気づいたのは大学4年の頃。でも、誰かに助けを求められるものではないと思っていた。友人の選手は所属チーム宛てにアダルトグッズが送られてきたり、同じような目に遭っている人は多いけれど、声を上げたのを見たことがない……」

 状況改善を訴える声を受けて、JOCは通報窓口を設置したが、激増する被害にようやく競技団体が重い腰を上げた格好だ。実際、一連の動きは、女性陸上選手2人が勇気をもって声を上げたのがきっかけだった。

◆「撮られた選手が不快に感じたらハラスメント」

 ただ、一般人による撮影の規制には、競技団体や選手のあいだに温度差があるという。元全日本テコンドー協会理事・アスリート委員長で、女性選手のハラスメント被害に詳しい高橋美穂氏が説明する。

「アスリートの写真は競技を盛り上げるので、競技団体や選手自身が歓迎する側面もあるが、撮られた選手が不快に感じたらハラスメントなのに、昔から盗撮問題はあったのに放置されてきた。これまでJOCには盗撮についてガイドラインはなく、委ねられた各競技団体の対応はまちまちで、大会運営のセキュリティ対策に盗撮は初めから盛り込まれていなかった」

 前出のBさんが続ける。

「まともなスポーツ写真を撮ってくれるファンまで締め出すのはどうかという人もいれば、たとえ盗撮でもファンがつくならOKという人もいる。私が盗撮問題についてSNSで少し話しただけで『競技に集中していれば、気にならないはずだ』『そんなことを言っているうちは、まだまだ』と言われたし、選手同士でもこの問題を話したがらない。

 また、報道の腕章をつけているのに、跳躍種目を敢えて正面から撮影したり、怪しい人はいる。JOCの取り組みは評価するけれど、これまで盗撮問題をなかったことにしてきたのもJOCや競技団体です。本気度がわかるのはこれからです」

◆法規制がないことが盗撮が減らない最大の原因

 現在、競技場では一定の盗撮対策がとられているようだが、問題点を前出の酒井氏が指摘する。

「最近は、大会によっては短距離のスタートラインの後方を撮影禁止エリアにしているが、競技場のスタンドは広く、望遠レンズを向ける人がいても盗撮かどうか判別するのは難しい。一般の撮影を登録制にしたり、入場時の持ち物チェックや、スタンドを警備員が巡回したりしているが、予算の問題もあり、こうした対策は全国大会のような大規模な試合に限られる。

 大会主催者が怪しい撮影者に対して、撮った写真をチェックできる権限くらい付与しないと、有効な対策にならないのではないか」

 こうした実情に、選手からは「法律で取り締まって、厳罰を下さなければ盗撮は減らない」と悲痛な声も聞こえてくる。現行法で規制することはできないのか。アスリートの肖像権などに精通する河西邦剛弁護士に聞いた。

「アスリートの盗撮に限らず、全国一律で盗撮を規制する法律はなく、都道府県の迷惑防止条例で対応しているのが現状です。ただ、条例が規制する盗撮とは、駅でスカート内を撮影するように、『衣服で隠されている部分』を撮ることなので、アスリートには当てはまらない。

 また、撮影された写真が性的目的かどうか第三者が区別するのは困難で、『競技を撮っていただけだ』という反論が必ず出てくる。法規制がない現状が、盗撮が減らない最大の原因になっているのです。現状では、プロアスリートは撮影OK、学生はNGというような線引きも必要ではないか」

 昨年9月には、法務省で「盗撮罪」の新設が議論された。盗撮がなくなる日は来るのか……。

◆盗撮マニアの身勝手で呆れた言い分

 卑劣な盗撮を繰り返すのはどんな人たちなのか。取材に成功した盗撮マニアに言い分を聞いた。

「もともとネットのアダルト掲示板でエロい写真を拾っていたけど、普通に“流通”している写真に飽きたので、自分で撮ってみようかな、と。盗撮といっても更衣室に潜り込んでいるわけではないしね。ビーチバレーの会場で盗撮が警察沙汰になったニュースを聞いたときは、すぐに望遠レンズを買いにいきましたよ(笑)」

 盗撮歴8年という40代男性は、悪びれるそぶりも見せないどころか、「あんなエロい格好して、撮るなと言うほうがおかしい」と犯罪の意識は微塵もないようだ。

「もともと素人の若い女のコが好きで、AV女優のような脱いでいる女性が見たいわけじゃない。NHKの陸上の中継も観るし、自分では陸上ファンのつもりだよ」

◆プロデュースして育て上げたような“達成感”

 こう語る盗撮歴10年以上という50代男性は、お気に入りの選手のSNSに応援のDMを送ることもあるという。陸上選手(本文のBさん)には「金銭を支払うから、お尻の画像を撮ってくれ」と依頼するDMが届いたというが、同じようなことをしていないか極めて疑わしい……。

「橋本環奈のような『千年に一人の逸材』を発掘して、その後、有名になったりすると、AKB48をプロデュースして育て上げたような達成感がある。オレが有名にした!みたいな(笑)」

 ネット上ではアスリートの盗撮画像が売買されているが、写真を売ったりはしないという。

「お金をやりとりすると何かあったときに身元がバレそうだし、売っても大した稼ぎにはならず、せいぜい会場までの交通費くらいだよ。仲間内で写真や動画を譲り合う人もいるが、付き合いを広げるのもリスキーだからオレはしない」

 卑劣な盗撮をなくすには、やはり法律で厳罰化するしかないのか。

【スポーツライター・酒井政人氏】
東京農業大1年時、箱根駅伝に出場。陸上競技、ランニングを中心に取材、執筆。『ナイキシューズ革命』(ポプラ社)など著書多数。

【元テコンドー日本代表・高橋美穂氏】
’92年、バルセロナ五輪テコンドー代表。元全日本テコンドー協会理事・アスリート委員長。選手のハラスメント問題に精通する。

【弁護士・河西邦剛氏】
レイ法律事務所統括パートナー弁護士。著作権、商標権など知的財産分野に精通し、芸能トラブル事案を多く手がける。

<取材・文/齊藤武宏 山本和幸>

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