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安倍長期政権を思い出せ。政権維持の最大基盤は日銀人事の勝利がすべてだ/倉山満

日刊SPA! / 2021年2月8日 8時30分

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左から、日本銀行政策委員に提示された野口旭専修大学教授と、黒田東彦日銀総裁。野口氏の就任で委員会内のリフレ派は4人となった 写真/時事通信社 朝日新聞社

―[言論ストロングスタイル]―

◆安倍長期政権を思い出せ。政権維持の最大基盤は、日銀人事の勝利がすべてだ

 ガースーは死なず。久しぶりに明るい話題を聞いた。

 別に菅義偉首相に未来永劫、政権を維持してほしいなどと思わないが、首相就任から半年も経たずに引きずり降ろそうなど、理不尽にもほどがある。特に、コロナ禍では誰がやっても上手くいくはずがないとするなら、なおさらだ。誰がやっても上手くいかないなら、何が気に食わなくて菅首相を引きずり降ろそうとするのか。マスコミは菅内閣の支持率低下を伝え、政官界には急速に「菅おろし」の声が広がる。では、菅首相を降ろして、どうしたいのか?

 片一方で「コロナはペストのような危険な伝染病だから国民はいかなる我慢にも耐え忍べ」と命令しながら、「経済は回さねばならない」との大義名分で自粛は中途半端となる。ジレンマだ。さらに財務省は予算支出を嫌がり、トリレンマとなる。結果、政界工作が上手な業界には「GoTo~ナンチャラ」と称して補助金がもらえるが、本当に困っている人々は生活苦にあえぐ。これでは何をやっても不満が生じる。

 本連載でも再三、今次コロナ禍において政策を転換しなければ、菅内閣の命脈は短いと指摘してきた。携帯電話の値下げやNHK改革、あるいはデジタル庁創設では、歴代政権が成し遂げられなかった結果を出している。だが国民には、まったく評価がされていない。理由は二つ。喫緊の課題として国民の願いは「コロナ禍を何とかしてくれ」であり、これがすべての課題に優先する。さらに根本的には、コロナ禍より前から我が国は慢性的不況に苦しめられてきた。前安倍政権が常に100名に満たない野党を相手にしながら何一つ実績を出せないのに8年も政権を独占できたのは、曲がりなりにも景気を回復軌道に乗せていたからだった。

 ここで安倍内閣無敵の方程式を思い出せばいい。「日銀が金融緩和をする→株価が上がる→支持率が上がる→選挙に勝てる→誰も引きずり降ろせない」である。つまり、政権維持の最大基盤は日本銀行なのである。事実、安倍晋三前首相は、デフレにより日本国民を苦しめた白川方明前総裁の辞表を取り上げて黒田東彦総裁を送り込み、金融緩和による景気回復を唱えるリフレ派の理論を実践した。安倍前首相は日銀人事だけは、ほとんど間違えなかった。すなわち、安倍長期政権は日銀人事の勝利がすべてであったと断言しても過言ではない。

◆日銀人事とは何か

 では、日銀人事とは何か。管理通貨制において金融政策は経済政策の中心を占める。日本の金融政策を決定するのは、日本銀行政策委員会である。同委員会は、総裁1人、副総裁2人、6人の委員の、計9人で構成される。全員が対等の1票。過去には重要な政策が5対4で決定されたこともある(ハロウィン緩和)。極端でも何でもない話、日本を好況にするのか不況にするのか、9人で決める。断言するが、総理大臣の最高権力とは、この9人を決めることにある。

 ただ、人事慣例として「枠」が存在する。総裁と副総裁は財務省と日銀のプロパーから。現在は、総裁が財務省出身の黒田氏なので、次は日銀で「プリンス」とされる雨宮正佳副総裁、「雨宮総裁」実現の折には財務省が副総裁で……とたすきがけ人事が予定されている。

 もう一人の副総裁は「学者枠」で、今の若田部昌澄副総裁の前職は早稲田大学教授だ。

 6人の委員は、産業界から3人(内1人はメガバンクから)、学者と民間エコノミストから2人、女性1人との、枠がある。

◆時の政権が財務省と戦ってでも、本気で景気回復に取り組む時、黒田総裁は金融緩和で呼応する

 そうした中、前安倍政権は徐々にリフレ派を増やし、3人を送り込んだ。若田部副総裁の他、片岡剛士・安達誠司の両委員である。

 現在は消費増税の悪影響があるので、金融緩和の効果は減殺されている。だが、このコロナ禍で金融緩和を止めればリーマンショック以上の悲惨さになるのは目に見えている。つまり、打つ手がない中で持ちこたえている状況だ。

 そこで、明るい兆しだ。もちろんコロナ禍を乗り切ったらとの前提だが、さらなる金融緩和による景気回復の態勢が整った。久しぶりの明るい話題とは、4月から日銀委員にリフレ派の野口旭専修大学教授を菅首相が提示したことだ。菅首相は枠を打ち破った。単純な算数だ。9人中4人がリフレ派となる。今までの3人から1人増えるのは、意味が違う。

 雨宮副総裁の就任の’18年以来、日銀プロパーたちが望む金利の安定化により金融緩和の効果が減殺された。日銀のほとんどの人々は、白川前総裁以前の政策を間違っているとは考えておらず、黒田総裁の金融緩和に抵抗する。リフレ派は、そうした勢力に妥協的な黒田総裁を批判する。だが、黒田総裁あればこそ、日本経済は曲がりなりにも維持できたのも事実である。歴史を振り返れば一目瞭然だ。

 勢いがあった安倍内閣の初動で、「黒田バズーカ」による異次元の金融緩和がなされ、景気は爆上げとなった。ところが安倍首相は財務省の消費増税8%への圧力に屈し、景気回復を台無しにし、さらに10%に上げるよう脅された。しかし、増税による景気後退をさらなる金融緩和(ハロウィン緩和)で蹴散らし、当時の安倍首相も増税を延期した。その結果、緩やかでも景気回復は続いた。

 つまり、時の政権が財務省と戦ってでも本気で景気回復に取り組む時、黒田総裁は金融緩和で呼応している。黒田総裁は財務省出身ながら、本来は日銀総裁になれる立場ではなかった。だが、安倍政権が金融緩和を実現すべく日銀人事で勝負を賭けた時、黒田氏は負けたら破滅の状況で火中の栗を拾うかの如く総裁に就いた。いわば、稀代の勝負師なのだ。

 こうした背景を知れば、救国のシナリオが見えよう。

◆コロナ禍の状態で金融緩和を止めたら、日本経済は即死する

 コロナ禍の状態で金融緩和を止めたら、日本経済は即死する。瀕死の患者に輸血を止めるようなものだからだ。だが瀕死のコロナ禍を乗り切った瞬間に政府の財政出動(主に消費減税)など効果的な政策とともに、さらなる金融緩和を行えば、景気は一気に回復できる。それは、黒田総裁と4人のリフレ派が組めば、他の誰が何を言おうが、可能だ。さんざん白川時代の亡霊に苦しめられたが、好機を掴めば勝てる態勢が整った。

 満身創痍の菅首相は、起死回生の決戦を狙っている。

 日本の天王山は日銀にあり!

【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、最新著書に『保守とネトウヨの近現代史』がある

―[言論ストロングスタイル]―

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