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五輪中止“日本には決定権がない” というIOCのボッタクリ契約。中止したらどうなる

日刊SPA! / 2021年5月15日 8時53分

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トーマス・バッハIOC会長(2020年1月、スイス)(C) Eric Dubost

 東京五輪を「中止すべき」という声が、国内外で高まっている。だが、菅総理は「開催は、IOC(国際オリンピック委員会)が権限を持っております」(4月23日の会見)と他人事のように語る。開催国なのに日本側に決定権がないというのか? 

 今回、東京都・JOCとIOCが結んでいる「開催都市契約2020」を、経済評論家・佐藤治彦氏が改めて読んでみた。たしかに「中止する権利」は「IOCが有する」と書いてある、驚くべき契約書なのだがーー。(以下、佐藤治彦氏の寄稿)

◆世論調査の6割が「中止・延期」でも議論さえしない政府

 錦織圭「(オリンピックの開催について)死者がこれだけ出ていることを考えれば、死人が出てまでも行われることではない」(5月10日、イタリア国際での会見)

 大坂なおみ「オリンピックは開催してほしいけど、それ以上に大切なことがたくさんある。人々を危険にさらしているなら、今すぐ(開催するかどうか)議論すべきだと思う」(5月9日、同)

 とうとうトップアスリートからもこの夏の東京オリパラ開催について疑問の声が上がった。

 7月の東京都議会選挙と秋までの総選挙を控える菅内閣にとって、東京オリンピック問題で失敗することは許されない。

 今や2021年夏の東京オリンピック開催については、ほとんどの世論調査で6割以上が「今年の開催」に反対しているのが現実だ。

 当初は聖火リレーが始まり、期日が近くなれば数字は変わる、特にワクチン接種が進み、オリンピックが実際に開催されれば、国民の意識は大きく変わるはずと言われていた。

 しかし、3月に始まった聖火リレーを意気揚々と報道しているのは、“皆さまのNHK”くらいで、多くの自治体で感染リスクがあるため公道を走ることを中止したとか、規模を大幅に縮小したという報道ばかりだ。ほとんど走っていない聖火のバトンが渡されていると多くの国民が知っている。

 毎日新聞が5月3日に発表した全国47都道府県知事に行ったアンケートで、オリンピック競技が行われる埼玉、静岡、山梨を含む9県の知事でさえ「感染状況次第で中止・延期にすべきだ」とし、それ以外の多くの知事も「わからない」と回答したのだ。
 5月17日に予定されていたIOCのバッハ会長の来日も延期され、今や誰が東京オリパラの開催断念を言い出すのかという噂がネット空間を飛び回る事態になっている。

 とにかく開催を望む声が上がらない。

◆「選手村で100人、1000人の感染者が出るかも」

 つい2年半前。2018年10月の世論調査では、東京が開催都市になることについて「良い」と「まあ良い」を合わせると85%という数字だった(NHK調べ)。

 2018年10月といえば、すでに東京招致が決まって5年。東京オリンピックは当初言われたコンパクトで金のかからない大会などではなく、史上最大の莫大な費用がかかること、日本オリンピック委員会が招致活動で買収をしたのではないか?という報道までされたころである。
 それでも、大部分の国民は開催に圧倒的な支持をしていたのだ。
 
 それが1年3ヶ月前からの新型コロナウィルスのパンデミックで逆転した。ほとんどの世論調査で、国民の6割以上が反対する。このままでは第二次世界大戦後のオリンピックで唯一の、開催都市の住民に歓迎されないオリンピックになってしまうだろう。

 開催すれば、国民の意識は変わるだろうという政治家の読みも、先の錦織圭選手の次の発言が開催のリスクを的確に示している。

「良いバブル(=毎日検査を受け、移動を競技場と宿泊施設などに限定するなど感染防止策)をつくれるなら(開催)できるかもしれないが、それでもリスクはある。選手村で100人、1000人の感染者が出るかもしれない。コロナはとても簡単に拡大するから」。

◆9万人が入国するリスク

 多くの国民の反対の世論を押し切って、開催し一時は盛り上っても、もし各国を代表するオリパラ選手間で大規模なクラスターが起きたらどうなるだろう。100人規模の集団感染が起き、オリンピック競技がその一部でも中止されたり、選手や各国の選手団のメンバーが感染症のために入院するようなことになれば、無理やり開催したと政権に致命的な打撃となることは間違いない。

 日本は感染が始まってから1年以上経っても海外からの新種の変異型ウィルスの国内流入を阻止できていない。水際対策が全くできないのだ。3月から心配され、4月に入り日本各地で海外からの変異型ウィルスが猛威を振るい大阪などでは医療崩壊状態になっているにもかかわらず、やっと5月10日からインドからの入国者の水際対策を強化するという。ザ・後手後手なのだ。

 それが、五輪選手だけで1万人以上の入国があり、全体では最大9万人もの入国が見込まれるオリパラ大会で感染対策を万全にできると言われても、果たして実行できるのか疑問に思うのが当たり前だろう。

◆違約金はないが「全損害は日本がかぶる」という不利な契約

 国民の命と健康を第一に考えて、感染が収まらない今年のオリンピックは延期か中止する。そんな当たり前の判断をなぜリーダーたちはできないのか。そう疑問に思う人は少なくない。

 4月に入りチラホラと言われるようになったことが2つある。それは、1つは、実は東京オリパラを日本側から中止することはできない。もう一つは、万が一、日本側から中止するようなことがあれば、莫大な違約金を請求される、というものだ。

 だから日本側から中止を求めることができないという。その噂は事実なのか?
 日本側とIOCが取り交わした契約書「開催都市契約2020」が公表されているので読んでみた。以下、気になるポイントを5つ書いておく。

その1:オリンピック大会に必要な施設の建設、費用の調達、人員の調達、運営する全責任は日本側にある。オリンピック憲章とIOCの基準に基づき、すべての金を調達し建設し運営する責任が開催都市にあるというものだ。(1条ほか)

その2:IOCとその関係機関や、スポンサー、サプライヤー、ライセンサーなどが直接、間接にかかわらず損害を被った場合は、そのすべてを日本側が補償し、また、損害を被らないようにしなければならない。(9条)

◆決めるのはIOC、日本側は「要求できる」だけとは!

その3:大会に関わる財産権はすべて永久にIOCに帰属する。(41条)

その4:IOCは大会が始まった後であったとしても、戦争状態、内乱、ボイコット、国際社会の禁輸措置の対象、その他、大会参加者の安全が、理由の如何に問わず、深刻に脅かされると判断した場合、いつでも本大会を中止する権利を有する。(66条)

その5:本契約の締結日には予見できなかった不当な困難が生じた場合、東京オリンピック組織委員会は合理的な変更を考慮するようにIOCに要求できる。ただし、その変更は本大会、または、IOCのいずれに対しても悪影響を与えないこと。その変更はIOCの裁量に委ねられること、また、IOCは変更への同意などの義務を負わない。(71条)

 かなり日本側が不利であることは間違いないようだ。

◆IOCが開催強行したら、世界を敵に回す?

 さて、まとめてみよう。

 大会の中止の最終決定権が契約上はIOC側にあるのは、どうやら間違いなさそうだ。しかし、中止を日本側から申しでることは可能のはずである。それをIOCが受け入れて中止を決定すればいいだけの話だ。
 IOCは、開催の可否について、WHO(世界保健機構)の勧告に従うというが、それはIOC主導の大会中止のケースだろう。未だ世界の感染者が増え続けている状況の下、日本側から中止の提案をすることは理に叶っている。

 最悪の場合は、IOCが合意しないまま、日本から一方的な開催中止をする場合だ。その場合は、契約に基づく、追加的な損害負担を求められることは多いに有り得るだろう。

 しかし、その場合であったとしても、国際世論が全面的にIOC側につくとは考えられない。何しろ、すでに欧米の主要メディアから、この夏の東京大会の中止を勧告する記事が相次いでいる。これが世界の世論なのだ。

 万が一IOCと日本側が係争状態になったとしても、新型コロナウィルスで生じた中止に対して莫大な損害請求をするようなことはIOCも難しいだろう。それでなくても費用がかかりすぎだと開催に立候補する都市が減っているからだ。さらに国際的な司法の場で争ったとしても一方的に日本側が負けるとも思えない。

◆スポンサーが賠償請求するとは限らない

 また、万が一日本側が莫大な損害金を請求され支払うことになったとしても、政府は昨年度の予備費だけで9兆円のコロナ関係の予算を組んでいた。数千億円の出費を国民の命と健康を守り、コロナ対策に専念するためのものだ、と説明すれば多くの国民が納得してくれると思うのだ。

 いったい、どのような損害が考えられるだろうか。

 オリンピックと金でよく言われるのが、アメリカのテレビ放映権料だろう。その莫大な放映権料のために、アメリカで人気のある競技はアメリカのゴールデンタイムに合わせて実施されると言われる。実際どのくらいの費用をアメリカのテレビ局は払っているのだろうか?

 東京大会の放映権を獲得しているのはNBCで、実は夏冬4大会分の放映権をまとめて獲得していて、東京大会がその最後のものになる。金額は44億ドル(約4840億円)だ。単純に考えると1大会1200億円というわけだ。もちろん、この金額がすべてIOCのものになるわけではなく、800億円ほどは東京オリンピック組織委員会に分配されると言われる。

 また、日本国内スポンサーは68社あり、2020年大会に向けて3700億円のスポンサー料を払って(一部は物品提供)おり、昨年7月には1年延期になったことによる220億円の追加負担にも応じている。これに加えてインターナショナルなスポンサーも絡んではくる。しかし、いずれもすでに広報活動は数年に渡って行われており、たとえ東京大会が中止になったとしても、その全額を日本側に返還請求されることはないだろう。

 いずれにせよ、国民の命と健康を守ることから考えると大した請求額ではないと言えるのではないだろうか。

◆去年の時点で「2年延期」と交渉していれば…

 返す返す残念なことがある。それは、昨年の政治の判断ミスだ。

 昨年の3月に日本側から2020年のオリンピックの延期を求めた時に、IOCはすんなりと受け入れた。ポイント5つ目にあげたように、コロナで東京オリンピックの契約締結時には予見できなかった不当な困難が生じたので合理的な変更を申し出たということに当たるからだ。

 2020年3月24日。その日、当時の安倍首相はバッハ会長と電話で1年延期でほぼ決めてしまった。その時に、延期を1年でなく、2年としておけば、つまり、2022年夏への延期にしておけば、日本国内のワクチン接種も流石に終わっているだろうし、諸外国、少なくとも主要国の多くの感染も落ち着いていたのでは無いだろうか。

 2022年7月であれば、それこそ人類がコロナウィルスに打ち勝った証としてのオリンピック大会になったのにと思うと重ね重ね残念だ。

◆今でも、日本人の4割が「今年か来年以降にやりたい」

 最新の世論調査(読売新聞5月10日発表)によると、東京五輪の開催について「開催」は39%、「中止」は59%となっている。実は開催の是非に関する世論調査の設問がここ最近、微妙に変わってきている。

 以前は、開催、延期、中止という設問が多かったのだが、観客を入れての開催、無観客での開催、中止というものに変わってきているのだ。

 世論調査の手法でこの設問に変更すると開催志向の数字が伸びるとされる。読売の結果も、実は「無観客」23%、「観客数を制限して」16%で二つの合計で「開催」が39%だ。

 1ヶ月前の世論調査(産経・FNN合同世論調査4月19日発表)では、「開催」24%、「中止」57%、「再延期」18%である。開催と再延期を合計すると42%。すでに大阪が医療崩壊状態になり、3度目の緊急事態宣言発令がほぼ決定されていた頃でも、これほど多くの国民が(今年か、今年でなくても)日本でオリンピックを見たいとしている。

◆なんとか「再延期の要求」はできないものか

 コロナの感染が収まっていない状態では、心の底から「池江頑張れ!日本頑張れ!」と叫べない。いつ選手に感染者が出ないか、今日の日本の感染者は何人だろうと心配しながらのオリンピックも真っ平御免だ。

 私は、何とかウルトラCの展開で、もう一度、もう1年の再延期を勝ち取って、あと1年は国民の命と健康を守り、コロナ対策に専念し、楽しいオリンピックが2022年夏には待っている。そういう決着になってくれないものかと心から祈ってる。それが2年半前に85%もの東京オリンピック開催を是としていた日本の本音だと思うからだ。

<文/佐藤治彦>

【佐藤治彦】
経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『年収300万~700万円 普通の人がケチらず貯まるお金の話』、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』、『しあわせとお金の距離について』など多数 twitter:@SatoHaruhiko

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