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自衛隊員へのワクチン接種は進んでいるのか?/自衛隊の“敵” 第6回 小笠原理恵

日刊SPA! / 2021年8月29日 8時50分

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今年8月に起きた長崎県雲仙市における土砂災害でも、自衛隊が人命救助のため派遣された(自衛隊 大村駐屯地Twitterより)

―[自衛隊の“敵”]―

◆災害派遣で絶え間なく全国各地を飛び回る自衛隊員

 毎年、夏になると豪雨災害が繰り返されています。特にこの10年は「記録的豪雨」や「避難指示」といったニュースの見出しを目にする機会が増え、自衛隊員が災害派遣で投入されるケースが格段に多くなりました。

 この夏、静岡県熱海市で発生した土砂災害では、7月3日から31日の間に延べ9000人以上の隊員が現地入り。8月に入って起きた青森県風間浦村の土砂災害でも、孤立した集落への救援物資輸送のため派遣されました。このほか、河川の氾濫で市街地に水が溢れ出た佐賀県や土砂崩れの起きた佐賀県、さらには、新型コロナウイルスで医療逼迫が起きた沖縄県にも隊員が災害派遣で投入されるなど、自衛隊は絶え間なく出動要請に応えています。

 この結果、自衛隊員のお盆休みは吹っ飛んでしまいそうです。ほとんどの若い独身の自衛隊員は隊舎で集団生活を送っています。職場の人と一緒の休暇では十分にくつろげません。防衛大臣は災害が多発するシーズンが終われば、長期休暇の「代休」が取れるようにご配慮いただきたいと思います。

◆東京2020五輪も自衛隊が“総力戦”でサポート

 2021年度、自衛隊では災害派遣以外でも派遣要請が続いています。東京・大阪に新型コロナワクチン自衛隊大規模接種会場の運用に自衛隊の医官200人と看護官80人が投入されました。この大規模接種は8月23日に閉鎖予定でしたが、急ピッチでワクチン接種を進めなければならないこともあり、1か月の延長が決定。自衛隊の業務に支障が出ることも懸念されるなか、 9月下旬まで任務に当たることとなりました。

 さらに、7月18日からは東京2020五輪・パラリンピックの運営支援で、陸海空の自衛隊から約8500人が派遣されました。オリンピックで開閉会式や授賞式での国旗掲揚、会場警備・医療支援を自衛隊員が担当しています。

◆自衛隊のワクチン接種はどうなっているのか?

 ここで心配なのは、災害派遣やオリンピック支援といった自衛隊の派遣任務での新型コロナ感染の予防体制です。約22万人にいる自衛隊員のうち一部の約1万人程度には先行接種がありましたが、接種はそこから進んでいない状況です。概要を説明すると、まず、自衛隊の医官・看護官・薬剤官等は新型コロナワクチン接種を6月末に完了しました。ついで、緊急搬送に従事する自衛隊の衛生、航空科の隊員も先行接種枠対象となりました。ここまでは「医療関係者枠」のようなものです。

 次に優先枠ではありませんが、5月に米モデルナ製ワクチンの健康調査(いわゆる治験枠)が自衛隊員に割り振られました。この治験枠はR/TJNO(在外邦人輸送担当 Rescue of Japanese Nationals Overseas)など海外での任務に従事するような特定の隊員に配分されました。この数が1万人程度。ただ、自衛隊員は22万人おり、その他の約20万人の隊員は一般接種券の配布を待っての接種になります。

◆自衛隊員はすでにワクチン接種済みという誤解

 自衛隊の大規模接種会場のキャンセルされたワクチンが余ったときは優先的に隊員に接種させるという発表はありましたが、蓋を開けてみればキャンセル数は少なく自衛隊員接種拡大につながるほどではありませんでした。

 自衛隊員はすでに新型コロナワクチン接種済みだと想像している人も多いのではないでしょうか?

 ですが、現段階ではまだ1回目の接種もできていない隊員が多いのが実状です。一般接種枠では、地域格差や職域枠を認めてもらえるかどうかで左右されるため、配属先の地域によって接種速度はまるで違います。。

◆日本以外では軍人のワクチン接種はどうなっている?

 米国の政府関係者には優先接種枠があり、軍人だけでなく核兵器関連や作戦遂行に重要な役割を担う文官にも優先権が付与される場合もあります。

 米国軍人のワクチン接種は個人の判断に拠るため接種拒否も可能でしたが、ワクチンを打たない者がいれば集団感染を防ぎ切れず抑止力に支障が出ると考えられていました。米軍では8月初旬で73%の軍人が1回目の接種を終えています。さらにワクチン接種を推し進めるべく、8月10日にはバイデン大統領がワクチン接種を義務化する方針を打ち出しました。これにより、米軍所属の隊員については9月中旬までにワクチン接種を完了する方針です。

 ロシアでもワクチン接種は軍人優先でした。加えて、ロシアは軍人だけでなく、その家族も含めて9割が接種を完了したとされています。軍人の家族もワクチンを接種していれば、軍のなかで集団免疫を獲得できたに等しく、クラスター感染の心配もありません。軍事行動に出るような非常時に、新型コロナについて頭を悩ませるリスクは激減すると言っていいでしょう。

 医療関係者だけでなく政府関係者や軍人、消防、警察、教師といった優先枠を設けて、国の重要な機能維持のために、諸外国はワクチン接種計画を綿密に組み立てています。

◆自衛隊のワクチン接種状況 現在の戦略は?

 一方、我が国の自衛隊はどうでしょうか?

「隊員は自治体の接種券を待て。でも罹患はするな」

 こんな無理難題なスタンスが、自衛隊の新型コロナ感染症に対する大方針となっています。防衛省も政府も自衛隊員に対して、無責任に「最速の手段で」接種を完了しなさいと言いますが、「口先だけ」の指示でしかありません。すべては各々の隊員の行動に依存しています。国としての対策や戦略は、残念ながらどこにも見て取れません。

 自衛隊も職域接種を希望していますが、接種担当にお願いをしても聞き入れてもらえない場合が多々あります。自衛隊病院などの限られた接種では8月半ばで医療スタッフを除く自衛隊の接種完了者は1~2割くらいに留まります。統一したワクチン接種の戦略がないため、地域差がかなりあります。まさか、自衛隊が自治体接種に割り込みするなんてことはできませんから、「最速の手段で」と言われても何もできません。

 自衛隊員は派遣地では集団活動となります。心配していましたが、やはりオリンピック支援派遣で感染者は発生しました。

◆ワクチン未接種の自衛隊員は「不安材料」になる

 7月20日、陸上自衛隊は、東京2020五輪・パラリンピックの50代支援要員が新型コロナウイルスに感染したと発表しました。東京都は緊急事態宣言も出ており、連日数千人単位の感染者数発表があります。自衛隊のオリンピック支援要員に新型コロナ感染症陽性者が出てしまうリスクはワクチン接種数から考えれば仕方ないことです。陽性者が確認されれば、感染した隊員だけでなく濃厚接触者も隔離監察対象となります。当然、五輪支援にも支障が出ます。

 自衛隊は各地の災害派遣要請に応えていますが、ワクチン未接種はどこの被災地でも支援派遣地でも「不安材料」となります。自衛隊は派遣先に赴く前にせめて1回はワクチンを打つことを推奨していますが、自治体接種で「割り込み」はできないので、ワクチンを接種したくても現時点で方法がありません。

 災害派遣要員は当該地域だけでなく全国から集められています。感染者が出れば派遣先も帰還する地元も不安でしょう。今からでも遅くはありません。自衛隊員に対して、国は優先接種枠を設けて早期の接種をお願いしたいと思います。自衛隊員一人ひとりが国の宝です。ワクチン免疫で守られた自衛隊はその強さで私たちを守ってくれるのですから。

【小笠原理恵】
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot

―[自衛隊の“敵”]―

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