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この総裁選で麻生・安倍の時代は終焉を迎えるか?<元自民党幹事長・山崎拓>

日刊SPA! / 2021年9月28日 8時51分

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◆石破不出馬表明で河野圧勝か?

―― 菅首相は9月3日、自民党総裁選に出馬しないと述べ、事実上の辞任を表明しました。菅退陣をどう受け止めていますか。

山崎拓氏(以下、山崎): もともと菅首相は「パラリンピック直後に解散し、その勢いで総選挙を乗り切り、そのまま総裁選を省略化して再選を果たす」という思惑を抱いていました。ところが、8月の感染爆発で緊急事態宣言の延長に追い込まれ、お膝元の横浜市長選でも惨敗してしまった。その結果、菅首相は完全に求心力を失って解散権も封じられ、総裁選出馬を断念せざるをえなくなったのです。
 菅総理がコロナ対策にベストを尽くしたことは間違いありませんが、国民の理解や納得を得ることはできなかった。その意味では気の毒ですが、説得力に欠けるという点でトップリーダーには適任ではなかったということです。

―― 総裁選は9月17日告示・9月29日投票の日程で行われ、9月8日現在では岸田文雄氏、河野太郎氏、高市早苗氏の3名が出馬の意向を表明しています。(編集部注:その後、16日に野田聖子氏が立候補し、この4名で争われることになった)

山崎 総裁選の焦点は、「誰が新総裁ならば総選挙に勝てるか」ということです。総裁選は議員投票と同時に党員投票を行いますから、国会議員は党員票で優勢な候補に投票する傾向があります。
 現時点では石破茂氏が態度を明らかにしていないため、総裁選のシナリオは二通りあります。すなわち、石破氏が出馬した場合と出馬しなかった場合のシナリオです。

 まず石破氏が出馬した場合は、党員票は石破氏と河野氏で割れ、それゆえ議員投票も割れるでしょう。一方、石破氏が出馬しなかった場合は、候補者の中で最も人気のある河野氏が党員票を独占して圧勝するのではないか。未だに「岸田氏が勝つ」と思っている人もいますが、河野氏に分があるという見方のほうが強いと思います。
 この構図は、森内閣から小泉内閣へ交代した20年前の状況に似ています。2001年当時、参院選を控える中で森内閣は国民の支持を失い、自民党に対する逆風が強まりました。
 そのため森総理は3月に「今年秋の総裁選を繰り上げて実施する」と述べ、事実上の退陣を表明。翌4月の総裁選で国民的人気のある小泉氏が当選し、自民党は7月の参院選で勝利することができました。
 もちろん当時はパンデミックの状況はありませんでしたが、国民の支持を失った総理が退陣を表明する、総裁選で国民的な人気のある候補が勝つ、そして国政選挙で勝利する……という流れは同じです。
 今回の総裁選では「森役」が菅総理、「小泉役」が河野氏になりそうです。森元総理と小泉元総理は同じ派閥の先輩・後輩の関係でしたが、菅総理と河野氏も同じ地元の先輩・後輩の間柄です。この点も似ています。

 注目すべきは、石破氏の役回りです。2001年当時、田中真紀子氏は国民からの人気はありましたが、議員からの支持は少なかった。そのため総裁選への出馬を断念して小泉支持に回り、小泉内閣で重要な地位を占めました。その結果、〝小泉・田中フィーバー〟が起きて、自民党は参院選に勝利したわけです。
 この「田中役」を務める可能性があるのが石破氏です。仮に石破氏が不出馬で河野支持に回り、「河野・石破連合」ができれば、自民党は総選挙を乗り切れます。前回の総選挙は勝ち過ぎましたから、これ以上議席が増えることはありませんが、現状維持か微減で済むはずです。
 2001年の自民党は森総理から小泉総理に交代して参院選で勝利した。2012年の自民党は菅総理から河野総理に交代して衆院選で勝利する。こういう流れが生まれつつあるのかもしれません。

◆石破茂の勝機も十分にあった

―― 河野氏は麻生派ですが、麻生氏は石破氏と対立しています。「河野・石破連合」はありえるのですか。

山崎 石破氏が単に出馬を見送って河野氏を支持するだけならば、河野氏が石破氏を重職に起用することはないのではないかと思います。そのまま自民党の世代交代が一気に進めば、石破氏は〝過去の人〟になる。つまり、石破氏は出馬しなければ、ここで政治生命が終わる可能性があるということです。
 逆に石破氏が出馬すれば、勝機は十分にあります。党員投票・議員投票で過半数を獲得する候補者がいなければ、上位2者で決選投票が行われます。その場合、上位2者を占める可能性があるのは岸田氏、河野氏、石破氏です。石破氏が上位2者に残れば勝算が生まれ、決選投票で敗退しても影響力は残ります。
 たとえ上位2者に残れなくても、河野氏を支持して勝たせることもできます。そうすれば、麻生氏と石破氏が対立していようが、河野氏は石破氏を尊重せざるをえなくなる。総裁選の展開次第では、「河野・石破連合」はありえると思います。
 政治力は戦って勝ち取るものです。負ければ政治力を失いますが、戦わなくても政治力を失います。政治家は何が何でも戦うしかないのです。
 その点、石破氏は淡泊なところがあります。今回、石破派の中には石破氏以外の候補者を支持すべきだという声がありましたが、それでも石破氏は「裏切られた」とは思わず、「自分の不徳の致すところだ」と自戒しているようです。
 こうした態度は人間としては立派ですが、政治家としては失格です。怨念や憎悪、執念は権力闘争で勝ち残り、政治を動かしていく貴重なエネルギー源です。石破氏は負の感情が薄いタイプですが、それで政治家としてのエネルギーに欠けるようなことがあってはなりません。

―― 各派閥もどう動くか分かりません。細田派は岸田支持に傾いていますが、安倍前首相が高市支持を表明したことで分裂(※編集部注:24日に細田博之会長が岸田支持を表明)、麻生派も岸田支持で決まりかけたところ、派内から河野氏が出馬を表明したことで分裂しています(※編集部注:一本化を見送り、岸田・河野両氏の支持)。二階派も河野支持、石破支持で割れているようです。

山崎 当初、安倍氏と麻生氏は岸田氏を擁立し、「2A」支配体制を維持しようと目論んでいました。
 その後、安倍氏は日本会議や神道政治連盟など右派勢力の関係から高市支持に転換しました。しかし高市氏が勝つ可能性はないので、安倍氏の影響力は大きく削がれることになります。
 一方、麻生派には岸田支持の勢力もいますが、麻生氏自身が生き残るためには大半は河野支持に切り替えざるをえないでしょう。それに対して二階派は岸田派、麻生派と対立しているため、石破支持になる可能性があります。
 もっとも石破氏の対応次第で状況は一変します。総裁選の行方は、ひとえに石破氏が出馬するかどうかに懸かっています。

―― 河野政権、石破政権が誕生する可能性がある。

山崎 そうなれば、自民党はガラガラポンで大きく変わるでしょう。若手が多く登用されて、世代交代が一気に進む。安倍、麻生、二階、岸田各氏など従来のボスたちは退場せざるをえなくなると思います。
 ただ、次の政権は短命政権で終わるはずです。長期政権の後は短命政権が続くというのが歴史の法則であり、世代交代で自民党内も流動化するため、しばらくの間は総理総裁の党内基盤が弱い状態が続きます。しかし、これは自民党が生まれ変わるチャンスです。

◆新総裁は国民との信頼関係を重んじよ

―― 新たな総理総裁は何をやるべきだと思いますか。

山崎 いま我が国は「コロナ」と「米中対立」という二つの危機に直面しています。新政権の使命は、これらの危機対応に全力を尽くすことです。国家の危局において、トップリーダーの責任と役割は非常に大きい。
 そもそも菅首相が辞任に追い込まれた最大の原因は、コロナ対策に失敗して民意を失ったからです。しかしコロナ危機は誰も経験したことのない事態であり、誰が首相であっても対応が難しい問題です。諸外国も日本と同じように、対応に苦慮しながら試行錯誤を繰り返しています。
 しかし、そういう状況でも国民をまとめ、政府と国民の信頼関係を維持することはできます。困難な状況でも民心をまとめられること、それこそが非常時のトップリーダーに求められる能力、資質、役割です。
 したがって、本質的な問題は菅政権のコロナ対策がうまくいかなかったことではなく、そういう状況の中で菅首相が国民の心をまとめられなかったことです。新たな総理総裁は、何よりも国民との信頼関係を重んじるべきです。

―― 総裁選の立候補者たちは、トップリーダーに相応しいと思いますか。

山崎 外交・安保は政府の専権事項だと言われますが、外交・安保政策の最終決定者は内閣総理大臣です。特に米中対立の危機に直面する今、総理大臣には外交・安保に関わる知見が求められます。
 その意味で最も経験が豊富なのは、石破氏だと思います。先ほども指摘したようにエネルギーに欠けるところもありますが、防衛大臣の経験もある政界屈指の安保通です。河野氏は外務大臣、防衛大臣の経験がありますが、在任中はトリッキーな言動が多く、危うさが残ります。岸田氏は外務大臣を長く務めましたが、無難な対応に終始するだけで、リーダーシップは期待できそうにない。
 総じて言えば、現代ほど強力なトップリーダーが求められている時代はないが、それに相応しいと太鼓判を押せる人物は、中々見当たらないというのが本音です。

◆自民党は存在意義を問い直せ!

―― かつての自民党には「三角大福中」と言われるように人材が豊富でした。

山崎 もう今の自民党には、そういうキラ星の如き人材がいなくなってしまった。今でも自民党という老舗政党の看板には国民の信頼があるわけですが、実際の人材や統治能力は著しく劣化しているのが実態です。
 自民党を百貨店に例えれば、相変わらず高級百貨店の看板を掲げてはいるが、もはや店内に高級品は見当たらず、実際に売っている商品やサービスはコンビニやスーパーのものと変わらなくなっているのです。
 政府与党の人材不足は、自民党のみならず日本全体の危機です。だから有能な人材を育てるしかないが、もはや政界には「人材を育てる人材」もほとんど見当たらなくなってしまった。この状況は如何ともしがたい。

―― もともと自民党は自主憲法制定を掲げて、自由党と民主党の「保守合同」で誕生した政党です。米ソ冷戦を反映した55年体制の中で、政権を担い続けた自民党は一定の役割を果たしてきました。しかし、米ソ冷戦・55年体制が終結してから30年が経つ今、もはや自民党は耐用年数が過ぎて、歴史的使命を終えたのではないかと思います。いっそ自民党を解党して、現代に対応した新しい政党を作り直すべきではありませんか。

山崎 55年体制は憲法問題を基軸として、「改憲」を掲げる保守政党の自民党と「護憲」を掲げる革新政党の社会党が対峙する政治体制でした。しかし55年体制が崩壊した今、憲法問題はもはや政治の基軸にはなりえず、それゆえ保革の対立も失われました。
 自民党は今でも「改憲」の旗を掲げていますが、本気で改憲を目指す改憲派の議員はほとんどいません。もはや自民党の大勢は、憲法問題に関心がない、もっと言えば憲法問題などどうでもいいという「ノンポリ派」の議員で占められているのです。一方、野党は「リベラル保守」などと言っていますが、保守なのか革新なのか、改憲なのか護憲なのか、まるで分かりません。
 つまり、55年体制が崩壊した結果、政治の基軸や政党の理念が失われ、政治全体が曖昧化してしまったということです。その結果、健全な保守政治は溶けて無くなりつつある。自民党に限らず、日本の政党は自らの存在意義を見直すべき時に来ていると思います。

―― 中曽根元総理は政権の座に就くと、持論の9条改憲を封印しました。自民党は半世紀以上政権を担当しながら、憲法改正を実現できなかった。

山崎 要するに、民意ですよ。中曽根元総理が9条改正を封印したのは、そうしなければ民意が離れて政権が維持できなかったからです。国民の間には、9条を中心とする憲法改正には根強い警戒感、抵抗感がある。そうした民意の流れに、為政者は逆らえないのです。民主主義体制なら、なおさら民意に逆らえない。
 為政者が民意に逆らって自らの意志を押し通そうとすれば、それには強権を発動するしかありません。民意に逆らうとは、究極的には「まつろわぬ民」を抹殺してでも自らの意志を押し通すということです。しかし幸か不幸か、今の日本にそういう凄みのある政治家はいません。

―― 現在は危機の時代です。しかし、本当の危機はコロナ禍や中国の脅威ではなく、危機に対応できる人材がいないということだと思います。

山崎 先ほど人材を「育てる」ことができないと述べましたが、それでも人材が「育つ」ことはありえます。幕末や占領期には、国家の独立を守ると志した有為な人材が全国から多数輩出されました。国家の危局に際会すれば、自ずと使命感を抱いた人材が育ってくるのです。
 我が国は今まさに国家の危局に際会していますが、ここで目覚めて使命感に燃える政治家がどれだけ出てくるか。日本の命運は、その一点に懸かっています。
(9月8日 構成 杉原悠人)

<初出:月刊日本10月号>

【月刊日本】
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

―[月刊日本]―

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