インターネットの情報に癒やされ読書から遠ざかる現代人は「“ノイズ”を受け入れる余裕がない」/『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』書評
日刊SPA! / 2024年5月28日 8時50分
自己啓発書を読むことが、そういった「ノイズ」を消すための読書なのだとしたら、感情を揺さぶる小説や、すぐに答えが提示されない人文書を読むことは「ノイズ」を生む読書ではないか、と著者は言う。後者の読書は、労働のノイズになりうるのだ。
私はこの部分を読んで、目から鱗が落ちる思いだった。昨年末、『鬱の本』の書評で〈映画『花束みたいな恋をした』で私が最も好きなシーンは、学生時代にさまざまなカルチャーや純文学を愛した青年が、社会人になって日々忙殺される中で「パズドラしかやる気しないんだよ!」とキレるところ〉と書いたが、本書の著者もこの部分を何度も引用している。
日々忙殺されていると、心の余裕がどんどんなくなってくる。そんな中で、未知の影響を及ぼしかねない小説などを受け入れるだけの余地はない。全てをすっ飛ばし、今すぐ使える答えを教えてくれる自己啓発書やインターネットの情報に癒やされたことのある社会人は、きっと私だけではないだろう。
著者は最終章で、「働いていても本が読める」社会をつくるにはどうすればよいのかという問いに、一つの結論を提示する。それは一見夢物語のようにも思えるが、同時にそんな邪推を打ち消すほどの切実さと説得力があった。偶然性に満ちたノイズありきの趣味を楽しむために出来ること。著者が導いた答えを、ぜひタイトルに身に覚えのある全ての人に読んでほしい。
キャッチーなタイトルとは裏腹に骨太な文化史ともいえる1冊。図らずも、未知の知識を得ることの純粋な喜びを思い出し、のめり込むように読んだ。冒険する余裕がなくて好みの分野以外の本を気軽に手に取れなくなってしまった私は、「ノイズ」が怖かったのだ。言うなれば、私にとって未知ゆえの脅威であった「歴史」という分野のノイズを大いに盛り込んだ本書を読み終えたとき、私は読書の楽しみを取り戻せたのだと気づく。
評者/市川真意
1991年、大阪府生まれ。ジュンク堂書店池袋本店文芸書担当。好きなジャンルは純文学・哲学・短歌・ノンフィクション。好きな作家は川上未映子さん。本とコスメと犬が大好き
―[書店員の書評]―
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