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殺人未遂逮捕の人気ミュージシャン、自殺願望と「音楽死ね死ね死ね…」。何に追い詰められていたのか

日刊SPA! / 2024年6月5日 8時47分

 代表曲「傷つけど、愛してる。」を聞いて浮かんだのはYOASOBIでした。と言っても、具体的にどこがというわけではなく、曲作りの方法論が同じ。あ、これはボカロだな、という作りなのです。

 どういうことかといえば、一曲にありったけの音節を詰め込んで、誰が一番複雑な割り算を解けたかを競っているような音楽。いわば、そろばん競技みたいなものです。

◆これを作り続けたら疲弊するのは当たり前…?

 たとえば、

<派手な痛み 圧に 酷く 強く 耐えて だけど 全部守るって 覚悟決めた あの日の涙には 嘘なんて 嘘なんて 証明だって出来るから 「出来ないでしょ」 じゃあ正義は何処に在るの?>

という部分。「ぷす」の作曲は、句読点の存在を感じさせることなく、これを歌い手に一息で歌わせるのです。

 しかも、ハイテンポ、めくるめくコードチェンジ、転調。バンド演奏はどのパートもフルボリューム。ストロング系のチューハイをエナジードリンクで割ったテンション。とてもケミカルな味わいがする音楽なのです。

 これを、人の肉声で歌わせるアンバランスこそが、ボカロ系の面白さなのでしょう。「傷つけど、愛してる。」も、その点では成功しています。ジェットコースターのような転調、畳み掛ける符割、おそらくは小室哲哉からくる脈略のないキーチェンジ。

 これらをひとつの曲の中で有機的に機能させるのではなく、むしろ血流を失ったパーツとして分解されたのちに人工的に組み直される。つぎはぎを隠さずに、あえて加工物であることを強調する仕上がり。

 もろい倒錯が生み出す刹那的なスリルは、きわめて現代的なエンターテイメントだと言えるでしょう。

◆アンチからのメールをそのまま曲に

 また炎上上等といった「ぷす」のキャラクターも、SNS時代にマッチしていました。自分のアンチが実名でメールを送ってきたエピソードをそのまま曲にした「フルネームアンチ」は、瞬時に数値化されるリアクションやアテンションが生んだモチーフです。

 曲の長さも1分4秒。出オチこそが音楽である時代の空気をよく理解しています。

◆一瞬の刺激を競い合う時代の病

 しかしながら、これらの要素は頭の回転と小手先の器用さの過当競争で終わります。「ぷす」自身もXに投稿していたように、<毎回同じような音の曲を量産してると視野が狭まって>しまうけれども、今さら別の路線を取りようがなくなってしまった。なぜなら、瞬間的な刺激ばかりを追求してきたために、大局的な本質を熟考することがお留守になってしまったからです。

 これは彼だけではなく、そういう短期的なリターンを期待できるものを求めてきた音楽市場にも、責任の一端はあるのでしょう。

「ぷす」のポストを見ると、いわゆるかまってちゃんだとか、メンヘラ的な傾向があるのかもしれません。また、SNS上でそんなキャラをあえて演じていた部分もあるのでしょう。

 それでも、彼の作る曲からは、たとえアテンション・エコノミーのひとつになってしまっても、音楽に真剣に向き合った人間の焦燥感が垣間見えるのです。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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