Mrs. GREEN APPLEの“新曲MV炎上”騒動。職人気質な歌い手だからこそ…“欠けていた感覚”とは
日刊SPA! / 2024年6月14日 9時0分
◆奥田民生のアルバムレビューで“忘れがたい一文”
しかしながら、問題はそこに中身を詰め込む作業です。考えるべきメッセージはあるのか、繰り返しの再読に耐え得る鍛えられた言葉なのか、そして彼らのファンより上の年齢層にも訴えかける普遍性はあるのか。
これらは、小手先の技術や知識、論理をアップデートしたところで得られる資質ではありません。それは音楽の外にあるもの、常識の話だからです。ものを知っている知らない以前に、当たり前のものとしてわきまえている感覚。聴く人が聴けば、音楽から伝わってくるものなのですね。
奥田民生の『股旅』(1998)というアルバムについて、音楽評論家の北中正和氏が“お年寄りがいたら自然に席をゆずる。そういう当たり前の感覚がある音楽”と評していましたが、それは秀でた技が突出して認識できる状態とは真逆にあると言えるでしょう。
◆手先と頭脳が肥大化する一方で空洞化する魂
その視点から、改めて「コロンブス」騒動を考えると、音楽、表現、学習以前の問題が浮かび上がってきます。大森がどれだけ言葉を並べて釈明しようと、思いついた最初の段階から“これはNGだ”と気付けなかった常識の欠如を覆い隠せはしないからです。
常識=中身のない状態でどれだけ言葉を費やしても、そこに意味は生まれません。<決して差別的な内容にしたい、悲惨な歴史を肯定するものにしたいという意図はありませんでした>、<こちらの意図する物語の展開としては、歴史的時間軸は存在せず、類人猿も人の祖先として描きたかった。>
これらの大森の言葉は、意味がわからないのではなく、そもそも意味がないのです。その状態で着想しているから、悪意も善意もない、冷え切ったジオラマのような映像が出来上がったということなのでしょう。
手先と頭脳が肥大化する一方で、空洞化する魂。Mrs. GREEN APPLEの「コロンブス」は、象徴的な一曲なのだと思います。
<TEXT/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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