「入れ墨で肌をもっと可愛くしたい」“高校を特待生で卒業した女性”が20歳で入れ墨を彫るまで
日刊SPA! / 2024年7月1日 15時53分
皮膚を治すだけならば入れ墨ではなく医療に頼る方法もあったはずだが、氷華さんはかぶりを振る。
「もちろん医療費がいくらかかるかも調べました。でも、『これだけのお金を出すなら、入れ墨彫っちゃったほうが良いじゃん』と思っちゃんですよね。『そこに投資するなら入れ墨の方がいい』と考える癖は、他の部分にもいえることなんです。たとえば、私はバッグもノーブランドのナイロン製でいいんですよ。財布も姉のおさがりだし、洋服もハイブランドなんて買わないんです。食事にも正直そこまで興味がなくて。そういうお金があるなら、入れ墨で肌をもっと可愛くしたいと思うんです」
◆自分の入れ墨をずっと残しておきたい
そんな氷華さんのこれからの展望は何か。「そうですねぇ……」とやや間をおいて、彼女はこんな野望を打ち明けた。
「私が死んだら、皮膚だけは残してほしいなと思っていますね。どこかに寄贈するのもいいかもしれないし、とにかく保存したいんです。私の皮膚は私だけのものではなく、彫師さんの魂の結晶が宿っているので、それを多くの人たちに伝えたいと思っています。入れ墨は多くの場合、入れている人と彫った人が亡くなれば、跡形も残りませんよね。でも私の入れ墨は、ずっと残る形にできればなと思っています」
墨を入れるという行為は、身体と精神の両方に消えない楔を打ち込むようなものだ。背負い込んだ重厚な過去と結びつかない入れ墨はあり得ない。少なくとも、氷華さんに会うまではそう思っていた。
だが彼女は、そうした“想定”を軽やかに超えて、自らが欲する「可愛い」に全力を傾ける。身体の余白を自由帳のように広げ、好きな絵柄を無邪気に描き足していく。ただ好きなものに囲まれていたいだけ――幼少期に感じた肌への違和感から、決して脱げない着衣を纏った氷華さんは、今たしかに幸せな笑みをたたえている。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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