“外見に自信がなかった”女性が、身体改造にハマった理由「人間として見られたくない」
日刊SPA! / 2024年7月13日 8時54分
人間としてのカテゴリーから外れ、自由になる。そうすると不思議なことに、Mari氏は個として見られるようになったという。
「もちろん、現実には自分が40歳を過ぎた女性で、人間であることも理解していますよ。ただ、気持ちのうえでそうしたものから解き放たれたとき、人生がぐっと楽しくなったんですよね。
たとえば、これは身体改造とは無関係だと思いますが、私には性欲がありません。恋愛をしたいと思ったこともないんです。私にとって最も大切なのは自分を表現する活動です。それを理解してくれない人とは距離をおけるようにもなりました。我慢してその場所や人にしがみつくことがないから、気持ちを楽にして生きられるのだと思います」
◆働きながら「自分の好きなように身体改造した」からこそ
日本においては刺青をはじめとする身体改造に否定的な向きも多い。「親にもらった大事な身体をそんなふうにして」という声も根強い。だがMari氏は、会社勤めの立場から、こんな考え方もあるのではないかと明かしてくれた。
「確かに、褒められた行為ではないでしょうね。しかし、現代のストレスフルな社会で生きている人の多くは、会社に隷属しながら理不尽な仕打ちにも我慢して、身体を犠牲にしながら働いていますよね。それで飲みの席で多くのアルコールを摂取してくだを巻く……というパターンは珍しくない。社会で“まとも”と言われる社会人が、身体にいいことをしているわけでもないのは自明です。
働きながら自分の好きなように身体改造をして、ストレスに感じる原因を切り捨てて居心地のいい空間を開拓してきた私からすると、身体を粗末にしているかどうかは必ずしも“外見”ではわからないのではないかなと思うこともあるんです」
◆かつての自分のように悩む人のヒントになれば
Mari氏がこうした表現活動を続けていく理由は何か。
「私は幼少期から『自分が存在する意味がわからない』と思って生きてきました。勉強も運動もできず、デブでメガネでブスで、父親や教師からも邪険にされる。しかも友達もいないなんて、この世界に居場所ないじゃないですか。
でも服とか靴のレベルではなく、いっそのこと自分の身体ごと変えてしまったら、違う何者かになれたんです。周囲からは『たかが見た目で大袈裟だ』と言われ続けてきました。でも、初めて『自分が生きていていいんだな』と思える世界に巡り会えたんです。
今もおそらく、そういう思いをしている子たちがいるのではないかと思っています。そういう子たちが、人や場所などの“他力”に依存して生きるのではなく、“自分ごと”に没頭することで人生が好転すればいいなと思っています。私の体験をお話することで、何かヒントになればと思って活動を続けているんです」
外見によって苦しめられてきた少女が、ルッキズムの序列から逃れるために外見を変えた。それは皮肉にも聞こえる。だが生死のはざまで選択し得た、ほぼ唯一の手だったともいえる。
世界中から嫌われ苦しんでも、別のものに変身することでまたこの世界に「好き」を見つけることができる。取り立てて誇るべきもののない、埋没して嘲笑され思い悩む者たちのためにこそ、Mari氏は歌って舞う。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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