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「誰もが“無自覚な加害”をしている可能性がある」ハラスメントを題材に“今”を描いた小説/『ブルーマリッジ』書評

日刊SPA! / 2024年7月23日 8時50分

 しかし著者であるカツセは、あくまでも被害者の側に立ち、守など登場人物を介して心の痛みに丁寧に寄り添い、被害者の女性へ言葉をかける。

「傷ついた事実は、噓にしなくていい」
「耐える必要もないものを耐えてきたのは、環境のせい」

 その上で、カツセと読者は共に、被害者の女性から返ってくる感情を静かに待つ。そしてやっと吐き出された言葉に対して、解決方法は何かと考える 。加害を認め、謝ったとしても、被害者にとって相手からの謝罪は、自身に永遠に効く魔法の薬ではないはずだ。では加害者は次にどういった行動を取ればいいのか。カツセは守と土方やその周囲を通して冷静に探っていく。

 全ての人間が支持する傷が癒える方法は、すぐには見つからない。だが与えてしまった罪を悔いて考えを改めることで、より良い方向へと変化して、自らを戒めながら前に進むことはできないだろうか。私はそんなメッセージを『ブルーマリッジ』から受け取った。『明け方の若者たち』『夜行秘密』は20代前半を中心とした登場人物たちが、つかの間の幸福を逃した後悔と失敗の感情に苛まれながら、自分らしい生き方を見つけようと努力する作品だった。『ブルーマリッジ』も登場人物がこの二作と同じように悩み、ハラスメントや結婚、家庭に失望しながらも、性差や環境の違いを思いやり、未来へ向かう希望の物語だと強く思うのだ。

 改めてカツセは、生きづらく感じている人々と、目まぐるしく価値観が変化する時代に、常に寄り添ってきたフェアな小説家だと思う。また犯した過ちやどうにもならない苦しみを他者や社会へどう伝えるのか。その感情を言葉にしてどう表現しようかと、日々努力しているのではないだろうか。
 カツセと読者の言葉と物語のキャッチボールは、これからもまだまだ続く。そうしてお互いに課題を共有し考えながら、みんなにとってのより良い生活をどう実現できるのか。人の傷から生まれる葛藤と罪からの赦しを、被害者と加害者の両方の視点から描き切った『ブルーマリッジ』が、今の時代の刊行された意義はとても大きいはずだ。

評者/山本 亮
1977年、埼玉県生まれ。渋谷スクランブル交差点入口にある大盛堂書店に勤務する書店員。2F売場担当。好きな本のジャンルは小説やノンフィクションなど。好きな言葉は「起きて半畳、寝て一畳」

―[書店員の書評]―

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