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「般若心経の刺青」を入れた女性が歩んだ“過酷すぎる”人生「普通の生活に戻れないことはわかっている」

日刊SPA! / 2024年8月11日 15時54分

◆「生きたい」と思い、写経に打ち込むように

 だが、まごみさんは生き残った。

「当然、骨は複雑に折れていて、右半身には麻痺が残っていました。医師からは『もう動かなくなるかもしれない』なんて言われて。そのとき、『人生なんだったんだろう、私って“生ゴミ”みたいなもんだな』って思ったんです。それで、『まごみ』を名乗るようになりました」

 生き残ったことによって、まごみさんの奥底からある思いが頭をもたげてきた。

「皮肉なもので、身体が思うように動かなくなって初めて『生きたい』と思ったんです。リハビリにも精を出しました。もっとも熱心に打ち込んだのは、写経です。般若心経を無心で紙に書きました。それだけで心が静まっていったんですが、そのうち、般若心経に書かれている内容を勉強したいと思って調べました。そこで得た価値観に魅せられて、より一層『生きよう』と思えました」

◆右腕に「般若心経の刺青」を入れ…

 そう言って見せたまごみさんの右腕には、般若心経が並んでいる。自殺未遂の直後に入れたというその刺青を愛おしそうに撫でながら、まごみさんは言った。

「人生に悩むことは誰にでもあると思います。でも、般若心経を学ぶと、あらゆる悩みの受け止め方を自分のなかに落とし込むことができます。どんなに深く傷を負ったとしてもいつかは立ち直れる日が来るんだと、そう思えるんです」

 現在、Barの従業員として日々多くの悩める客と話すというまごみさん。自らの人生をオープンにすることで、さまざまな人にこんなエールを送っている。

「私みたいな“ド底辺”の生活をしてきた人間ですら、その気になったら働いて日本経済を回す一助を担えます。身体中に刺青を入れて、およそ社会人にはみえない身なりですが、ありがたいことに、誰かしらの役に立つことくらいは可能なんです。どれほど八方塞がりにみえても、必ず糸口はあります。死のうとした私が言うのも変ですが、誰であっても、自らの人生を閉じる選択肢をしないでほしいなとは感じます」

◆「普通の生活に戻れない」ことはわかっている

「たまに『そんなに刺青を入れて、もう普通の生活に戻れない』というお叱りの声もいただくのですが、それは入れた本人が一番よくわかっているんですよね(笑)。それでも、刺青を入れることで何とか生き延びてきたんです。そして今、私の姿をみて『こんな感じでも楽しそうに生きてるんだ』って思ってくれる人がひとりでもいれば、私は全力でガッツポーズをします」

 心温かい、慈しみ深い、愛情豊かなど、まごみさんを語るうえでそれっぽい美辞麗句は簡単に浮かぶ。だが彼女の最大の魅力は、自らの暗い過去さえ進んで万人の踏み台として差し出す気前の良さだろう。そこに誰もが身を委ねたくなる豪胆さが宿る。

 筆舌しがたい辛酸を舐めたからこそ、似た状況で喘ぐ者たちへの言葉が説得力を帯びる。「こんな私でも生きてるんだから、もう少しこの世界に一緒にいようよ」。柔和で朗らかな、それでいて生きることに貪欲なまごみさんの魂の呼びかけに、世界が呼応するといい。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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