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『先生の白い嘘』騒動で露呈した“認識不足”。人気ドラマでも“茶化したような描写”が

日刊SPA! / 2024年8月17日 8時53分

誤解を恐れずに言うなら、インティマシー・コーディネーターの存在によって、濡れ場が撮影される演出空間は開かれ、監督と俳優のコミュニケーションはより円滑になり、ヘイズ・コード時代のように新しい演出表現が豊かに考案される。それが2017年以降の映像作品すべてに求められる表現力だと思う。

◆監督と俳優の信頼関係だけでは…

そうした表現(演出)向上の観点から考えると、「間に人を入れたくなかったんです」と言う三木監督の演出方針は、やっぱり時代の要請に合わせるべきだった。『先生の白い嘘』の実際の画面から判断するに、監督と俳優の間には率先して介在者がいた方がもっとよかったんじゃないかと思う。

2021年にFODで配信された『東京ラブストーリー』を見ると、第1話冒頭から石橋静河の濡れ場がかなり印象的だが、濡れ場のあと、石橋扮する赤名リカがホテルの窓に写る美しさは三木監督の演出手腕が光る描写だった。同作にインティマシー・コーディネーターのクレジットは確認できないが、より自由な(濡れ場)表現を求めたはずの『先生の白い嘘』よりも演出はうまく抑制されていた。

俳優だってひとりの人間である。親友の婚約者からの性的な支配が、精神を疲弊させる高校教師・原美鈴を演じる奈緒の負担は相当なものだったと容易に想像できる。

俳優にとって演技は最大の職務だが、自分ではない他者の人生を疑似体験しながら一個の表現物に高める苦労はあくまでフィクションの世界での出来事だとしても、演じるキャラクターの人生が壮絶なほど役作り上での想像力が俳優本人の想像を超えて肉体と日常生活にまで深い影響を及ぼすこともあるだろう。美鈴が親友の婚約者・早藤雅巳(風間俊介)から何度も肉体を蹂躙されるごとに、壮絶な濡れ場を繰り返す奈緒自身の心にも潜在的な傷は刻まれる。

俳優の精神的負担が軽減され、監督とより密に濡れ場についての対話を重ねる余裕が生まれ、お互いに納得の上でより親密な濡れ場が撮影される。『先生の白い嘘』のインティマシー・コーディネーター導入問題を一過性の出来事とはせず、日本映画の現場全体の風通しがよくなることが望まれる。

監督と俳優の信頼関係はどこまでも美しい。でもそれだけでは令和の映画作品の現場は頼りないものだと思う。

<TEXT/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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