「自分たちで作った“檻”に自分たちを閉じ込めている」“不寛容な時代”を描いた羽田圭介最新小説/『タブー・トラック』書評
日刊SPA! / 2024年9月10日 8時50分
この物語全体を貫くテーマは「不寛容な空気に包まれた時代の息苦しさ」である。作中、響梧と仲の良かったある俳優がトラブルに巻き込まれ、そのとき所持していた薬が合法ドラッグとしても使用されている薬だったということでバッシングを受け、俳優の仕事を失っていく場面が出てくる。彼は俳優として高い評価を得ており、人格者としても知られていた。それなのに巻き添えのような形で疑いが持たれると、疑いそのものが悪であると言わんばかりに活動休止に追い込まれる。
そのほかにも不倫報道や、問題発言で一緒に働いた同業者が少しずついなくなっていくのを横から見ているうちに、響梧は「今の俺は上にも下にも行けない。内側から湧いてくるものがないのだ」と徐々に仕事への熱量が薄まってきてしまう。心のバランスを取るように、響梧は知人から安く譲ってもらったキャンピングカーを改造し、車内で放送では禁句とされてる用語を一人叫んだり、その車で仲良くなった男性アナウンサーと遊ぶことで心のバランスを取るようになる。
そのキャンピングカーこそがタイトルの「タブー・トラック」。このタブー・トラックが後半の別世界で重要なアイテムになっていく。
読んでてわかる、と思う場面が多かった。誰もが一生懸命生きている。誰もが息苦しい。その価値観が大きく転換する後半世界は破天荒といえば破天荒だが、「なるほど」と思う場面もままあった。令和の私たちが自分たちで作って、そして自分たちを閉じ込めている“檻”をシニカルに描いたこの作品が、読み終わった今もずっと強い異物感として心に残っている。
評者/伊野尾宏之
1974年、東京都生まれ。伊野尾書店店長。よく読むジャンルはノンフィクション。人の心を揺さぶるものをいつも探しています。趣味はプロレス観戦、プロ野球観戦、銭湯めぐり
―[書店員の書評]―
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